┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓



八路空軍従軍記 ―――――――― by 大澄国一さん
☆ 昭和20年8月14日(2) ――――――――――― 2006/09/22 進路を白城子に向ける、雲がかなり低い、高度500mが精一杯だ。30分程 飛んだら雨になってきた。時々雷雲に突入する、視界を失ってはいかんと思い 300mまで下がり鉄道を這うように飛ぶ。 双遼の町を低空で飛び過ぎる。雨はますますひどくなってきた。これで行ける んだろうか?……不安が頭をかすめた。後席を振り返ったら少尉は懸命に下を 見ている。 それから15分ほど飛んだとき、突然、ボン!ポン!ポン!と大きな音がして エンヂンが止まりかけた。慌てて緊急処置をしたがダメ……プロペラはプスン ‥プスン‥とスロー回転のままである。高度がない!付近に不時着地を探した が無い。もう間に合わない! ‥‥そのまま前方の畑に向かって降下‥‥ えーい、なんとかなれ! ヤケクソで降下していった。 ドスン!ド…!ド…!ド…! 大きな衝撃を受けながら機体は突ッ走る。必死 で操縦桿を引いてスイッチを切った。前はもう何も見えない、どうなるんだ? 運を天に任せるとはこの事だろう、進むに任せた。‥‥ようやく止まった‥‥ 地面を見たら西瓜畑であった。やれやれと思いながら降り立った、少尉も降り てきた。 「エンヂンはどうか?」 「分かりません、油は漏れていないようですが」 「雨を吸って調子が悪くなったんだろう、もう一度エンヂンをかけよう」 始動ハンドルを取りだして、2人で回して、スイッチを入れたがダメ……2回 ……3回…始動機を回したが依然かからない。そのうち2人とも力尽きて息が 苦しくなってきた。座って一休みしていると向こうから5、6人の兵士がこち らに向かって走ってくるのが見えた。 私らの傍に来て下士官らしき者が 「どうしたんですか?」 訊きながら寄ってきた。少尉が 「不時着したんだがエンヂンがかからん、手伝ってくれんか?」 兵士達は気持ちよく引き受けてくれたが、何回やってもかからない。そのうち 兵士達もヘトヘトになってきた。もうダメだと思った。辺りも薄暗くなってき た。服はもう雨でズブ濡れだ。 「少尉殿、もうダメです。諦めて引き揚げましょう」と私は言った。 少尉は暫く考えていた。……さっきの下士官が寄ってきて、 「引き揚げるなら早くしたほうが良いですよ。私達は18時になったら向こう の鉄橋を爆破して南に撤退します。私達は工兵ですが、一緒に貨車に乗ったら いいですよ」 と親切に話してくれた。聞いていた少尉は決心したように、 「よし、引き揚げよう。ただし機体は焼いていく」 私は燃料タンクの栓を抜き、ガソリンを機体にかけて火を点けた。パーッと大 きな炎が上がった。 「敬礼!」 少尉が叫んだ。燃え上がる機体に向かって全員が挙手の礼をした。一瞬、私は 映画の場面を思い出した。‥‥こういう場面があったなぁ‥‥しかし今は現実 だ、これからの俺はどうなるのだろう? 答えを考えている暇はなかった。 「引き揚げ!」 少尉は号令口調で言った。皆は雨の中を鉄橋に向かって歩き出した。 「すまんですなぁ、頼みます」私は下士官に礼を言った。 「大変ですなぁ、どこから来ました?」 歩きながら私と下士官は話を交わした。戦況は極めて不利とのこと。「関東軍 司令部はとっくに南に引き揚げています。何処へ行ったのか分かりません。こ の列車が最後ですよ、見てください向こうの煙を……」 私は指さされた方向を見た、遙か彼方のほうで濛々と黒煙が上がっている。敵 はもうすぐそこまで来ているのだ!小川に沿った道を歩いてやっと鉄橋に辿り 着いた。少し離れた線路上に貨車が止まっていた。 「貨車に乗って下さい。まもなく爆破です」 下士官は私らにこう言い残して兵を連れて鉄橋のほうへ歩いていった。貨車の 中に座って畑のほうを見た。九七軽爆はまだ真っ赤な炎を上げて燃えていた。 じーっと見ていたら、悲しいような寂しいような気持ちになった。 突然ドーン!と大きな音がした。貨車から顔を出してそのほうを見たら、鉄橋 が大きな白煙を噴いていた。‥‥やったな‥‥と思った。 さっきの下士官が走って戻ってきた。兵達は私らの貨車に乗ったが、下士官だ け前の貨車に走って行った。すぐ戻ってきて貨車に上がると、 「まもなく発車します」 と言って座り込んだ。辺りは既に暗くなりかけていた。 ボーーォォォオ! 汽笛が鳴った。ゴトン、ゴトン、貨車は動き出した。やっ と気持が落ち着いた。飛行服のポケットからタバコを取りだして火を点けた。 フーッと煙をひと吹きしたら‥‥ 助かったんだ ‥‥と、しみじみ感じた。 他の兵達は何も言わずに座っていた。少尉は貨車に乗ってからひと言も口をき かない。雨はジャンジャン降っているが有蓋貨車だから濡れずにすむ。 待てよ……! 私はフト思った。5〜6両の貨車に兵隊以外は誰も乗っていな い。日本人の住民はどうなるのだ?鉄橋を壊したら後から民間人は引き揚げら れないじゃないか!?…これはどうなるんだ!? ーーーそれ以上考えられなかった。 ゴトトン、ゴトトン、ゴトトン、、暗闇の中を貨車は走った。                   = この稿つづく:次の記事へ = ┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘ └→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。
八路空軍従軍記の目次に戻ります







SEO [PR] お金 ギフト  冷え対策 わけあり商品 動画無料レンタルサーバー ブログ SEO