┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  迷子になったらここ!(^O^)  ━┓
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┃ 満州青春録 :―――――――――――――――― by 松本進さん

☆ 岐阜、そして満州へ ―――――――――――――――― 2003/09/26
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岐阜駅に着くと次々と案内人が名前を呼んで旅館に案内してくれた。
中町の桜旅館だった。
玄関で「ようこそ、いらっしゃいませ」と迎えられ、六人が同じ掘り炬達のあ
る部屋に入った。ヤレヤレとみんな一斉に坐り込んだ。
おばさんが「お茶どうぞ」と熱いお茶を勧めてくれた。

お茶を飲むとみんな荷物の整理を始めた。私もせねばと思い自分の荷物を探し
たがどこにもない?!同じ部屋の人にも尋ねたが知らないと言う。アッ!忘れ
た!!呑気なもので列車の中に忘れてきたことにやっと気づいたのだ。

「おばちゃん、列車に荷物を忘れてきました!」
「早く行って駅員さんに話しておいで!」

私は急いで駅まで走った。駅員さんは電話ですぐに連絡を取ってくれた。どう
なることかと心配したが、荷物はすぐに見つかった。一時間も待てば、二つ先
の駅から送り帰してくれるという。ほっとした。

荷物を受け取り駅員さんにお礼を言って旅館に戻ると、おばちゃんを始めみん
な心配していて、荷物が見つかったことを告げると喜んでくれた。親元を離れ
たばかりで、これからだというのに大失敗である。

荷物の整理が済むと、みんな無事岐阜に着いたことを早速手紙に書き始めてい
る。「おばちゃん故郷という字はどんな字ですか、教えてください」誰がおば
ちゃんに尋ねている。「なんだ、俺と一緒で大したヤツはいないんだな」そん
なことを思いながら、私はゆっくりとお茶を飲んだ。

目的地の満州まで行ったわけでもなく、昨日の朝、家を出たばかりなのに手紙
を書くのはまた早いと思った。その日は風呂に入ってゆっくりと寝た。

岐阜は一週間ほど滞在していたように思う。その間、身体検査や飛行場で飛行
機修理の見学などをしていた。我々の総指揮官は堤中尉という人だった。

いよいよ明日は満州へ出発という日、我々三百名は川の側の広場に集まった。
堤中尉は三十分も、日本の戦況や我々が一年後には戦場に行くことを熱っぽく
話された。しかし「俺が戦場に行くなんて、、」とみんなあまりピンとこない
様子だった。

旅館では、おばちゃんがとてもよくしてくれた。靴下や下着の洗濯をしたり、
荷物の整理をしていると、なにかと優しく教えてくれた。おばちゃんには一度
叱られたことがあった。お茶を飲みたくなっておばちゃんに頼みにいった時の
ことだ。
「おばちゃん、お茶ください」
「湯呑みがないね。このお客さんの湯呑みを借りなさい。ちょっとお濯ぎ」

私は湯呑みを濯ぐためにお茶を注いだ。そのお茶の量がつい入り過ぎてしまっ
たのだ。

「そんなにたくさんのお茶で濯ぐなんて、お客さんに失礼でしょう!」
おばちゃんに叱られたことが、今でもお茶を見るたび思い出される。
そんな思い出があって、それから約三十年後、私はお茶の教室に三年間通った
のである。

出発の朝がきた。手荷物をさげて外に出る。

「みんな頑張って。気をつけてな」
「おばちゃん、ありがとう。お世話になりました。行ってきます!」
「お母さんに手紙を書いてね」

口々にお礼を言って歩き出した。手紙といえば岐阜について三日目に書いた。
それもみんなが毎日のように書くのを見て「そろそろ書くかな」と思いついた
ので簡単な内容の手紙だった。
駅に着き、総勢三百名が列車に乗り込んだ。大勢の見送りで駅はごったかえし
ている。それは私たちの見送りというより、東北方面の軍人さんが乗っている
ためで、大きい駅の構内では、婦人会の人達が弁当やお茶を配っている。

二、三十分ぐらい経ち、私たちは旅館の人達の見送りを受け出発した。


―――― 満州へ

岐阜駅を出て、ひとまず落ち着いた。

「母さん、兄さん、これから満州へ出発します」心の中でつぶやきがら車窓か
ら流れる風景をみていると、西野の山や池が目に浮かぶ。ふと我に返って車内
を見ると、涙を拭いている同僚もいた。私と同じように故郷や両親のことを思
い出したのか。

「まだまだこれからだ。先は長い」私は気を取り直そうとした。それでも、途
中の駅で、白いエプロン姿の国防婦人会のおばちゃんにお茶をごちそうになっ
た。おばちゃんたちを見る度に母のように見えたりした。おばちゃんたちの元
気そうな声を聞きながら、その様子をじっと食い入るように見つめていた。

薄暗くなって下関に着いた。全員ホームに集合すると一、ニ、三......と人数
の確認をした。それから港に向かい、船に乗り込んだ。

九州七県よりきていた同僚も一緒に乗り込んだが船室は違っていた。
夕食は全員一緒に食べた。終ってニ十分程して軍曹が「全員そのまま聞きなさ
い。只今より堤中尉より挨拶がある」と大きな声で言った。

堤中尉は階段のちょっと高いところに立ち、全員を見渡した。

「みんな、よく聞いてくれ。お前たちと過ごしたのも数日間であったが本当に
よかった。これから七五一部隊で教育を受ける。厳しい訓練だと思うが何事に
も耐えて頑張ってくれ。そうして一年も経てば各戦場に赴くことになる。戦死
する者も出るだろう。立派な日本人としてお国のために、勝利のために最後の
最後まで頑張ってくれ。お前達ばかりを死なせはしない。私の子どもと同じ年
のお前たちばかりは死なせはしない」

堤中尉は泣きながら私たちに訓示した。戦死という言葉にはまだ実感がなかっ
たが、中尉の涙をみた時、胸に迫るものがありグッと気持ちが引き締まった。

中尉の挨拶が終わると軍曹が「それでは満州七五一部隊の養成隊長である大串
中尉殿を紹介する」と言った。背が高く色の黒い、長い軍刀を斜めに差した大
串中尉が変った声で挨拶を始めた。

「私がお前たちの大隊長として下関に迎えにきた。一年間お前たちと行動を共
にする。お前達も頑張ってくれ」
声も顔も恐い印象の人だった。

船室に帰る。船の動く音がする。外は真っ暗だ。

九時になったら寝るようにと言われていたが、みんなは一日中の列車の旅の疲
れもあってすぐに寝ってしまった。私も、家のことを思い出しながらいつの間
にか眠ってしまった。

翌朝目覚めると、もうすぐ朝鮮の釜山だ。気の早い者はもう下船の準備をして
いる。誰かが「鮫だ!」と叫んだ。鮫だと思ったその影は、実は我々の乗った
船を護衛するための潜水艦だった。

船が釜山の港に着いた。下船しながら九州の同僚の九州弁を初めて聞く。全員
で町並みを歩き小学校の校舎に向かった。道々、ニンニクの臭いが鼻につく。
白い服を着た朝鮮の人、なにか荷をさげて働いている人、子どもを前に抱いて
紐で結わえている母親、なにもかも初めて見るものばかりだ。

やがて小学校に着き、そこで満州行きの汽車を待つことになった。
小学校で昼食、夕食を済ませ、人数点呼のあと駅まで歩いたが、釜山駅の記憶
は残っていない。

列車はしばらく町の中を通って、やがて町外れへと走っていく。あたりの景色
の変化にみんな外を見ている。「わあー、すごいなあ〜!」みんな口々に喋る
ので騒々しい。初めて見る景色に興奮気味である。

山々が見えるが、そこには木がない。ハゲ山ばかりだ。赤レンガ造った家、近
くを鳥が飛んでいる。手の届くころに巣を作っている。鳩かなと思っていると
誰かがカラスだといった。??白と黒のまだらのカラスなんて......、不思議
に思ったが誰も私達の疑問を答えてくれる人はいなかった。

徐々に田舎の風景に変ってくる。日本のネコ車によく似た車を押す人、赤茶色
の鶏もよく見た。列車は大きな駅に着いた。

大きな駅では日本人の国防婦人会がお茶の接待をしてくれた。夕飯のお弁当も
配っていた。弁当の殻を窓から捨ててはいけないと止められていたが、誰かが
走る列車から食べ残しの弁当を捨てた。するとその弁当の殻に人が群がってく
る!?それを面白がって、残り物が入っていない空の弁当を投げる者もいた。

悪いこととも思わずに面白がっていたようだったが、私の周囲は誰かが「そん
なことは止めよう!」と言ったのでする者はいなかった。

りんご畑が見えた。とても大きな畑に驚いた。また、真っ黒な豚にも驚いた。
私は白い豚しか知らない。犬じゃなかろうかと思ったが「あんな足の短い犬が
いるかや」と言われてよく見ると、やはり豚だった。

朝鮮の旅は続いた。珍しいものに目を奪われたり、みんなで歌ったり、トラン
プに興じたりして騒いだ。もうすぐ新義州だ。新義州には鴨緑江があり、それ
を越えると満州だ。汽車が満州に入ると、みんな満州観察を始める。

朝鮮ではほとんど白い服だったが、満州では黒い服ばかりだ。全てが朝鮮とも
日本とも違う。安東にしばらく停車して、また走り始める。奉天駅に着くと、
東北から来た人たちが降りた。奉天の二三七部隊に配属になるのだ。

私達はそれからもさらに旅が続き、もう汽車の旅に嫌気がさしてきた。それで
も汽車は走り続け、釜山を出てからニ日、やっと錦州に着いた。はっきりとし
た日は覚えていないが、四月十二日頃ではなかったかと思う。



                           = つづく =
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││お便りで頂きました感想。
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毎回満州青春録を心待ちにして読ませていただいています。
いよいよ満州に到着して、これからの展開が楽しみです。

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