サムライ駐在員週報特記事項アリ by サムライ駐在員さん
☆ 駐在は夜討ち朝駆け(後編) ――――――――――― 2006/06/23

23:20にようやく工場に着き、「おおー、先生本当に来たんやね!」とラ
オバンが迎えてくれたので、こちらも大いにホッとする。

「状況はどんなンなってんや?」と聞くと、7時に晩飯を食ってから本格的に
人足を集めて取り掛かっていると言う。現場に入ると、なるほど15人ほどが
作業しており、うち5人ほどがテーブルの上にXXX製品を一杯広げて手直し
作業をやっている。

問題点は甲と乙の2種類で、どうやら取り掛かっているのは問題甲の対応のよ
うだ。早速効果確認の検品を実施するが、なるほどきれいに直っているのには
感心した。

もっとも、100点の抜き取りでは不良率は許容限界のX%をわずかに上回っ
ているので、ハネた先からラオバンに突きつける。

「あーあ、こんなもんあかんですね」とラオバンは言い、自分で手直しをして
「ホラ、ちゃんと直る」と言うのだが、こっちは直るか直らないかを聞いてい
るのではない。「直るのは分かってるっちゃ。こんなノクテエ=ヘンな)もん
が検査漏れンなってるって早よワーカーに見せえま!」とツッコミを入れる。
ーーーとにかく、不具合は端末のワーカーにまでフィードバックされななけれ
ば指摘の意味がないのである。

また、良くも悪くも中国人は「強いものに弱く、弱いものにひたすら強い」民
族性であるので、ワーカーへの指摘は、こちらから直接やるより、ラオバンを
経由することでより強烈な圧力を期待できる。

ワーカーの目の前で顧客からラオバンが指摘を受けることは、ラオバンの面子
に関わることであり、従ってこの指摘は、何倍にも増幅されてワーカーに到達
するというわけである。

不良品を突きつけてはラオバンがワーカーを叱るという状況が1時間ほど続い
たあたりから不良率はグンと下がり、どうやら状況は安定してきたようだ。
さて、
もうひとつの問題乙についてはどうなっとんのじゃと聞いてみると、「アア!
今からやる、今からやる」で、人数の手配がつくまで保留になっていたか、ま
たは忘れていたようだ。

再び大立ち回りを演じる羽目となり、「オラァ!梱包した箱を片っ端から開け
えま!」となるが、我ながらどうみても悪役である――――。

こちらについても、同様に効果の確認を行い、不良率が許容内に収まるまでは
不良品を突きつけてはラオバンが怒鳴るの繰り返しとなるーーー。ようやく状
況が安定した頃には03:00となっていたが、慢性アドレナリン中毒の私は
こういうときはランナーズ・ハイになって、まったく疲れを感じない。

普段はロクに仕事もせんとボケッとしているので、こういうときは馬力が出る
のかもしれないーーー。

手直しは何とか軌道に乗ったが、肝心なのはスピードである。

なんといっても期限は月曜の午前9時で、そこで一旦打ち切って数量を香港に
報告しなければ、その後控えている綱渡りスケジュールの通関・船積みがパー
になってしまうのである。

ラオバンは「明日の午後にはいける」というのだが、出荷の手続きは昼までは
とても待てないので、「有多少就出多少=ある分だけ出す)」ということで念
を押す。

手直しが間に合わない分については次回でかまわん、良品と一緒くたに出され
たのでは何のための検品‥‥実質的には選別)か分からんようになってしまう
のである。そういうわけで、「朝9時には間違いなく打ち切って、数を香港に
言わんならんのやぞ」とふたたび釘を刺す。

そのとき5、6人ほどが工場に乗り込んできて「******!」と怒鳴りだ
した。どうやらラオバンが、問題の発生元である外注のおやじを呼びつけたら
しい。
深夜であるのでひどく機嫌が悪いようだったが、ラオバンも負けてはおらず、
「XXX?XXXXXXX、XXXXX!」と怒鳴り返す。

完全に広東語の、さらに方言であるためさっぱり訳が分からないが、どうやら
不良を突きつけて説明しているようだ。現状では人手が足りないので「もとも
とオマエんところの責任だから手を貸せ!」と言っているらしい。

15分ほど「****!******!**?」「XXX!XXXXXX!X
X?XXXX!」という応酬が続いていたが、やがておやじも観念したらしく
連れてきた手下ともども手直し作業に加わったのでホッとした。

そういうわけでひと段落ついたら、とたんに腹が減った。「夜宵(YEXIAO:夜
食)を食いにいこう!」と誘われるので、ラオバンのバイクに3人乗りで近所
のメシ屋へ夜食を食いに出る。

深夜の3時半、しかも翌朝は月曜であるにも関わらずものすごい喧騒で、夜の
広東パワーを感じざるを得ないーーー。

ラオバンは調子にのって6品も頼むので、夜食にしてはおそろしいボリューム
であったが、疲れが一気に吹き出たのと腹が減ったのとで、実にうまかった。

ワーカー分の夜食として、焼ビーフン15人前の入った発泡スチロール容器を
持って工場に戻ると、ワーカーも夜食を食べ始めるのだが、現場上がりの私は
夜勤のこういう雰囲気がとても好きだ。なんというか、軽トラの荷台に乗り合
わせたような強い親近感を感じるのである。

ワーカーが夜食をとっている間に、すかさず現状をチェックする。

さすがにワーカーも疲れが出ているとみえて、小毛病=XIAOMAOBING:ちょっ
とした不具合)はチョイチョイ出ているが、重大不良は規定の比率以下に抑え
られているようで安心する。

思わずアクビが出る。‥‥マヌケに大きく口を開けたまま横を見ると、ラオバ
ンも同じく大きな口をあけてアクビをしており、ふいに目が合ってしまう。
「先生疲れたでしょう、辛苦やのう」と言うので「そらあラオバンもワーカー
もみんな辛苦やざ」と返す。

ーーーなんといっても現場の指揮官はこれに尽きる。

信頼とは、酒を飲むことでも土産を進呈することでもなく、現場で共にヒデエ
メにあってこそ、得がたい信頼が得られるのだと確信する。とはいえ、まもな
く4時半で、深夜勤でもっともキツイのがこの時間帯ともいえる。ーーーさす
がにクタビレた。

ふと傍らを見ると、工場長がなんだかヤキモキした目を向けているのに気がつ
いた。

実は本日2時あたりから、工場長が「疲れたでしょう、後は現場に任せてメシ
行きましょう、マッサージ行きましょう」と小声で言ってくるのを「アカン、
まだ効果の確認ができてないげや。不良率が基準以下になるまではアカンちゃ
!」と一蹴してきたのである。

現在、ようやく状況も落ち着き、ワーカーも休息をとりメシを食うことでコン
ディションも回復しているはずなので、そう間違いは起きないであろう。よう
するに時間の経過を見守るだけでよくなったので、もはやカッコつけていても
始まらない。
「ほんなら行こうかの」と小声で工場長に言うと、会心の笑みを浮かべ「ヨッ
シャ!」と小声で返してきた。
すでに時刻は午前5時近くで、夜というよりは朝というべきである。

そんな夜遅く、もとい、朝早くからマッサージが営業しとんのか?といぶかる
向きもあるかと思うが、広東省をナメてはいけない。一般的にサウナという奴
は、マッサージが90分と足マッサージが45分もれなくついてくるのである
が、恐るべきことにこれらは、24時間いつ行っても同じ服務が供せられるの
である。

ふたたびラオバン・工場長と、バイクに3人乗りで近所のサウナ屋へ向かう。

3人乗りのバイクは、道のデコボコに合わせてサスがいっぱいまで沈み込み、
胃袋を振り回される揺動感と、冷たい夜風がボケたアタマに大変心地よい。

5分ほど走ると、冗談のようなところに冗談のようなサウナがあった。

3人とも、抜け殻のような目をして上がりこみ、機械的に脱衣所で脱衣し機械
的にシャワーへと向かう。栓をひねると熱い湯が出てきて驚いた。(アタリマ
エだ!)
サウナに入ると、ちゃんとサウナになっており、汗が滝のように出てくる。

昔の唐詩だったか、長安郊外の華清池温泉のくだりで「凝脂を洗う」という表
現がでてくるが、まさにその通りで、あんなに心地よいものはないと思った。

このままここで水を絞るのも悪くないのだが、ラオバンと工場長はこりゃタマ
ランとばかりにとっとと退散してしまうので、サウナに気を残しつつも先へ進
む。

狭い通路の両側にずらりと個室が続く廊下で、工場長が「マッサージ嬢はどれ
にする」と聞くが、そんなもんはどれでも同じである。とっとと横になりたい
一心だったので、目の前の小姐を指名し個室に入り、施術台に横になる。

横になるなり、先はまったく記憶がなく、気がついたら90分経ったとのこと
であった――――。
大部屋へ行けというので大部屋に行くと、先に出ていた工場長が足マッサージ
を受けていたので私も受けることにするが、薬湯の木桶に足を突っ込んだ時点
で再び記憶がなくなり、気がついたら朝7時30分であった。
「ラオバン!おい、起きろラオバン!」

ラオバンと工場長は、隣の足マッサージ椅子に同じくひっくり返って、ビクリ
とも動かなかったのだが、工場に帰る時刻だから起きんかいと気合を入れると
冬眠していたカエルがバクチクを食らったような顔をして起きだした。

「茶や!茶を飲むぞ!」といきなりラオバンが叫びだしたので、どうやらまだ
アタマが寝ているらしい。「おいしっかりせえ、ほんなもん飲んでる場合でな
いやろうが、はよ工場戻っぞ!」とラオバンをせかし、ロッカールームで寝ぼ
け眼で着衣を整えた。ーーーラオバンのパンツが裏返しになっていた。

工場で大まかに状況を確認し、どうやら若干の定数割れは免れないようだが、
なんとかクレームのつかないロットを出荷できる確信を得たので、それではみ
なさんご苦労さんじゃッたですと礼を言い、バイタクと地下鉄と列車と、再び
バイタクに乗って常平へ戻った頃には、午前の10時をやや回った頃で、

一旦マンション「悪の牙城」で状況報告を本国にメールし、香港には検品合格
であるので後の処理をハンドオフする旨連絡して、ようやくやるべきことは終
わった――――。

さすがにぶっ倒れて仮眠をとっていたのだが、午後2時過ぎごろに突然電話が
鳴った。ーーー先日の夜に客人を連れて常平に入り、3日間ゴルフ三昧の本国
のシャチョウからである。とりあえず3日間はほったらかしておいても大丈夫
だと思っていたがーーー甘かった。

「おえ、お前(め)今どこに居んにゃ?アァ、アパートで仮眠や?お前(め)何し
てんじゃ?あのな、いまゴルフ終わったんやけど、運転手がクルマにおらんの
やっちゃ、どこにいるか電話して聞けま!」

駐在員は夜討ち朝駆け、如何なる時も対応できないといけないのである・・・

                        = この稿おわり =
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