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八路空軍従軍記 ―――――――― by 大澄国一さん
| ☆ 奉天の兄のもとで(2) ――――――――――――― 2006/10/20
あまり居候もよくないので翌日その家を出た。懐かしいところを見て行こうと
以前よく泊まった奉ビルホテル近くを歩いてみたら、出店をやっている日本人
の中に見覚えのある娘さんを見つけた。頭は丸坊主にしているが確かにあの娘
さんだ……
近付いて声を掛けたらキョトンとしてこちらを見ていたが、私を思い出したの
か目を丸くして「まぁ!?」と声を出して私の姿を見つめた。君代ちゃんとか
いった。
四練当時、奉ビルで酔っぱらった時出会って、以後部隊に慰問にも来てくれ、
私も外出の度に彼女の家に遊びに行った事がある。傍らにいたお母さんも気が
ついて、「よくご無事で……」と挨拶を交わした。彼女は2人で天ぷら屋をし
ていた。
彼女はエミちゃんと違い、アッサリ頭を坊主にして軍服のズボンとシャツを着
ていた。親娘は早めに店をしまい、家まで来るように私を誘った。ちょっと兄
の事が気になったが行く事にした。家に着くと「何はともあれお祝いだ!」と
一升瓶から酒をついで、お互いに逢えた事を祝った。
彼女の母は私に「ここに一緒に居てくれないか?…男が居なくて心細くて…」
と頼まれた。私は直ぐ返事が出来なかった。「兄も待っているので少し考えて
から……」と返事を濁した。酒も回って話の種は尽きなかったが、ここは社宅
で遅くまで灯りを点けているのは危ないからと早々に寝る事にした。彼女たち
は皆ズボンをはいたまま寝た。いつでも飛び出せる用意なのか?
翌朝起きて食事の時、私はお母さんに
「考えましたが、やはり兄と一緒に居るのがよいと思いますので…」と、昨夜
の頼みについて柔らかく断った。本音は、俺自身がこの先どうなるかを分から
んのに他人まで抱え込めない……という考えだった。こういう情況の時は一人
が一番いい。自分の事だけ考えて行動できるからだ…
翌日兄の家に帰った。
それから2、3日経って、兄や同居の兵隊達と相談してこれからの生活を考え
た。こんな町外れにいては駄目だ、日本人の多い中心部に移らなければ駄目だ
という事になった。そこで私は、もう一度街へ出て詳しく見る事にした。(当
時兄たちは、食料は兵隊が持ってきたのがあり、兄はソ連軍の使役で運転手を
して少しの収入はあった)
再び街へ出てまずエミちゃんの家に寄った。何かよい情報はないかと思って…
ここで韓国人の田中という若い人と話した。何かと情報源になるからと思った
からだ。しかし結果は何もえられなかった。午後になって先日会った義姉とい
う人が来た。
話し合っているうちにその人から「家の用心棒に来てくれないか?」と頼まれ
た。子供2人と女だけで不安だというのだ。エミちゃんのお母さんも一緒に頼
んできた。‥‥世話になったんだから仕方あるまい‥‥と考え承諾した。この
辺に暫く居なければ情況も掴めないし、ちょうどいいやと打算も手伝った。
早速その家に行った。バーの建物は以前のままであったが、2階に中国人夫婦
が住んでいた。知り合いから頼まれて仕方なく部屋を貸したという。暴徒の侵
入除けにもなると言っていた。
義姉(名は忘れたのでAさんとする)達は3階に住んでいた。男と女子と、他に
以前店員をしていた女の人が2人と、合わせて5人が住んでいた。生活はあま
り困っていない様子だった。物置には米や酒や缶詰などが沢山入っていた。以
前店に出入りしていた兵隊が持ってきてくれたとの事。
君代ちゃん親娘のように、屋台で商売しなくていいだけ余裕がある。Aさんは
よく酒を飲んだ。他の女の人と3人で、毎晩のように飲んで気晴らしをしてい
る。そんな中に男は子供と私だけ、酒が回ると私はよくからかわれて酒の肴に
された。
ただ男が居るだけで女は気強くなるのかな?……随分面白そうにはしゃぎ回っ
ている。もういい年なのに……Aさんは言った。
「やっぱり男の人が居ると気が楽になる。食う事は心配しないで…私達の相手
さえしてくれたらいい…」
これでは俺は女のオモチャか……? ていのいい用心棒だ……と思ったが食わ
して貰えればそれでいいと一人合点した。
そして昼間は街へ出て何かと様子を見たり、いい情報はないかと歩き回った。
敗戦の中で面白い日が続いたが、いつまでもこうしてはいられない兄も心配し
ているだろうと、5日程経った頃、Aさんには「また来るから」と言って兄の
家に帰った。他の兵隊達もちょうど戻ったところだった。兄はソ連軍の日雇い
運転手をしているので、少しは食べるものが手に入ったが大勢では食っていけ
ない。ーーー兄も心中ハタ迷惑していると思った。
皆で情報を持ち寄って色々相談した結果、中心部に宿泊できる家を探さなくて
は駄目だ。いちいちここから通っていては危険もあるという事で、もう一度街
へ行き商売のできる場所と住む家を探す事にした。
他の2人とあちこち歩き回って、どうやらメドがつきそうになった。一安心は
したものの、今夜泊まるところがないのでどうしよう?……となった。仕方な
いので先日用心棒をしたAさんの家に行く事にした。
突然男が3人来たのでAさんはビックリしたが、訳を話して泊めて貰う事にし
た。その晩は四方山話をして寝たが、……翌朝とんでもない事が起きた。
朝6時頃だったか、起きて洗面しようと2階へ降りていこうとしたが、階段下
のドアが開かない。2階に住んでいる中国人を呼んだが答えはない。無理矢理
ドアをこじ開けたら、何とそこには机や椅子を積み上げてドアを封じ、2階に
出られないようになっていた。不審に思い中国人夫妻を捜したが居なかった。
洗面してから3階に戻り、皆にこの事を話したがサッパリ解らんという顔をし
た。
そこへドタドタと階段を駆け上がってくる足音ともにドアが蹴飛ばされ、拳銃
を構えた公安局員が入ってきて、最初に出た私の額に拳銃を突きつけた。
「動くな!」という意味の手で制止した。
ーーー何の事だかサッパリ分からない??
後ろのほうからAさんが「何事ですか?」と訊いた。
「この中の男達が強盗をやった!」
言うと同時に
「皆下へ降りろ!」
怒鳴られながら連行されるハメになった。やむなく降りようとした時、後ろに
いた平田という人が突然飛び出すや、公安員を跳ね除けて階段を飛び降り地上
に出て逃げようとしたが、1階出口で見張っていた別の公安員に撃たれて倒れ
た。
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