☆ 全世界における食糧危機 ―――――――――――― 2008/06/02
by 加瀬英明さん
ーーー日本は国内農業振興のための政策転換を!
日本ではまだ食糧暴動が起っていない。テレビがいっせいに食品が値上げされ
ていると報じているが、「飽食の時代」を象徴する食物番組を相変わらず放映
し、メタボ症候群を取りあげている。
このところ小麦、米、トウモロコシをはじめとする穀物や、大豆の国際価格が
高騰している。
インドネシア、ラオス、フィリピン、中南のハイチ、アフリカのマリ、モザン
ビーク、モロッコ、カメルーン、象牙海岸、セネガル、ブルキナ・ファッソ、
エチオピア、ソマリア、マダガスカルをはじめとして19ヶ国で食糧暴動が発
生している。パキスタンとタイでは食糧倉庫を護るために軍が出動している。
国連は「ワールド・フード・クライシス(世界食糧危機)のためのタスクフォー
ス(担当チーム)」を新設することを発表した。
いったい、アジアや、中米、アフリカの貧しい諸国を襲っているような状況が
日本やヨーロッパ、アメリカなどの豊かな先進諸国にも拡がることになるだろ
うか。
アメリカ、EU=ヨーロッパ共同体諸国)でも、食品価格が軒並みに騰ってい
る。全世界で同じことが進んでいる。ヨーロッパでは、パンの小売価格がこの
1年で数回値上がりした。他の食品もそうだ。国民には焦立たしいことだ。
それにもかかわらず、日本、アメリカ、EUでは、食糧についての危機感がな
い。レストランや食堂、スーパーでは大量の食品が捨てられ、いまだに「飽食
の時代」を謳歌している。
国連の世界食糧機構(FAO)によれば、昨夏以来食品価格は45%上昇した。
それ以前の2年間では、37%上っている。FAOによれば、小麦と米の価格
が昨年中に2倍になったが、さらに上昇し続けると予想している。
FAOは少なくとも37ヶ国が深刻な食糧危機に直面しており、食糧不足から
国内安定を失いかねないと警告している。このところ国際テロリズムの脅威が
唱えられてきたが、食糧危機はそれを上回るものとして恐れられている。
いったい、何がこのような食糧危機をひき起したのだろうか。
たしかに異常気象も一つの要因となっている。主要な穀物生産国であるカナダ
とオーストラリアにおいて旱魃が発生し、アメリカの穀倉地帯が異常な長雨と
冷気に見舞われたことがある。
バイオ燃料が登場した時には、日本でも地球温暖化を防ぐ切り札として好感を
もって迎えられた。
トウモロコシを原料とするバイオエタノールの生産のために、アメリカ、カナ
ダ、ブラジル、アルゼンチナ、東ヨーロッパで、トウモロコシや、大豆、小麦
の広大な畑が転用されたことも、原因としてあげられている。
アメリカでは、バイオ燃料のためのトウモロコシの栽培に、政府補助金が与え
られている。そのために、アメリカのトウモロコシ生産の五分の一がバイオ燃
料に振り替えられてしまっている。
環境問題の世界的な権威として知られるアメリカのアース・ポリシー=地球政
策)研究所長のレスター・ブラウン博士によれば、2億5千万人分の食糧に相
当する農産物が、バイオ燃料を生産するために転用され、アメリカだけで過去
2年間に6千万トンの食糧がバイオ燃料をつくるために失われた。
それでも、FAOは小麦と米の世界生産量は増加して2.6%伸びており、未
曾有の21億6千万トンに達すると予想している。
巨大な人口を擁する中国とインドで、生活水準が急速に上がったために肉類の
消費が増大したことも原因とされている。両国の経済発展によって、食糧だけ
でなく、石油から鉄鉱石、銅、ボーキサイト、希少金属まで国際価格が高騰し
ている。
原油価格が急騰したことも、食糧価格を押し上げている。
原価価格は、9年前には1バレル当たり10ドルだったのが、本稿を書いてい
る現在、130ドルに迫っている。化学肥料が石油からつくられるから、食糧
価格と連動している。
アメリカの住宅金融であるサブプライム・ローンが破綻したために、世界の投
機資金が、不動産や株式から、原材料や穀物相場などの先物投資へ向って「原
材料、食糧価格のバブル」をもたらしたことも、大きな要因としてあげられて
いる。
それでも、食糧価格の高騰が、豊かな先進国よりも、貧しい諸国を直撃してい
るのは、どうしてだろうか。貧困国では、食費が家計に占める比率が高い。
日本やアメリカ、EUでは、低所得層をとっても、食費が家計の20%に達し
ないが、ナイジェリアをとれば70%以上を食糧へ割いている。食糧暴動が発
生している国々では、食費が50%以上を占めている。
だが、これらの貧困国では穀類や、大豆の輸入率は低く、国内の零細農家が供
給している。もともと農業の生産性が低いところに、化学肥料の価格が急騰し
たために農業生産が減少している。生活必需品の値上がりによっていつも苦し
むのは、貧困層なのだ。
尤も、米、小麦、大豆の国際価格がこのところ、かなりの幅で下落している。
タイ米はこの2週間で30%、小麦は3月の最高価から34%、大豆も同じよ
うに下げている。投機資金の相当の部分が、農産品から他の商品へ向かったこ
とを示している。
それでも、穀類や大豆価格がかなり下がるとしても、中国やインドをはじめと
する諸国の経済発展が続こうから、食糧だけでなく原油の高値も続いて行くは
ずである。
穀物や大豆価格が上昇したのには、好ましい側面もある。
日本だけではなく、これまで農業が国際的な競争力を欠いていた諸国において
農業が力を回復することを促すこととなろう。
日本は世界の主要国のなかで、食糧の自給率がもっとも低い。農水省によれば
熱量総合食糧自給率が38%、穀物の自給率が27%(ともに平成18年度)で
しかない。
もっとも、この摂取カロリー総合自給率が38%というのにはトリック――誤
魔化しがある。というのは、この数字には国産の食肉や、卵が含まれている。
牛肉1キロを生産するには、飼料として11キロの穀物を必要とする。日本は
牛、豚、鶏を育てる穀物のすべてを輸入に依存しているから、カロリーの自給
率はもっと大幅に低下することとなる。
国際市場に食糧が豊富にある限りは、カネさえあれば海外から買ってくること
ができる。ーーーだが、地球は異常気象のサイクルに入っているように思われ
る。オーストラリアの旱魃は、もう10年も続いている。ミャンマーは500
年に1度という激しいサイクロンによって襲われた。
そのかたわら、中国、インド、ブラジル、南アフリカ共和国などの経済発展は
やむことがないだろう。
日本は食糧価格が高騰したのを好機としてとらえて、国内の農業を振興するた
めに大胆な政策転換を行うべきである。
= おわり =
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘
▽
この記事は、メルマガ「頂門の一針」より転載させて頂きました。
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘
└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。
|