サムライ駐在員週報特記事項アリ by サムライ駐在員さん
☆ 異文化理解のススメ ―――――――――――――― 2006/05/19

温州3泊4日の出張では台湾企業にやっかいになり、朝飯以外のメシにもれな
く酒が付くという地獄の業火にアブられて、すっかり体がむくんでしまった。

「体質が酒を受け付けない」といくら言っても「ダイジョウブねー」と言って
聞かないので、先方に合わせて飲んでいるうちに、もともと腎臓がよくないの
で身体の排毒機能がイカれてしまい、日を追うごとに水ぶくれになって、つい
に出張最終日には、死後10日経った水死体のような丸顔になってしまった。

もともとこんなではなかったのだが、5年前、東北人の役人に白酒のグラス乾
杯を強要されて餐庁の床で散華、して以来酒が飲めない体質になり、また酒と
宴会と酒を飲む人間に対し、強烈なPTSDを負うようになってしまったので
ある。

そんなわけで、本日仕事が終わると早速薬局で「排毒」の薬を求め、茶をガブ
ガブ飲んでいる次第である――――。

ともかくも、身体的には大きなダメージを受けた4日間であったが、台湾人と
の交歓は実に楽しかった。なんといっても台湾が、大陸や半島と決定的に異な
るのは、異文化に対する興味関心の強さとそれらを受容する寛容さだと思う。

中でも、台湾文化に根を下ろした「日本文明」および「日本を経由した欧米文
明」は今に至るも健在で、台湾人と話をすると、かなりの頻度で「日本語」も
しくは「日本式なまりの外来語」が混じってくる。

すっかり仲良しになった50年配の台湾人副総経理「キンさん(と呼んでほし
いそうだ)」とは、この4日間ウイスキーのビール割り(「サブマリーン」と
言うのだそうだ)をガバガバやりながらいろんな話をしたが、一番印象的だっ
たのは、休憩時間に、私のPCに入っていた内地の写真を紹介したときのこと
である。

人にもよるのだろうが、どうも台湾人は、わが国に対して「お手本」を見出す
傾向が実に強いようで、ある写真が画面に映ったときに「キンさん」は、突然
非常スイッチが入ったかのように応接間を飛び出し、事務所にいたスタッフの
女の子数人を連れてきて、「ほらほら、見ろ見ろ」と言うのである。

特に変わった写真ではなく、私が以前福井県松岡町でアパート暮らしをしてい
たときに撮った松岡まつりのスナップで、キンさんに「電気」を入れてしまっ
た写真とは、普通の住宅地の裏道に御輿[みこし]の一団がやってきて、くたび
れたのかオッチャンが、ひとり道路に直に腰を下ろしているという、一見なん
でもないものである。

「ほらほら、日本の道路を見てみろ、ぜんぜんゴミが落ちていないのだぞ!」

「見ろ見ろ、日本では、直接道に座り込んでもぜんぜん汚れないのだぞ!」

「日本では、道路を掃除する人がいなくてもこんなにキレイなのだぞ!」

どうやら、キンさんは最近、工場スタッフに5S(整理・整頓・清掃・清潔・
躾)の教育を行っているがどうもうまく理解を得られないらしく、ひと言言う
たびに10言ほど言い返されるようで、「ピストルを撃つたびに重機関銃で撃
ち返される」のだと言っていた。

そこで良き教材登場せりというわけで、日本のただの住宅地のスナップ写真を
見せたというわけらしい。キンさんはわが事のように自慢し、「どうだ見てみ
ろ」とばかりに熱弁を振るうのが実にほほえましい。

普段はキンさんに十字砲火を浴びせていたスタッフの女の子たちも「具体的証
拠」の写真を見せられるとすっかり黙り込んでしまい、中でも気が強そうな女
の子は、なんとかして言い返したいが材料が見つけられないので、実にもどか
しい顔をしている。

やがて日本の神社の写真になると、大陸のスタッフには様々なカルチャーショ
ックが登場するようである。

まず、神社の境内へ続く石段が実に清潔で、大陸のようにゴミだらけであった
り、タンとゴミで練り固められたようになっていないのが珍しいようだ。

次いで、手洗いの水盤の中に硬貨がたくさん沈んでいるのを見て、だれもこれ
を盗もうとしないのがショックらしい。

さらに、神社の拝殿には様々な什器があるが、肝心の「本尊」がないのがどう
にも理解できないようだ。

これらについては解説が必要だと感じたので、早速「講義」を始める。

まず清潔さについては、日本と大陸の国民性でもっとも違いが出る点で、日本
向けの商品になぜクレームが出るかについては、まずこの点を十分に理解する
べきだと説いた。
‥自分のことは棚に上げて、よくヌケヌケと言ったものだと我ながら呆れる‥

公共物の愛護と社会的道徳についても、大陸と日本では考えがまったく異なり
大陸文化の特徴が「義」であるとすれば、日本文化の特徴は「公」である。

ついで、日本は一見多宗教のようであるが、実質的には「神道」というアニミ
ズムが精神の根底にあり、森羅万象に八百万[やおよろず]の神々がいて、特定
の偶像を祭るようなことは一般的ではない。(最近はどんなもんだろうか)

各人が意識するしないにかかわらず、現在に至るも日本人の精神構造にはこう
いう点が強く残り、例えるならば日本人は、相手が人であれモノであれ、人間
と同じような「人格」を感じるのである。

従って、モノに対する愛着も日本人特有のもので、よく働いた機械にも「ご苦
労さんだったなあ」というような、擬人化された感情を持つという点も大陸で
は理解しにくいことである。

従って同じ日本製の設備であっても、日本でなら何十年も稼動するのに、大陸
ではすぐに壊れてしまうというのも、まさにこの点に理由があるのであって、
民族性の違いが「メンテナンス」への理解に如実に現れるのだと結論する。

まったく我ながら、自分のことはタナの上において、よくもまあカッコつけや
がったなと思うのであるが、傍らの台湾人「キンさん」は実に嬉しそうな顔を
して、「どうだ、そうなんだぞ」という眼差しを大陸のスタッフに向けるので
ある。

大陸のスタッフもまんざらではないようで、「異文化」を初めて感覚的に触れ
たという顔をしている。

私の稼業である眼鏡の業界では、品質とは数字で表せない場合がほとんどで、
基準を設定するのも実に困難な分野である。

つまりは、究極的にはそれぞれのメーカーが「キチンと」ミスなく作れたもの
の比率が「品質」であるという言い方ができるのだが、その判断は官能検査が
ほとんどで、つまりは感覚的に判断しなければならないのだが、「感覚」こそ
もっとも「文化の違い」が現れるというわけで、実にヤッカイなのである。

こうした場合、出荷先の国の「民族性」を知ることは大変有益である。

「能ク敵ヲ知リ己ヲ知レバ百戦再タ春遠カラジ(危ウカラズとはなんぼなんで
も言い過ぎだろう)」というわけで、自分のモノサシだけでなく、相手のモノ
サシを知ることは、この業界に限らず重要なのである。

そういった「異文化理解」も、格別に難しい話をするまでもなく、時にはこう
いった何気ない写真からでも十分に説得力を持たせることができる。

コストありきの「 PRODUCT OUT」的発想に終始しがちな大陸メーカーで「製品
を買っている奴は、どんなところで、どんな生活をして、どんな考え方をして
いる奴なのか」ということを知ってもらうことは大変に意義があることだと思
う。

そういう意味でも、今回の出張はなかなか上出来だったと思っている。

ただ、次は「サブマリーン」はカンベンしてもらいたいものだーーー。

                        = この稿おわり =
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┃┃ メルマガ掲載読後感アンケートの結果。
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◇ こういう理解のさせ方、いい!(^○^) ------------------ 55人 (95%)
◇ まあまあかな〜(゜.゜) -------------------------------  3人 ( 5%)
◇ まあまあ..の..まあまあ(-_-) -------------------------  0人 ( 0%)

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┃┃ アンケートコメントボードに頂きました感想。
┗━┛
┌──────────「noriさん」

いろいろな意味でカンドーしました。そうなんですよね、台湾って本当に日本
にやさしい国なんですよね。たまに今の日本のだらしなさを振り返ってみて、
台湾があんなに「日本はすごいのよ〜」とか言ってくれてることに対して申し
訳なく思えてしまうことがあります…。

そんな台湾の異文化への関心と寛容さは、日本に向けられてるだけではなく、
西洋文化、東方文化、共に目が向いているようで、日本のように西洋文化にば
かりに目が行っていないというところは、ものすごく見習うべきだと思ってし
まいます。

大陸とは、位置的にも見た目も近いので、つい油断しまうのですが、考え方、
感じ方が本当に日本人とは違いますよね。「違うんだ」ということをちゃんと
理解した上で交流するって、できてるようで、できてない部分の一つだと思う
ので、そうやって一つ一つ理解をしながら、交流をとっっていける、という、
今回のサムライ駐在員さんのレポートは本当に心があたたまるものでした。

ありがというございました。

└──────────
 
┌──────────「サムライ駐在員さんから」

過分なご講評ありがとうございます。

私が出向している工場にも、台湾幹部が数名おられますが、人によってさまざ
まですね。

大陸在住十数年で、大陸人と結婚した人になると、中華ナショナリズムが強い
ようで、一方、お父さんが典型的な多桑世代の上に、本人も強烈な哈日族だと
日本のものなら無条件で「よい!」「明治のアイス、オイシーね!」「トロに
ワサビ、オイシーね!」といった具合です。

また、台湾の人特有のおおらかさは私も大好きで、少なからず影響をうけるこ
ともあります。

国同士の関係でみれば、残念ながら日本は台湾にずいぶん冷淡なようですが、
すくなくとも個人間の交流では暖かい関係を続けていきたいものです。

今、ふと思い出したのですが、昔、日本にいたときのエピソードをご紹介しま
す
台湾人の留学生の友人が、日本の免許センターに運転免許の更新に行った時の
ことですが、台湾人の場合、どうしても免許の本籍地が「中国」になってしま
うことに納得がいかず、免許センターの警察官相手に相当ネジ込んだことがあ
りました。

「私、中国なんて行ったことないのに、なんで本籍が中国になるの?!」

「ほら、これ台湾のパスポートですよ!どうして違う国を本籍にされなければ
ならないんですか?!」

「台湾は大陸とぜんぜん関係ない国ですよ!免許証にウソを書いてもいいんで
すか?!」

などなど相当ゴネたもんで、とうとう午前の部の受付時間が終わってしまい、
アタマに来た彼女は、その足でホームセンターに行き、ひまわりの柄の黄色い
浴衣を買ってそれに着替え、胸を張って再び免許センターに乗り込んで、午後
の部の受付に行きました。

面食らった警察官は「あ!あ…、お召し換えされたんですか」とあっけにとら
れ、結局彼女の免許証にはひまわりの柄の浴衣で撮った写真が載っています。
溜飲が下がった彼女の顔を横で見ていて、台湾人の気質が分かった気がしたも
のです。

└──────────
┌──────────「Jan さん」

うんうん、と同感の意を強く感じました。

4千年の歴史に流れていた、過去の優れた考え方を捨ててしまい、共産主義と
拝金主義一色になってしまった今の大陸の人々が、徹底的に反日教育を受けて
しまえば、日本人のこんな精神は分からないだろうな、と思いました。

私も過去には自由中国(台湾)に良くビジネスで行きましたが、今回のサムライ
駐在員さんのお話でその時のことが思い出されました。本当に台湾には昔の日
本が残っていますよね。

└──────────
 
┌──────────「サムライ駐在員さんから」

そうですね。大陸と日本では感性が根本的に異なることによくでくわします。

これが大陸4千年の伝統であるにせよ、共産党の教育の結果であるにせよ、発
想や感性の原点が異なることから、われわれの感覚では理解不能なことがしば
しばありますね。

このあたりをうまく橋渡しをするのが我々駐在の任務でもあると思っておりま
すが、「感覚」に関することはなかなか難しいです。その点台湾人は大変我々
に近い感覚を持っており、また大変に「好意」を持ってくれているのでありが
たいです。

私はしばしば台湾人に「日治時代的日本人」と言われますが、とりあえず褒め
言葉ととっておきたいと思います。

└──────────
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘
└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。 
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