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インド事報・インド徒然 ―――――― by はぐれ雲さん
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☆ インドに農民工の問題はあるか? ―――――――― 2008/12/05
中国では、億単位の数の農民工対策が大きな問題になっている。ーーー不況期
には、失業問題=貧困・弱者問題が際立ってくる。不況期に限らない中国経済
の構造的問題だろうが…。
中国政府は、大型の公共投資を実施し余剰労働者を吸収する計画を発表した。
中国政府の発表した現在の失業率は4%強だが、実際は10%程度で、この大
きな差は‘数に入っていない農民工’の失業といわれる。中国政府の本質が垣
間見られる発表である。
公共事業の実施が遅れれば、農民工の失業問題は大きな社会問題となるだろう
が、大型公共事業はそう簡単に実施されるものではない。計画実施には時間が
かかる。それなりに準備が必要だろう。世界の景気後退はこれからが本番、
ーーー中国の失業対策は‘時間との戦い’になる。
集団出稼ぎは、高度経済成長期に起きる現象で、1950〜1960年代の日
本も同様であった。不況期には解雇され、実家=農家に帰り、地元でじっと耐
える。低賃金の‘労働予備軍’といわれた所以である。彼等の低賃金が日本の
国際競争力を付ける原動力になっていた。
中国の農民工は、言い換えれば「低賃金労働者」であり「労働予備軍」であり
「企業採算を調整するクッション」でもある。
その人数が膨大であること、不況に陥るスピードが急であること、企業経営者
も中国政府も、社会保障的観念が希薄であること、受け皿となる実家=農村に
職のチャンスがあまりないこと…、ーーー公共事業という青写真を提示したが
これからどのように実施するのか、正に中国の正念場である。
世界不況が長期化する可能性は大きい。
中国政府は‘大丈夫’と強気だが、大丈夫と言えば言う程、実際に苦境に直面
する農民工の不安は募るばかりだろう。
ところで、ある人から「インドでは農民工の問題はあるのか?」と訊かれた。
即座に「ない」と答えた。
実際、インドは高度経済成長の入り口に差し掛かったばかりである。2000
年以降の経済成長を牽引したのはIT産業とサービス産業であり、低賃金労働
力を基盤とする製造業ではない。輸出産業でもない。
経済成長の原動力は若手頭脳技能者であり、地元のサービス業従業員たちであ
る。2006年頃から、インフラ等の固定資本投資、製造業の設備投資が急速
に増加し始めたが、労働者は地元住民が主体である。インドは連邦共和制、州
政府は地元住民の労働機会提供を最優先する。
それ以上に、インドには労働力の流動性が乏しい歴史的背景がある。
インドは独立後、藩を廃し州を設定したが、区分けする基準は「同一言語圏」
と「同一文化圏」を配慮したものであった。
インド政府は、公用語をヒンズー語と決めたが、現在でもヒンズー語を話すイ
ンド人は約30%に過ぎない。その他のインド人は地元の言葉を使う。完全な
外国語である。ーーー州が設定している準公用語と英語を含め、現在インドの
公用語は22種類ある。
比較的多く使われている言語が22種類あるという意味で、実際現在使われて
いる言語数は、方言を含め700〜800種類、歴史的に確認されたインドの
言語数は約2000種類あると言われている。言語の違いは、文化・慣習の違
いであり、信仰する神も異なる場合が多い。
細分化されたサブ・カースト(職業世襲制)の分類方法や規定も、地方によって
微妙に異なると言われている。同言語=同地域出身者のコミュニティーがあり
その結束は固い。
一方、今や共通言語となっている英語の普及率は、地方ではかなり低い。教育
レベルが低いせいもあるだろう。インド全体で英語が流暢に話せる人は精々5
%ぐらいだろうか…。
インドの識字率は65%とされているが、識字率の定義は定かでない。何らか
の言語の読み書きができる者の率だろうが、経済的意味はない。農村の労働力
の移動は、同言語・文化圏に留まりやすい。
だが、GDPの50%以上をサービス産業で占めるインドには‘中国にはない
世界’がある。
例えば「使用人産業」である。
都市に住む富裕者は必ず使用人を使い、使用人専用のクォーターや部屋を備え
ている。計算上は、富裕者1世帯につき、使用人2〜3世帯がクォーター内か
雇用者近辺に住み着いている事になる。
地方から移住して来る者も多い。ニューデリーは北インドから、ムンバイなど
は南インドから流れてくる。
彼等の子弟は都市で教育を受け、都市住民となり潜在的労働者予備軍となる。
彼等は言語の壁を乗り越えて生活している。個人的雇用形態であるので可能な
職業群である。
中国は歴史的に混血促進政策による民族同化、言語・思想の統一統制を国是と
した。中国人は、中国のどこに行っても、言葉には余り不自由しないだろう。
殆どの中国人は標準語が判るだろうし漢字も読める。それが労働力の流動性を
高めているのだろう。ーーー中国の強さであり、怖さであり、リスクである。
逆にインドの場合、混血を防ぐ為にカースト制度が考案された。その結果多様
性に寛容な世界となったといっても良いだろう。多言語・多神教・文化の多様
性は、労働力流動性の視点から見れば弱さである。
だが、人口の都市集中を防ぐ安全弁であり、大衆のエネルギーを分散させ、総
じて政治リスク軽減に役立っている。
製造業が未熟である事が農民工を生み出さない主因であるが、高度経済成長が
進み、就職の機会が増えればどう変わるか判らない。膨大な数の若年労働予備
軍を抱えているのがBRICs理論の核、インドの強みである。
しかし、民主国家であり連邦共和制を基本とするインドは、中国とは異なる道
を歩む事になるだろう。
= この稿おわり =
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