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異聞シベリア抑留記 ―――――― by 江藤一市さん |
☆ アナール収容所にて(16) ――――――――――― 2008/07/28
――【班をつくる】
作業は、建築現場の整地、道路の新設、補修が主な仕事だった。隊員を纏めて
仕事させるのは容易ではないと肚を決め、先ず二日間はじっとその様子を観察
した。
あっちこっち回って話を聞いたり、仕事ぶりを見て回ったりした。そのうちに
段々いろいろなことが判ってきた。何人かずつのグループがあり、中心の人物
が何かと取り仕切っているのが窺えた。
帰ってから何か良い方法はないかといろいろ案を練った。
班の中から五人のリーダー格をリストアップした。そして二日目の夜、その五
人を集めて私の案を切り出した。
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とにかく、あんた達五人が大将になって、五つの組を作ろう。各組六人ずつだ
が、その中から一人助手を決めるといい。そしてその組の事は一切あんた達に
任せる。
とにかく帰る時、100%の証明を貰って帰らないことには、パンが減らされ
る。その証明は俺が責任をもって貰ってくる。
俺は仕事はしない。その代りマッセル=現場監督の足止めをして、なるべく現
場を回らせないようにする。しかし、俺がマッセルと一緒に現場に回って来た
時だけは身体を動かしていてくれ。
マッセルのいない時には適当にサボって楽をしていいから。くどいようだが、
100%の証明だけは必ず貰うから・・・・
└--------
実は、100%の証明を貰うことについてはある程度の自信を持っていた。
というのは、このマッセルはかなり前からの知り合いで、割と気が合い話も良
くした。彼から煙草やパンなどをよく貰ったし、私も持っていた小さい鏡とか
風呂敷----女性がスカーフとしてよく使う。極端に布地が払底していたので、
特に奇麗な色、柄ものは喜ばれた----などをプレゼントしたものだった。
医療所時代に覚えたロシア語が本当に役立ってくれた――――。
ーーーいよいよ計画の第一日目、
現場に到着すると、マッセルの指示を受け夫々の持ち場に人員を配置した。
私はカントーラ(事務所)にマッセルと入り、机を間にして腰を下ろした。注い
でくれたスホーイ・フルークト(乾燥果実)のチャイ(お茶)を飲みながら、日本
の話、満州当時の話を虚実取り混ぜ、面白おかしく話し込んだ。
彼もまた、家族の事、町の事、独ソ戦の事などいろいろと語ってくれた。殊に
マッセルは、活字にできないような話になると夢中になる・・・のが判った。
そのうちに、私達についてきたマッキャモフというウズベク人の警備兵も入っ
てきて一緒になって話し込み、時間の経つのも忘れる程だった。警備兵にもう
一人ビッシェロフというタタール人がいて、二人で交代で毎日ついてきたが、
二人とも東洋人種なのでなんとなく親しみ易く、彼らもそんな気持が通じるの
かとても良くしてくれたものだった。
お昼前になって、やっと現場を見回るというので、連れ立ってカントーラを出
た。現場に来てみると、打ち合わせ通り、皆捻じり鉢巻でいかにも忙しそうに
動き回っていた。
「カーク?ハラショーラボート(どうだ、良く働くだろう)」と言うと、マッセ
ルは頷いて、「ダー!オーチンハラショー(ウン!大変よろしい)」と満足そう
だった。現場は、リーダーが実力者なので適当に動いている模様。
帰る前、私はマッセルにこう訴えた。
「私達は作業成績が100%以下だったら減食される。そうなると皆元気をな
くして仕事も捗らない。若しマッセルが120%の証明を書いてくれたら増食
が貰える。そうすれば皆は倍も働くようになる。そうなるとマッセルも成績が
上がるし、お互いに良いだろう」
と話を持ちかけ、とうとう120%の証明書を貰った。大成功!持って帰って
証明書を本部に提出したら、隊長以下目を丸くしていた。
そんな風な毎日が続くうち、不思議な事に段々皆の動きが目に見えて変わって
きた。札付きのリーダーが真っ先に動くようになり、組員もそれに従うという
風でぐんぐん作業成績も上がり、実際に120%以上の仕事をするようになっ
た。
【小煩い ヤツ親分に 据えておき】
【煙ったい のは大将に 祭り上げ】
【増食の パンに釣られた ラパートカ】
私とて、毎日マッセル相手の話題の創作に苦労した。ーーーあれを全部覚えて
いたら、ゆうに一冊の本ができただろう。
こんな日々が続いて半年も経った頃、思いもよらぬことが起こった。
あのアウトロー軍団が、ハラショーラボート・ブリガード(優良労働小隊)とし
て所長から表彰され、褒美に一日の休暇と、僅かだが賞金まで貰って皆にうら
やましがられた。
考えてみると、人も要領も使い方次第だなとつくづく思ったものだった。
= つづく =
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└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。
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