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ラオスからの手紙 ―――――― by 桜ちゃんのパパ
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☆ 蘭ちゃんの日本語 ――――――――――――――― 2007/10/22
蘭ちゃんが以前からお姉ちゃんのことを呼び捨てにすることは気にしていた。
もちろん、姉妹でしゃべる時はラオス語なので、呼び捨ては仕方ないかもしれ
ないけれど。
ある時、「サクラ、サクラ」ではなく「ラララ」と自分の姉を呼んでいる。ど
ういう意味か聞いてみるとサクラでは長過ぎるので短く呼んでいるとか。しか
し、これはあまりにもひど過ぎる。お袋が6月に亡くなったばかりなので、蘭
ちゃんにはきつく注意した。
5人兄弟(姉が3人に兄が1人)の一番下に育った母は、言葉使いにうるさかっ
たように思う。おそらく、祖父が学校の先生で、それも校長先生。徳島で城南
工業高校(いまは短大になったが)という私学を自分で興し、自分の子供にも呼
び捨てでなく、名前のあとにチャンをつけて呼んでいた。
これは、娘や息子が成人して大人になっても一貫して変わらなかったようだ。
こどもは親の所有物ではない、一つの人格があるもの、だから呼び捨ては人格
否定になる。祖父はこのような考えだったと母から聞いていた。
長女の誠子さんは「セイちゃん」
次女の育子さんは「イクちゃん」
長男の吉勝さんは「ヨッちゃん」
末っ子の母、格子は「コウちゃん」
というようにである。
これは徳島の文化なのだろうか。関東に生まれて、50才になって徳島県の山
川町に移住して有機農業をはじめた方の本を読んだことがある。今関知良さん
という方である。「百姓になりたい」という本だが、その中にこんな事が書い
てあった。
山川町の人が集まった時、田舎の人たちのお互いの呼び方だが、半数の人たち
が、お互いに姓ではなく、マーチャン、ヨッチャン、コウチャンなどと、名前
やあだ名にチャンを付けて呼び合っていた。P−200.
母によると、祖父は自分の子供でも呼び捨てにするのを嫌った。これは祖父の
教育者としての愛情と、阿波文化の両方からきているのだろうか。いくら小さ
な子供でも、人格を尊重してあげようとした祖父の教育方針かもしれない。
この、名前やあだ名に「チャン」を付けて呼び合うのは、華僑の家庭でいえば
中国語の「阿」にあたるだろう。これは、親しみをこめて人倫関係を表す語、
または名に冠して用いる中国語である。
たとえば、淑珍を呼ぶ場合、阿を前につけて「阿珍」と呼ぶ。日本語のニュア
ンスは阿波ことばの「チャン」と同じであろう。これはお母さんが娘を呼ぶと
きも使う。実際に10年前に亡くなった玉蘭さん=義理の母)は、淑珍を「阿
珍」と呼んでいたのを記憶している。
実は、母は私のことを、死ぬまで「明ちゃん」と呼んでいた。
そういった家庭、文化で育った人間が、外国に来ていきなり呼び捨てにされた
ら嫌である。16年ラオスに住んでいるが、呼び捨てされるのにはまだ慣れな
い。
自分の母にさえ呼び捨てにされたことのない男が、義理の兄弟姉妹から、それ
も年下の者から呼び捨てにされたらいかに辛いか。そのくせ彼らは、自分たち
同士では阿とか「アーイ(兄さん)」とかつけているのが分かってくると、疎外
感を感じたものだ。
これは文化の問題。何年ラオスに住んでも徳島文化が抜けられない私は、妻に
注意した。その結果、ビエンチャンに住んでいる妻の兄弟に関しては、全員が
「明雄さん」と呼んでくれるようになった。
さて、死ぬまで母から呼び捨てにされたことがない、と書いたが、実はこれは
違う。亡くなる2ヶ月ぐらい前か、あることが原因で母に怒られた。その時に
「明雄!」と呼び捨てにされたのである。
怒られたことはショックではなかったが、呼び捨てにされたことがショックで
あった。今から考えると、すでにその時に母の病状はかなり悪化していたのか
もしれない。わたし自身も、自分の兄を呼び捨てにしてひどく叱られた想い出
がある。
そういった意味で、蘭チャンには自分の姉を「桜ちゃん」と呼んで欲しいので
ある。これは亡くなったお袋の願いでもあるだろう。
義理の母が亡くなった時に、母国語であるベトナム語を、15人いる子供たち
だれも理解できなかった。そんな悲しい思いはしたくない。そう思って娘の桜
チャンには日本語をしっかり勉強して欲しいと思った。
今度は母が亡くなった時である。娘たちには日本の文化を受け継いでもらいた
いと思った。例えばである、英語を勉強していると、アメリカ人のように自分
のことをファースト・ネームで呼んでもらうのが嬉しい人間になってしまいや
すい。
しかし、知らない男からいきなり自分の妻をファースト・ネームで呼ばれたら
どうだろう。また、自分の娘を彼女の男友達がファースト・ネームで呼んでい
るのを聞いたら、あなたはどんな気持ちがするだろうか。
やはり、日本とアメリカの文化は違うと思う。
そういうわけで、姉妹がラオス語で会話するのはいいと思う。だけど父親が日
本人だから、妹は姉を呼ぶときに呼び捨てはやめてもらいたい。何故なら日本
人の子供だから。----他の日本の地方はどうなのだろう、兄弟がお互いを呼ぶ
ときどう呼ぶのだろうか?妹が姉を呼ぶとき、姉が妹を呼ぶとき。
どういうわけか、ラオス人も蘭チャンの名前を呼ぶときは「蘭」ではなく「蘭
ちゃん」になる。
わたしの推測だが、ラオス語でチャンは「月」という意味なので、誤解してい
るのかもしれない。例えばセーン・チャン「月の光」なんていう名前もあるか
ら、「蘭チャン」も「月に関連する何か」だと思っているのかもしれない。
= この稿おわり =
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