┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━┓ |
┃ ┃ ┃ |
![]()
私の目の前の天安門事件 ――――― by hideおじさん
![]()
| ☆ 私の目の前の天安門事件(2) ―――――――――― 2005/06/10
5月に入り、会社から、用事がある時以外は外出を控えるようにという指示が
出たが、独身の私としては何もない北京の夜をただ部屋に閉じこもっているの
は拷問に近い状態だったので、何かにつけて外出していた。
ーーそれほどに、差し迫った雰囲気などは感じられなかったのである。
―― ところが、GWの真っ只中のことだったと思う。
日本企業はほとんどお休み状態だったので、久しぶりに歩いて北京の町を探検
しようと思っていたところ、ホテルより外出しないほうが良いと引きとめられ
た。ホテルのスタッフもどこか表情が硬く、引きとめようとするそのニュアン
スも少し威圧的に思えた。
「どうなってるの?」と感じたが、同じホテルに投宿している海外のマスコミ
と思われる連中が何やら騒々しい。彼らの話を遠巻きして聞いていると学生の
運動が非常に大きくなってきているとか、どこからか手に入れたチラシのよう
なものを見入っている。
脇からそっと覗いてみると「告北京市民」というような文字が目に入った。
内容は良く見えなかったが「民主化」という文字だけが浮き出ているように思
えた。
私はその時初めて、東ヨーロッパで高まってきた民主化の波が、ここ中国まで
押し寄せてきたのだと感じた。早速件の友人にコンタクトして事のいきさつを
聞いてみるが、政府筋からはこれといった特別なニュースは流れてきていない
と言っていた。
ただ、学生運動について中国政府内部で評価が別れているらしいとか、これは
動乱だという意見が出ているとか、雲行きのおかしな情報は流れていると教え
てくれた。
そうこうしているうちに、私のホテルは益々メディア関係者で賑やかになって
きているし、他の主だったホテルも外国人が大挙し押し寄せるようになって、
ちょっとしたマスコミ景気の様相を呈してきた。
友人は、「ゴルバチョフが来るから賑やかなんだよ」と安心するようなことを
言っていたが、彼の目は明かに違うものを感じているような雰囲気だった。
北京の街も、最初の頃とは比べものにならないほどざわつき始めており、ホテ
ルからは、遠くでアジ演説のような声も聞こえるようにもなってきた。
ゴルバチョフ訪中の直前だったと思うが、天安門広場に行かないようにという
日本大使館から正式通達があったと言われた。ここに来ても私は何かドラマを
見ているような感覚がぬぐえず、それこそ平和ボケもいいところであった。
が、一方ではどこか冷めているところもあって、とにかく現場を見てみたいと
いう野次馬根性を押さえきれなくなってきた。海外メディア陣の後ろについて
天安門広場の近くまで行ってみると、人いきれでむせ返るような熱気が伝わっ
てきた。
友人と来たときも驚いたが、野次馬なども含めると数十万、下手をすると百万
人ぐらいいるのではないかと思えるほどの人だかりで、前回とは打って変わっ
て民衆の緊張度合いが違っていた。
私は、何か見てはいけないものを見てしまったような感覚にとらわれ、尻込み
するようにホテルへ戻ろうするが、周りの人たちの雰囲気に圧倒され、逃げる
に逃げられないような状況に陥ってしまった。
みんな口々に何か叫んでいるし、歌を唄っている人たちもいた。しかし、どう
みても統率が取れているようには見えなかった。若い女の子がアジっているの
に反応してワーワー言っている学生もいれば、こちらでは男性が興奮して何か
叫んでいるといった状況は前と変わりなかった。
そんな輪があちこちに見られ、中国のデモというのはこんなものなのか、とも
思った。ーー遠くに人民英雄記念碑で気勢を上げている人を眺めながら、少し
づつ脇道へ逸れるようにしてホテルに戻った。
―― 数日後だったと思うが、5月18日、
ホテルの海外メディアの連中が、朝から大騒ぎしていた。何かと聞いてみたと
ころ「中国のトップが天安門広場に来るらしい」という話なんだという。デモ
をしている連中の為に中国のトップが出てくるなんて、中国というのは凄い国
だなと感心した。
日本で、学生のデモに首相が話し合いに出てくるなどあり得ないことであり、
趙紫陽氏と李鵬氏の誠実さというか、人柄が偲ばれたが、その裏で権力闘争が
あったことなどその時は全く知る由もなかった。
一方、私の友人は、ここぞとばかりに精力的に取材をしていたようで、ニュー
ス不足の我々にいろいろと教えてくれたが、彼によると、天安門広場に取材に
行くと、前に行った時とは比べものにならないぐらい学生・市民らから中国民
主化へのサポートを要求されたという。
特に日本のメディアと分ると、言わせてもらいたいという学生がひっきりなし
に寄ってきて、声高に日本の協力を要求していたそうである。これには欧米の
メディアも驚いていたようで、学生に取り囲まれる日本のメディアを逆取材し
ていることもあった。
昨年のサッカーアジア杯の試合からは想像も出来ない状況であるが、あの時は
確かに学生・市民らは日本を「自分たちの味方だ」という意識でいたように思
う。
友人はそんな学生・市民にいたく感動しており、これこそ時代が変わるという
雰囲気があった。ーーー私もそんな空気の中、学生・市民を応援する気持ちを
押さえきれなくなってきた。
―― しかし、5月19日、
そんな熱くなった気持ちを一気に冷まされる出来事が起こった。
その日の夕方だったと思うが、友人が血相を変えてホテルにやってきて「おい
『Martial Row』が発令されるらしいぞ」というのだ。「Martial Rowってなん
だよ?」と聞きなれない英語にピントはずれな質問を彼に投げかけたが、その
瞬間「戒厳令」という言葉が頭をよぎった。
「お前、今時戒厳令はないだろ」と言った私に、彼は首ふって黙って事実であ
ることを告げた。同時に、各メディアにもその情報が伝わり、ホテル中大騒ぎ
となり、取材に飛び出す者、電話を掛ける者、大げさだが戦場のような状態に
なってしまった。
だいたい「戒厳令」などという言葉は「2.26事件」でしか聞いたこともな
いし、それがどんなものなのかさっぱり意味が分らなかった。ただ自由に外出
することは出来ないということで不満を漏らした覚えがある。
日本大使館より会社に連絡が入り、夜の外出は一切禁止、そして天安門広場へ
の立ち入りも禁止されてしまった。
= この稿つづく =
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘
└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。
|