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国際派日本人養成講座 ――――― by 伊勢雅臣さん |
☆ 国柄探訪:日米中の組織文化 ―――――――――― 2008/06/01
グローバル競争を勝ち抜くには、自分の個性を強みとして発揮していく戦略性
が必要。
―― 1.ヒラリーの個別指示
あるアメリカの会社で、大勢の顧客を招待してパーティを開くことになった。
総務部長のヒラリーは、10人ほどの部下を使って、その準備にかかった。さ
すがエリート社員として将来を属目されている才女ヒラリーである。てきぱき
と10人の部下にそれぞれの仕事を命じていく。
┌--------
ビル、あなたは今からあの酒屋に行って、缶ビール6ケースとワイン12本を
買ってきて。予算は200ドル以内にね。1時間ほどで済むでしょうから帰っ
てきたら、会場設営をジョージと一緒にやって、、、
└--------
命令された10人の部下は、一斉に仕事に取りかかった。他の人が何をしよう
と関係なく、一人ひとりがヒラリーの命令を全うすれば、パーティの準備は滞
りなく進められるのだ。
しかし、それでも予想外の事が起こる。ビルは酒屋に行ったが、予算が200
ドルでは足りそうもないと知り、ヒラリーに電話してどうしたら良いか、新た
な指示を求めてきた。ヒラリーは、別の店をあたって、何とか200ドル以内
で済まないか、チェックするよう命じた。
「ビルは相変わらず気が利かないわね。次回の査定ではもう一ランク落とそう
かしら。それで、自分から辞めてくれるなら好都合だけど」とヒラリーは考え
ながら、携帯電話を切った。
―― 2.胡夫人の「差不多[チャープドゥオ]=だいたいこんな感じ」
上海近郊の中企業のオーナー社長である胡さんは、社員全員を招待して、年間
売上達成の祝賀会を開くことを決め、その準備を夫人に頼んだ。胡夫人は同社
の総務部長でもある。
胡夫人はしっかり者の上海女性を何人か選び、買い物や会場の準備を命じた。
その中には経理部の温さんもいた。胡夫人お気に入りのやり手女性の一人だ。
別の部のスタッフを勝手に使うことは本当なら越権行為なのだが、オーナー夫
人の意向には、経理部長も文句は言えない。
┌--------
温さん、あなたはどこかでオードブルをみつくろって買ってきて。見栄えが良
くて、たくさんあるのをなるべく安くお願いね。
└--------
胡夫人の命令は、中国語で「差不多[チャープドゥオ]=だいたいこんな感じ」
というように、大雑把で適当だ。ただし、目的意識は非常に明確である。
温さんは、行きつけの店で20分ほど激しい値切り交渉をした後、近くの別の
企業で働いている夫を携帯電話で呼び出し、大量のオードブルを運ばせた。
それを見た胡夫人は「温さん、さすがね。もっと重要な仕事を任せても良い頃
ね」と皆の前で褒めた。それを聞いていた経理部長は、そろそろ自分の首も危
ないかな、転職先を探し始めよう、と思った。
―― 3.部下たちのチームワーク
東京にある中堅貿易商社の総務部長・福田氏は、あまり自分の意見を出さない
人だった。来社するインド人バイヤーたちの歓迎会の設営で、福田部長が部下
たちに指示したのは、「インドのお客さんに失礼のないよう、心の籠もった歓
迎会にしてください」ということだけだった。
部下たちは早速ミーティングを開いてどんな形の歓迎会にするか話し合った。
式次第やアルコール、料理の内容が決まると、それぞれ分担を決めて、準備に
入った。
デパートの地下に焼き鳥を買いに行ったA君は、おいしそうなタンドリー・チ
キンが特売されているのを見つけたので、当初案から変更した。これは結構辛
いので、ビールの消費量が増えるだろうと考え、アルコール仕入れ担当のB君
に携帯電話でその旨、連絡した。B君はビールを増やした分、ワインの本数を
減らした。
A君が買い物を終えて社に戻ると、会場の設営が予定より遅れていたので、す
ぐに手伝い始めた。
―― 4.モジュール型、ネットワーク型、擦り合わせ型
以上、似たような設定で、アメリカ人、中国人、日本人が組織としてどう働く
か、というケース・スタディをしてみた。
アメリカ人の組織は「モジュール型」である。一人ひとりが組織を構成するモ
ジュールであり、ボスから個別指示が与えられる。各モジュールは同僚のこと
など考えなくとも、それぞれがボスの指示をきちんと遂行していれば良い。あ
るモジュールの動きが悪ければ、比較的簡単に取り替えることができる。
中国人の組織は「ネットワーク型」と言えよう。会社の部課といった公的な組
織とは別に、個人どうしのネットワークがあり、そのネットワークを通じて仕
事がなされる。このネットワークを中国語では「圏子[チュエンツ]」と呼ぶ。
日本人の組織は「擦り合わせ型」である。構成員どうしで自発的な擦り合わせ
をして、助け合い、補完し合って、全体の仕事が進む。
このように、世界にはいろいろな組織文化があるが、グローバル化の時代には
異文化の接触機会が増えて、文化間の摩擦が起こる。日本企業に就職したアメ
リカ人が「モジュール型」で仕事をしていると、「擦り合わせ」を当たり前と
する日本人から見れば、「あいつは言われたことしかやらない」と不満が昂じ
る。
また、日本企業で働く中国人が「圏子」のボスのほうばかりを見て仕事をして
いると、「あいつはごますりばかりで、皆と力を合わせない」などという批判
が起こる。
―― 5.アメリカ人の「アップ・オア・アウト(昇進か、転職か)」
次に、日米中それぞれの組織文化の中で、人々はどのようなキャリアを理想と
しているのか、『鷲の人、龍の人、桜の人米中日のビジネス行動原理』[1] に
紹介されている実例で見てみよう。
アメリカ人のジョン・ケリー(仮名)は、カリフォルニア工科大学でコンピュー
ター・サイエンスの学位をとり、IBMに入社した。仕事自体は面白かったが
技術者よりもマネジメントの仕事をしたいと思い、数年で辞めて東海岸のエー
ル大学でMBA=経営学修士)をとった。
その後、ヘッドハンターの紹介でエクソンに入社し、住居も東海岸からテキサ
スのヒューストンに移した。エクソンは一流企業で優れた人材も多く、ここで
はそんなに昇進できないと思い始めた頃、再びヘッドハンターから、カリフォ
ルニアのシリコン・バレーにあるハイテク・ベンチャーが技術部長を探してい
る、という情報がもたらされた。
聞いたこともない小企業でジョンはちょっと迷ったが、転職を決意した。33
歳の時である。
そのベンチャー企業は50人程度の規模だったが、M&A(合併と買収)を繰り
返して、5年も経たないうちに3千人を超える企業に成長した。ジョン自身も
1千人の部下を持つ幹部に昇進した。
そして38歳の時に、別のソフトウェア・ベンチャー企業の社長に就任した。
おりしもバブル崩壊と同時多発テロ事件で「社長20年分の経験をした」が、
それを乗り切って、今では自信に満ちた日々を送っている。 [1,p112]
アメリカ人のキャリア観は、「アップ・オア・アウト(昇進か、転職か)」とい
う一言で表される。一つの会社で昇進が望めなければ、別の会社に移って、あ
くまで自分の才能を生かせる場を求める。組織自体がモジュール型であるから
転職もやりやすい。逆にいえば、従業員の頻繁な転職に備えて、モジュール型
になっている、とも言えよう。
―― 6.中国人のリスク分散
中国人のマギー・ウーさん(女性、仮名)は、上海交通大学の工学部の出身であ
る。ウーさんのお父さんは学校の教師だったが、文化大革命の時に奥地に追放
された経験を持つ。
それでも、学歴こそが世渡りの武器であると、ウーさんは小さい頃からよく勉
強をするように躾けられ、優秀な成績で大学に入れたのだった。
卒業後、ウーさんは3年ほど上海の外資系コンサルティング企業に務めていた
が、友人の紹介で別の外資系コンサルティング会社に移った。まだ28歳だっ
たが、ここでは初級マネジメント職につき、給料も倍に跳ね上がった。
しかし、ウーさんの狙いは、マネジメントの経験を積むことだった。それは今
後のさらなるキャリア・アップのための武器になるはずだ。
転職後、1年経った頃、これまた友人の紹介で、上海の復旦大学を出た優秀な
男性と結婚した。彼も在中国のGE(ゼネラル・エレクトリック)からデル・コ
ンピューターに転職していた。
結婚3年目で、夫がデルのカナダ支社に転勤するチャンスが訪れた。ウーさん
は会社を辞めて、夫についてカナダに行き、MBAに挑戦することとした。お
金の面では大変だったが、二人の両親だけでなく、親戚をあげて応援してくれ
ることになった。
両方の一族にとって、カナダに親戚がいる、ということは、中国で何かあって
も外国に頼れる先がある、というリスク分散となる。また、この二人をつてに
将来、一族の中からカナダへの留学生を出せるだろう。 [1,p115]
強い上昇志向を持ち、転職を繰り返す、という点では、中国人はアメリカ人の
「アップ・オア・アウト」に似ている。しかし「リスク分散」の意識が強いと
ころが中国人のキャリア観の特色だろう。国や企業のリスクを、友人や一族と
いった「圏子」での助け合いを通じて分散するのである。
―― 7.日本企業の「場」
田表有効さん(日本人)は、早稲田大学の政治経済学部を卒業してソニーに入っ
た。同級生の中には外資系企業を志望する人もいたが、学生時代に人事系コン
サルティング会社で実習をしていた関係で、田表は優秀な人材は一流企業に集
まることを知っていたので、ソニーを選んだ。
田表さんはある事業部の経営企画分野の仕事に就き、2年目には、優秀な上司
の指導も得て、その事業部の抜本的な立て直し策を経営トップに直接報告する
という機会に恵まれた。
それが評価されて、何段階も抜擢昇進しそうになったが、どこからかブレーキ
がかかった。あまりに突出した昇進は、職場の安定を損なう恐れがある、との
危惧が働いたのだろう。
それでも、日本企業の中では、きちんと実力を示し、人間関係もうまくこなせ
ば、相当程度自由にやらせて貰えることが判ってきた。それに比べれば、外資
系に入った友人は、初任給も高く、立派な肩書きを貰えたが、所詮、出先機関
での末端的な仕事しか与えられていなかった。
5年目になると、同期入社組の中には、ソニーを辞めてベンチャー企業を起こ
す人も出てきた。田表さんも産学連携して何かやりたいと思っていたが、せっ
かく人材も機会も豊富なソニーという「場」にいるのだから、その中で業界全
体をあっと言わせるような新しい事業を具体化しようと考えている。
―― 8.日本の「職人染色型」
[1] の著者キャメル・ヤマモト氏は、このような日本型のキャリアを「職人染
色型」と呼んでいる。
┌--------
これは、ある一つの会社という場で染物が染め上がるように、トヨタ人やパナ
ソニック(松下)人など、人材が染め上がっていきます。ここにもアメリカの波
が押し寄せ、一部の業界では、アップ・オア・アウト的なものが出てきていま
すが、それはまだ辺境的存在です。
また、競争激化のおり、正社員の数も絞り込まれて、個人のネットワークに頼
る中国型も出てきています。ただし、日本的な強みを発揮できるメーカーなど
の中核部分は、依然として職人染色型でしょう。 [1,p112]
└--------
日本の組織文化である「擦り合わせ」も、こうした「染色」によって初めて可
能になるのであろう。
ヤマモト氏が、わざわざ「職人」という言葉を使っているのも注意すべきであ
る。ヤマモト氏が「アップ・オア・アウト」の話をすると、あるアメリカ人は
こう言ったという。
┌--------
そのモデルは、コンサルティングとか投資銀行とか、ハイテクなど、個人の実
力のちょっとした差が会社の業績に直接響くような企業には適しているよ。
でも、そのモデルは、多くの製造業では成り立たないな。そういうところでは
個人の僅差にはあまり意味がなくて、むしろ、仕組みやシステムの勝負だから
ね。 [1,p125]
└--------
コンサルティングやソフトウェアなどでは、一人の天才がいるかどうかで勝負
が決まってしまう。そういう天才を活かすためには、移動性の高いアップ・オ
ア・アウト型が適しているだろう。
しかし、多くの設備や部品・材料を使って製品を作り上げる製造業では、共通
の文化で染め上げられた多数の「職人」が綿密な擦り合わせをしていくことが
必要である。自動車産業などで日本企業が強い国際競争力を誇っているのも、
この強みが現れているのだろう。
―― 9.日本の組織文化の強みを活かす
日米中の組織文化の比較をしてきたが、米中はかなり近く、日本の独自性が際
だっている点が浮き彫りになった。
今後、グローバル化が進む中で、国内企業でも外国人社員が増えているし、ま
た中小企業でも海外に支社や工場を持つ事が当たり前となってきている。そう
した中で、日本企業として国際競争力を維持・強化していくためには、どのよ
うな組織文化を持つべきなのか。従来通りの「職人染色型」と「擦り合わせ」
でやっていくべきなのか。それともアメリカ型や中国型に変えていくべきなの
か?
日本企業がアメリカ企業の真似をしようとしても、二流のアメリカ企業になっ
てしまうだけで、それでは国際競争には勝てない。
逆に、日本企業がアメリカや中国に工場を立ち上げ、20年ほどもかけて現地
人幹部社員を徹底的に染め上げて、日本流の組織文化を築き、立派な業績をあ
げている例も少なくない。
そこでは、アメリカ型や中国型の組織文化を一部取り入れてはいるが、基本と
しての「職人染色型」と「擦り合わせ」は堅持している。
グローバル競争を勝ち抜くには、他者に学びつつ自分の個性を磨き、それを強
みとして発揮していくという戦略性が必要である。
(文責:伊勢雅臣) = おわり =
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関連リンク:
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b.JOG(111) 盛田昭夫の "Made in JAPAN"
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参考書籍:(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1.キャメル・ヤマモト『鷲の人、龍の人、桜の人 米中日のビジネス行動原
理』★★
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