サムライ駐在員週報特記事項アリ by サムライ駐在員さん
☆ トラ!トラ!トラ!(後編) ――――――――――― 2006/03/03

さて、なんとか無事に**鎮行きのバスに乗り込んだのだが、もともと今回は
○○社へ行く予定はなかったので、先方の住所がわからない。先方のラオバン
=社長)の携帯電話にしきりに電話をかけるのだが、自動的に電話会社の秘書
サービスにつながるようになっているので、連絡をよこしてもらうよう何度も
メッセージを入れるのだが、一向に電話がかかってこない。

常平の業務に電話したところ、常平からも連絡を取るよう何度も試しているの
だが、やはりダメなのだそうだ。

仕方がないので、先方の住所をメールで送ってもらう。

やがてバスは**鎮に到着し、さっそくタクシーを拾って住所を見せる。

陽気だが、かなりヌケた感じの運転手は、あちこちで聞きまわって目的地に行
こうとするのだが、まったく見覚えのないところをグルグル回るだけで、一向
に○○社が見つからない。ーーー常平の業務からは「どうですか?どうですか
?」と電話がひっきりなしに入ってくる。

そのうち、私の携帯電話の通話残高が残り僅かになり、節約のためメールでの
やり取りに切り替える。

30分も同じところをウロウロ回っていても埒があかないので、究極の選択で
ある「記憶」を元に探しだすことにした。

以前訪問したときには、**鎮の交通警察と**ホテルと立体交差のある交差
点を、交通警察側に曲がってからまっすぐ走り、道がカーブし始めたあたりの
ゴミゴミした裏道に入って、坂道を登った記憶があったので、それを頼りにラ
ンドマークである交通警察の前まで戻り、そこからは頭を車の窓から突き出し
目を皿のようにして走る。

住所とは、方角が90度も違うのであるが、かまわず走ったところ、なんだか
見覚えのある町並みが見え始めた。道がカーブに差し掛かり、小さな裏道を見
つけて「そこだ!右折だ!」と叫ぶ。

果たして坂を上りきったところに、見覚えのある○○社があった。

名刺の住所と完全に違うので、運転手は完全にあきれ返っていたが、無理もな
いと思う。あらためて見れば、ーーー工場には看板も出ていないではないか。

ようやくの思いで工場に着き、これから奇襲を敢行せんというわけであるのだ
が、深謀遠慮が必要だ。なにせ、某▽△とどういう話をしている工場なのかが
分からないので、単に金型を返せというのでは向こうが警戒する。

不穏な雰囲気を微塵も感じさせては奇襲は失敗となるので、終始ニコヤカとし
て何食わぬ顔で工場に入るのである。

呼び出しベルを鳴らすと、中から若いワーカーが顔を出したので声をかける。

「やあ、また来たよ。ラオバンはいるかい?」
「今おらんのです」

「じゃあ、現場で一番偉い人を呼んできてくれるかな?」
「なら、職長を呼んできますから中で待っててください」

やがて初老の職長が現れた。

直接話をしたことはないのだが、以前訪問したときに顔を覚えていてくれたと
みえて、やあお久しぶりですと挨拶を交わす。

「実は今日、急な用件があって朝から(大ウソ、実は昼から)ずっとラオバン
の携帯に電話してるのだけど、一向に出てこないんで、常平から直接飛んでき
たんだよ(これも大ウソ)。ラオバンに連絡は取れるかい?」

職長はおもむろに携帯電話を取り出し、ボタンを押して「どうぞ直接話してく
れていいですよ」と渡す。

「やあ誰某先生お久しぶりですねえ。実は明日、日本の本社のラオバンが出張
に来て、例の金型をぜひ見たいとこう仰るのだよ。今度の修正点についても変
更が出るかもしれないし、控えている量産数にも増減があるかもしれないから
ね(このメーカーから金型ごとオーダーを引き上げるのだからウソは言ってい
ない)。メンドウで申し訳ないけど今日金型持って帰っていいかねえ?」

「うーん、じゃあいいでしょう。何か不都合な点があったら直しますから連絡
くださいよ」ーーーというわけでラオバンの許可が出たので、職長は安心して
金型を外し出すのである。

「念のために中を割って見せてもらえんかねえ?」

職長は怪訝な顔をするが、もともと型の修正を依頼していたこともあり、ワー
カーの兄ちゃんを呼んで二人して金型をバラしだす。

なにせ一組100kgもある鉄の塊なのだから、中を見せてくれといってもタイ
ヤキの型を見るのとは訳が違う。二人が大汗をかいて割ってくれた型の中を点
検するのだが、ここで不信感を与えてはならないーーー。

「うーむ、ここんところはピンの動きがどうもシブいなあ・・・」などと敢え
て日本語でブツクサつぶやきながら抜け目なくチェックしたところ、とりたて
て異常はないことがわかった。

「うむ、じゃあ持って帰るよ、ありがとう」

と言い、金型引取り証明に署名してから金型をタクシーのトランクに詰めても
らう。なにせひとつが100kgの鉄の塊を2セットも積むのだから、ひとつ積
むたびにタクシーの車高が目に見えて下がる。

金型をはじめて見るタクシーの運転手は「ウワァ〜、重そうだ!」と無邪気な
声を上げる。

その間、数日後に○○社のラオバンが、血相を変えて電話をかけてくるであろ
うなと思い、どういうスットボケた言い訳をしようかなと考えるーーー。

最後まで終始一貫、にこやかな雰囲気の中タクシーに乗り込み、工場を出た瞬
間どっと疲れがあふれると共に、なんともいえない高揚感でいっぱいになる。

「ワレ奇襲ニ成功セリ!」

                        = この稿おわり =
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┃┃ アンケートコメントボードに頂きました感想。
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┌──────────「闇夜のカラスさん」

中国人との交渉は、時間がかかりますね。いろいろ言い訳を考える時間とか、
こっちが根気負けするのを待つのが作戦だと判っていても、まんまとやられて
しまう。
そんな日本人の多い中、見事に作戦が成功しましたね。非常に気持ちがいいで
すよ。ではでは。

└──────────
 
┌──────────「サムライ駐在員さんから」

そうですね〜、時間とか効率とかの感覚がかなり違う上に、トラブッたときに
考えることが我々とかなり違うので疲れます。----自分の責任ではないという
事を立証することに全力を尽くす人が少なくないですね----
そうかといって、
打ち合わせなどがミョーにスムーズに行き過ぎるのもかえってコワいです。

なんでもかんでも「明白了!没問題!」という回答ばかりだと、いざ本番でど
んなトラブルが発生するのか油断できないので、手放しで安心できないという
面もありますね。

└──────────
┌──────────「Jan さん」

なんとものどかな感じですね。

昔々、σ(^^);がまだ若かりし頃、あるお取引先企業の老会長から、自分の若
い頃の武勇伝を聞いている感じがします。昔の日本でも、こういう話はあった
ようです。

やっぱり中国の(田舎の)会社はこんななんでしょうね。なんだかんだといって
も中国のビジネスの世界では、人々は「三丁目の夕日」時代以前(50年前?)
なんですね。

努力されたサムライ駐在員さんには悪いのですけど、レポートを読みまして、
なんか昔を思い出してすっかりほのぼのと癒されました――――。

└──────────
 
┌──────────「サムライ駐在員さんから」

わはは、なるほどその時代と比較すると、いろいろと似ているところも多いの
でしょうね。 
こちらでは、騙し騙され(というか、いい加減なもの言いをする人が多いので
振り回されるというのが実情ですかね)の仁義なき戦いと、いまどきの日本で
は見られない人情味が同時に存在しますので、怒るべきなのか感心するべきな
のか分からなくなることがあります。

いずれにせよ、日本ではまずお目にかからないリスクや危険がいろいろありま
すので、こちらにいる間は、脳が活性化されてボケずにすむかもしれません。

おまけに、いろんなことがおきるので、すっかりアドレナリン中毒です。

└──────────
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└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。 
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