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八路空軍従軍記 ―――――――― by 大澄国一さん
| ☆ 敗戦直後(3) ――――――――――――――――― 2006/10/13
司令部は金州の町外れの海辺に駐屯していた。本部を探し経過を報告してその
部隊に居候することになった。ーーーそれからの毎日は、只食事をするだけで
他に何もする事がない。
1週間程居たが、このままではどうなるか分からない、 噂では最後にはシベ
リア行きだということらしい。折角ソ連軍から釈放されて自由になったのに、
また捕虜では堪らんと思い、脱出する機会を考えた。
その日から、まず着ていた飛行服を手縫いで改造してジャンバーを作り、ズボ
ンのほうはチャックを取り除きポケットも取って飛行服らしくないように作っ
たが、後で誰かと民間人のズボンに交換した。
私物は必要最小限に残して他は焼き捨てた。それから毎日部隊の周囲を歩き、
地形を観察したり、付近の道路の状況などを同室の者に詳しく聞いてみた。
そうしたある日、現地除隊をさせるという情報が入った、満州現地で召集され
た者、及び予備役招集者は除隊させるということだった。(本音は食い扶持を
減らすため)でもチャンスだ …… と思った。
私は若いけれど(21歳)、予備役下士官候補6期生であることを理由にして巧
く除隊を認められ、その上除隊手当金まで貰った。
さあ、これで堂々と脱出だと思った……が、果たしてどこへ行く…?と考えて
困ってしまった。全然分からない土地である。ここではどうにもならない…。
とりあえず、除隊する軍属のおじさん達に頼んで大連まで同行させて貰うこと
にした。金を出し合い、荷馬車(大車)を雇い、途中小学校で泊まり、2日がか
りで大連に着いた。
みんなは、一行のリーダー格の人の家に泊まり込んだ。その人の家族は大喜び
であったが、同時に、この先の不安も顔に出ていた。治安が段々不穏になって
きて日本人居留民は皆二階に住んでいた。暴動や強奪から避けるためである。
昼間は外に出られるが、夜は危ない状態であった。出入りは梯子を使って二階
の窓からしていた。5人が同居していたが、いつまでもそこに居るわけにはい
かないので、考えた末、知らない大連で苦労するより、遠いけど奉天に居る兄
貴の元へ行こうと決めた。
情報では、満鉄はまだ動いているとのこと、幸い近くに居る満鉄職員が奉天に
行くと聞いて是非同行させてくれと頼んだ。彼は快く承知してくれた。
翌日荷物をまとめた。トランクはその家に預けた。また大連に来ることがあっ
たら受け取る、来なければ捨ててくれ…と。飛行メガネとアルバムだけは縛帯
袋=身体に纏[まと]うベルト状の物)に入れた。2人で大連駅へ行き、切符を
買った。駅はまだ日本人が運営していた。
列車は30分後に出るというのでそれに乗ることにした。しかし客車は危ない
ので、最後尾の車掌車に乗ることにした。そして現金は靴下の中と褌の中に隠
した。車掌車に2人だけ乗り鍵をかけた。午前10時頃列車は奉天に向け走り
出した。
訊き集めた情報では、途中何回か暴徒や強盗に襲われるということだった。し
かし、何としても行かねばならぬ。走る列車の中で2人は色々相談して安全策
を考えた。外へは一歩も出ないこと、食べ物は若い彼が満語を話せるので彼に
頼んだ。
そして夜になって大石橋に着いた。
ここまでは平穏であった。ここから先が危ないとのことだ。列車はスムーズに
は走らない。何回か停車したり、時には30分程止まったまま走らなくなった
りした。その度に満人が乗り込もうと寄ってくる。
はじめは絶対扉を開けなかったが、他の客車が満員になってくると車外からワ
イワイ騒がれるので開けぬ訳にはいかなくなった。ドヤドヤと小さな車にいっ
ぱい乗り込んできた。扉を開けたまま走ることになった。
このままでは危ない、いつ暴徒が入り込むかも知れない、、と直感したが、ど
うにもならなくなっていた。案の定、夜が明けて朝霧の中を鞍山の街にさしか
かったとき、列車が止まった、、、。
外を見たら、大勢の満人が列車に向かって走ってくる、……とうとう来た……
乗っている満人達が「どうした?」という顔つきで見合わせていた。私達2人
は隅のほうで黙って立っていた。なるべく蔭で目立たぬように……。突然人相
のよくない2人組が乗り込んできた。中に入ると、ジローッとひとりひとりの
顔を見回していたが、私の前にいた満服の男を捕まえて何か言った。
そして服を探ろうと手を当てた時、その男は反抗してその手を払い除けた。
「・・・・・・・・」何かひと言言ったと思ったら、その満服の男を車内から
地面に引きずり降ろし袋叩きにした。これはエライことになった!………もう
駄目だ。こうなったらおとなしく盗られたほうがよいと覚悟を決めた。
ついに私に寄ってきた。「お前は日本人だろう?」日本語で訊いてきた。私は
黙っていた。そしたら若い職員のほうに向き直った。彼はすぐに「満鉄」の腕
章を見せた。暴漢はコクンと頭を下げて「分かった」という顔をした。
再び私の前に来た。
いきなり服の中を探り、ポケットのナイフを見つけて「オー!」と声を出し、
さも凶器だといわんばかりの顔をして取り上げた。そしてとうとうズボンの中
へ手を突っ込んで、褌に隠してあった金を取り出した。暴漢は、獲る物をとっ
たらさっさと車外へ降りていった。他の満人は黙って見ているだけだった。
まもなく列車は動き出し、ゆっくり鞍山駅のホームに入った。見るとホームの
付近には多くの武装した日本兵が居た。警備しているのだろうか?同行の満鉄
職員に訊いたら、鞍山にはまだ日本軍の主力部隊が居るので治安はよいほうだ
という。それではさっきの暴漢は隙を狙って入り込んできたのか、治安の良い
ところで襲われるとは悔しい気がした。
こうして、危険はあったものの、命だけは無事で奉天駅に着いた。降りようと
したら同行の彼が、「もう少し待ったほうがいい」と私を止めたので、様子を
見てから降りることにした。
満人は一斉にホームを降りると、柵を乗り越え外に出て行く、それを見て彼は
「アレは危ないですよ、やはり正面の改札口から出るのがいい」そう言うので
私達はそのほうへ歩いた。人々はもう少なくなっていて却って安全であった。
改札口を出たところで彼と別れた。
「お元気でね……本当にありがとう!助かりました」
私は丁寧に礼を言った。
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