国際派日本人養成講座 ――――― by 伊勢雅臣さん
☆ The Globe Now:米中石油冷戦と日本の国策 ―――― 2008/06/29

石油をがぶ飲みする中国が、アメリカの石油覇権に挑戦している

―― 1.石油をめぐる国益のぶつかり合いが激しくなる

ガソリン価格が高騰している。多くのガソリン・スタンドでは1リットル17
0円台を突破し、7月には史上初の180円台が見込まれている。

国際的な原油価格の高騰と、円安のダブルパンチによるものだが、前者は中国
・インドなど新興国の需要増と、石油増産余力の少ないこと、そしてこの需給
ギャップを見込んだ投機資金流入が原因である。投機資金の流れは市場心理や
規制などで変わる可能性があるが、実態としての需給ギャップは構造的・長期
的な問題である。

原油高騰は、家電製品・包装容器等に多用されるプラスチック類、衣類に用い
られる化学繊維など、広範囲の石油化学製品の価格高騰を招く。同時に、ガソ
リン価格の高騰は、輸送費・交通費の上昇に直結し、広範囲に物価を押し上げ
る。

石油は各国経済の土台をなすだけに、石油をめぐる各国の国益のぶつかり合い
は激しさを増すだろう。その象徴が、世界の石油支配を覇権の切り札にしてき
たアメリカと、石油をがぶ飲みして経済発展を続けてきた中国の激突である。

―― 2.加速する石油消費量増加

米国エネルギー省の2005年2月3日付け発表によれば、世界の石油消費量
は現在の一日8200万バレルから、2025年には1億2500万バレルへ
と50%以上増える。

多くの地質学者は、現在の技術では1日の石油産出量は1億バレルがせいぜい
であり、1億2500万バレルを掘り出すには、新しい技術と膨大な資金が必
要だと考えている。

もちろん今後20年の間には、石油採掘技術も進むだろう。問題は、需要増大
のスピードに供給拡大のスピードが追いつくかどうかである。

石油消費量の増加ぶりは、近年加速している。1977年に一日6千万バレル
だった石油消費量が、7千万バレルに到達したのは1995年で18年かかっ
ている。それが8千万バレルになったのは2003年で、8年しかかかってい
ない。さらに9千万バレルに達するには4、5年しかかからない、と専門家は
みている。 [1,p22]

この加速する石油消費量の増加は、主にアメリカと中国によるものである。

―― 3.石油をがぶ飲みする「世界の工場」

中国の石油消費は、2004年時点で日量670万バレル=世界シェア8.3
%)と、米国に次ぐ世界第2位である。前年からの増加は約90万バレルと、
年率15%もの伸びで、同年の世界の消費量増加の36%を占めている。

アメリカの増加量シェアは20%で、二ヶ国で世界の増加量の6割近くを占め
ていることになる。 [2]

問題なのは、中国のエネルギー効率がきわめて悪いことだ。

GDP(国内総生産)100万ドルを産出するのに、中国は1600バレルを必
要としているが、これは米国の約2倍、日本の約4倍もの消費量である。しか
もこのエネルギー効率は近年、それほど改善されていない。

日本のエネルギー効率の高さは、石油ショック以来、現場のきめ細かな改善活
動や省エネ設備の導入などで営々と築き上げてきたもので、一朝一夕に中国が
コピーできるものではない。

中国はその人件費の安さから「世界の工場」として製造業を急速に発展させて
きたが、それはエネルギーをがぶ飲みする極めて効率の悪い「工場」なのであ
る。エネルギー・コストが大幅上昇するにつれて、人件費の安さは相殺され、
中国製造業の国際競争力は失われていくだろう。

それでも中国は今後も石油に頼らざるを得ない。中国のエネルギー源の三分の
二は石炭だが、煤煙を取り除く技術・設備の遅れから大気汚染は深刻な状況と
なっており、これ以上石炭には頼れない。

また、安くて公害の少ない天然ガスは、ガス化装置、輸送パイプライン、貯蔵
施設などの整備がほとんどできておらず、天然ガスへの大規模な転換には、膨
大な投資と時間がかかる。

結局、中国は、経済発展を続けるためには、高い石油のがぶ飲みを続けなけれ
ばならないのである。

―― 4.中東への侵出

その中国は、石油を求めて、世界各地でアメリカとの対決を始めている。イラ
ン、クウェート、サウジアラビアへの接近については[a] で述べたが、ここで
少し補足しておこう。

中国はイランから大量の石油を輸入している。その見返りに、イランに原子力
発電を中心とした核技術の輸出をしている。核兵器やミサイルの技術も売って
いるとCIAは疑っている。

イランの核開発疑惑に対して、2004年に国連の安全保障理事会が現地査察
を含めて干渉しようとした時には、中国は常任理事国の特権を利用してこれを
妨害し、その代償としてイランとの大量の石油取引契約を結んでいる。

中国は同時に、世界最大の石油埋蔵量を誇るサウジアラビアに触手を伸ばして
いる。いつのまにかに国立石油企業サウジ・アラコムの株を20%取得し、共
同でサウジアラビア国内で製油施設を作ることになったという。さらに天然資
源開発のための共同事業を開始した。アメリカが同様な提案をした際には、サ
ウジアラビアは色よい返事をしなかった。

サウジアラビアは親米国であり、アメリカの聖域だと言われていたが、いまや
中国寄りに傾きつつある。その原因は、中国による兵器の供給であると言われ
ている。

イランはイスラム原理主義者たちによる独裁体制であり、サウジアラビアも王
家による独裁下にある。両国が、自由民主主義国家のアメリカよりも、共産党
独裁国家の中国に親しみを感じるのは、体質的にごく自然なことなのである。

アメリカの引き起こしたイラク戦争は失敗だったと言われているが、中東の石
油産出国でアメリカの覇権下にあるのは、イラクとクウェートだけである。フ
セイン体制がまだ続いていたら、中東全域が中国よりの独裁体制になっていた
はずだ。

―― 5.「アメリカの裏庭」中南米へも

南米は「アメリカの裏庭」と言われてきた。アメリカがベネズエラから輸入す
る原油は、日量120万バレル、石油輸入総額の12.4%で、カナダ、サウ
ジアラビアに次いで第3位となっている。

しかし、ベネズエラは世界最大の麻薬密輸国であり、麻薬マフィアが政治も経
済も取り仕切っている。アメリカの情報機関は、チャベス大統領自身も麻薬組
織に関係していると考えている。アメリカは麻薬コネクションを野放しにして
いるチャベス大統領を許せないと考えている。

ベネズエラ国内では、反大統領派が勢力を広げて内戦状態が長く続いているが
アメリカは反体制派を助け、軍事力で介入する姿勢をとり続けてきた。

こうしたアメリカとベネズエラとの確執を見て、中国はすかさず間に入ってき
た。2005年、中国の石油会社がベネズエラ国内で油田を開発し、製油施設
を建設するという契約をチャベス大統領と結んだ。そこから一日12万バレル
を中国へ輸出するというのである。

しかし中国のタンカーは大きすぎてパナマ運河を通れない。そこでコロンビア
の太平洋側の港まで石油パイプを敷設する契約をコロンビア政府と結んだ。

同時に、中国はもともと共産主義者であるカストロ政権と契約し、キューバで
の製油業に乗り出すことになった。また、腐敗したエクアドル政府とも契約し
て、石油採掘を行うこととした。

さらに、民主主義勢力を弾圧しているペルー政府とも覚書を締結し、石油・天
然ガス建設についての技術援助と資金提供を申し出ている。

こうして見ると、中国は中南米の腐敗した政府を支援することによって石油を
手に入れようとしているのである。

―― 6.スーダン独裁政府の陰のパトロン

中国が独裁国家に接近して石油を得ようとする動きはアフリカでも見られる。

中国が輸入する石油の7%がスーダンから来ている。中国は、積極的にスーダ
ンでの油田開発に協力し、パイプライン建設に多大な資本投下を行っている。
紅海に至る1400キロのパイプライン建設では、この工事に投資しただけで
なく、労働者を装った兵士を多数投入している。

スーダンではこの20年間、内戦が続いており、大量虐殺も起こしている。そ
のスーダン政府に中国は武器を売り、それと引き換えに石油を輸入しているの
である。

2004年9月、国連の安全保障理事会は、スーダン政府が凶悪な軍事勢力を
支援することをやめない場合には経済制裁を行うと決議した。アメリカの議会
関係者の情報によれば、中国はスーダン政府などに対して、「--常任理事国と
しての--拒否権を使って(経済制裁の)国連決議をつぶしてしまうから」と述べ
て、見返りに石油の提供を求めている、という。

スーダン政府の国民虐殺は世界中から非難されているが、その陰のパトロンに
なっているのが中国なのである。欧米諸国を中心に、北京オリンピック・ボイ
コットの声が上がっているのは、このためである。

―― 7.中央アジアを「中国のエネルギー供給基地」とする戦略

中国は中央アジアでも暗躍している。カザフスタンとウズベキスタンは石油資
源、天然ガスに恵まれた地帯である。両国にはアフガニスタンなどから潜入し
たイスラム過激派アルカイダが政府転覆を謀っているといわれ、

そのため従来、両国はアメリカのテロリストとの戦いに協力し、同時に石油や
天然ガスを輸出する約束をしていたのだが、そこに中国が介入したのである。

中国は、カザフスタンとは戦略同盟協定を結び、中国への石油と天然ガスのパ
イプラインを作る構想を推し進めている。

ウズベキスタンは、アフガニスタンへの攻撃用にアメリカの空軍基地を作らせ
ることに同意していた。だが、2005年5月、ウズベキスタンのイスラム・
カリモフ大統領が、民主選挙を求めて立ち上がった民衆数百人を虐殺した事か
ら、アメリカとの関係がこじれていく。これはアメリカ側が親米的な民主政府
を作ろうとする工作であった、と言われている。 [a]

アメリカはじめ世界各国はカリモフ大統領を非難し国際的な調査を要求した。
ところが中国は、直ちにカリモフ大統領を支持し、民衆虐殺をテロリストに対
する戦いとして、国際的な調査に反対する声明を発表した。

その数日後、ウズベキスタンから中国に、約6億ドルのエネルギーを提供する
という条約が結ばれたのである。

中央アジアからアメリカを追い出し、「中国へのエネルギー供給基地」とする
戦略は着々と成功しつつある。

―― 8.米中石油冷戦が始まっている

こうして見ると、中国が中東、南米、アフリカ、中央アジアなどの独裁政権に
接近し、武器を与え、国連常任理事国としての庇護を提供して、見返りに石油
を購入するという明確な戦略が見て取れる。それはアメリカの世界戦略へのあ
からさまな挑戦なのである。

2005年7月21日、22日にわたって、アメリカの上下両院合同で、中国
のエネルギー政策に関する公聴会が開かれた。

中国のCNOOC(中国海洋石油公司)による、アメリカの石油企業ウノカル買
収の動きが表面化し、米議会は、これを中国によるアメリカのエネルギー戦略
への挑戦と激怒して、この日の公聴会となったのである。

この公聴会では、エネルギー専門家が上述のような事実を報告した。それらの
意見をまとめると次のような結論となる。 [1,p17]
┌--------
・中国は、世界各地で石油を確保する努力を続けている。石油をめぐって世界
 のあらゆる地点でアメリカと対決を始めている。

・中国が、海軍力をはじめ、核戦力を強化しているのは、将来起きる石油危機
 に備えてアメリカと対決しても石油を確保したいと考えているからである。
└--------

石油を巡る米中の冷戦がすでに始まっているのである。

―― 9.「危機」を「好機」に変える国策

迫りくるエネルギー危機、および、それを前にした米中石油冷戦に、わが国は
いかに対応すべきか。日米同盟を基軸として、中国の膨張政策に歯止めをかけ
る事が、当面の戦略であろう。

さらに「危機」を「好機」に変え、国家の繁栄と独立、そして世界の平和と安
定を守るための国策がある。ーーー代替エネルギーの開発である。太陽光発電
・燃料電池・電気自動車など、石油に依存しないエネルギー開発で日本は世界
をリードしている。

また、日本近海に大量に存在する「燃える氷」メタン・ハイドレートは、現在
の天然ガス消費量の百年分はあるとされる。[b] さらに海藻類や糞尿・下水道
汚泥、食品廃棄物などをバイオガスとして再利用するリサイクル技術の開発も
進んでいる。 [c]

こうした代替エネルギー利用のネックは、石油対比のコスト高にあるが、技術
進歩によるコスト低下と原油価格の急騰によって、急速に実用的な水準に近づ
いていくだろう。

わが国が高価な石油に依存せず、地球環境にも優しい次世代エネルギー技術を
確立できた時、効率の悪い高価な石油エネルギーを使い、公害をまき散らしな
がら生産と消費を続けざるを得ない国々は一挙に国際競争力を失ってしまう。

米国の石油覇権、および中国が世界的に展開している原油開発投資は意味を失
い、米中石油冷戦も雲散霧消してしまうだろう。

                  (文責:伊勢雅臣) = おわり =
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘
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 関連リンク:
a.JOG(515) 石油で読み解く覇権争い
  北野幸伯著『中国・ロシア同盟がアメリカを滅ぼす日』を読む

b.Wing(1337) 先端技術でエネルギー安全保障

c.Wing(1124) 世界を江戸化するバイオマス活用技術

 参考書籍:(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1.日高義樹『米中石油戦争がはじまった』★★★ PHP研究所H18

2.UFJ総合研究所「中国ビジネスレポート No.31 世界第2位の石油消
  費国・中国の石油事情」

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