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┃ 満州青春録 :―――――――――――――――― by 松本進さん
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☆ 昭和18年初頭・高等小学校卒業 ―――――――――― 2003/09/05
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昭和十八年、高等小学校の卒業を2〜3ヵ月後に控えた頃から、毎日のように
先生から進学や就職の説明があった。その当時、中等学校へ進学する者は38
名中8名、あとはみんな就職したり家業の手伝いで、進学しないで働くことの
ほうが当たり前の感覚であった。
先生は地元の平岡末一先生で、とても優しく良い先生だった。親身になって私
のことを考えてくれた。ある日、まだ進路の決まらない2〜3人を呼んで「郵
便配達をしてみんか」と言った。しかし誰一人返事をする者はいなかった。
気乗りのしない私たちに、会社名の入った紙を1枚1枚めくりながら、細かく
説明してくれた。
「松本はどこか希望するところはないのか?」
「ありません」
「君、ぜいたくを言うなよ。良いところは随分とあるぞ。よく考えておけ」
そう言って帰され、その翌日また呼ばれた。
「考えたか?あまり行くところを選ってものお‥‥。かといって東京、大阪な
ど遠いところへいくのものお‥‥」
独り言のようにつぶやきながら「もう一度見てみるか」と就職のリストをめく
り始めた。
「先生、あります」
「ほうか!どこぞ?」
「はじめのほうです」
先生は、リストをさっき説明してくれたところへ戻した。
「そこではないです。一番初めの、今までめくってないところです」
「おお、あれはいかんぞ。満州ぞ」
「その満州がいいです」
「満州のどれぞ?」
「錦州751部隊と書いているところです」
「ここか!君‥‥」
先生はしばらくの間、私の顔をジッと見ていた。
「おまえ本気か?東京や大阪とは違うぞ。朝鮮より遠いぞ。そのことを考えた
んか?」
「はい」
「組で一番おとなしい者が、えらいこと考えるもんよのう。しかしのう、これ
は部隊ぞ。相当に厳しいぞ。死ぬかも知れんぞ。行き先もどこやらハッキリ
とわからん。こんな遠いところへ行く者は、昨年も誰もおらん。どこの学校
にもおらん。やめとけ、やめとけ‥‥。どうしても行きたいんか?」
「はい、行きたいです!」
「家に帰って、お母さんとよう相談してこい」
先生の説得に、私は全然耳を貸そうとしなかった。満州国錦州陸軍軍令第11
期生、それが私の希望する仕事であった。当時、軍といえば子どもはみんな憧
れた。胸をワクワクさせながら、私はまず兄に相談した。
兄はさすがに驚いた様子だったが、私の話を真剣に聞いてくれた。
「ほうか。それは遠いの。おまえが本気で行こうと思うんじゃったら、わしが
止めるわけにはいかんが‥‥。少ない田で、このまま男二人が家にいて百姓
しても良うないし、わしが出るか、おまえが出るかじゃが‥‥」
「いや、それは次男のわしが出るべきじゃ」
「しかし、遠いの」
「一年経てば戻ってくるし、どこへ行くのも同じことさ」
「そう簡単には戻れんぞ」
まだまだ子どもの年齢だったが、一人前の大人同士のような会話だった。
案の定、父と母は大反対だった。
「行ったら、おいそれとは戻れはしない。そんな遠いし寒いところ‥‥そんな
遠いところに行かんでも、なんぼでもあろげ」
しかし私の気持ちは変らない。次の日、先生にハッキリ満州に行くことを伝え
た。また家で反対されたこともすべて報告した。先生はもう止めなかった。
「頑張れよ」と言ってくれた。後の手続きは先生が進めてくれた。
両親からすれば当然の反対だった。親戚や姉たちなどが、入れ替わり立ち代り
説得に来る。「軍属といっても軍隊以上に厳しいのだから、そんなところに志
願しなくても‥‥」と言われた。
実際の厳しさは入ってから思い知ることになるのだが、この時の自分にはどん
なものか想像できなかった。
最初に相談した兄は「おまえ自身の将来じゃけん、行く行かんはおまえ自身の
問題じゃけん、最後はおまえが決断せい」と言いながらやはり不安げで、小さ
いときからのライバルがいなくなる寂しさも感じていたのではないかと思う。
兄のその時の言葉は、渡満後ずっと頭から離れず、私の励ましとなった。
みんなが反対すればするほど、私は頑固に行くと言い張った。
同級生も驚いたが、「思い切ったもんよのう、頑張れよ」と、みんな励まして
くれた。校長先生は朝礼で「今度の卒業生の松本進君は、軍の仕事で満州に行
くことになった」と全校生徒に話した。初めて大勢の人の前で誉められて、と
ても誇らしい気持ちになった。
とうとう両親も諦めた様子で、母は準備をしてくれた。四歳年上の清子姉も何
かと心配して準備を手伝ってくれた。出発は4月3日に決まったが、3月の下
旬には父が病気になり寝込んでしまった。
= つづく =
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