中国レポート ―――――――――― by 平野信幸さん
☆ 中国視察懇談:3.質問に対する所見(1) ―――― 2004/06/07

2004年3月、地域振興に関るシンクタンクと日本国政府機関の方々による
「中国進出企業の実態と、今後の日本企業の中国進出」に関して、現地調査の
ご来訪を受けました。

ご来訪に際しまして「事前の質問」があり、また小職の中国進出実体験として
の「中国レポート」を資料として提出しました。
ご来訪関係者のご理解を得まして、資料及び懇談内容(小職の回答)を、5回に
亘り「中国レポート」として連載します。

―――― 政府機関より頂いたご質問への所見(その1)

―― 1.中国の現状

1)中国の人材について

03年、中国の人口は約13億人で、20〜40歳の労働者世代人口は各世代
2千〜2千4百万人といわれております。毎年、3百万人以上が大学受験をし
ており、2百5十万人以上の学卒者を出していると思われます。
(04年度の学卒者は約2百8十万人)

全体的で見るならば人材は豊富といえますが、中国進出日本企業にとって必要
な人材に限定すれば、極めて不足しています。

中国の人達は独立心が強く、改革開放以来、中国の民間企業は200万社を超
え、都市部においては12〜15人に1人は老板=ラオパン・社長)になると
いわれています。現在の中国は少数の企業家と、大多数の一般労働者で占めら
れ、多くの日本企業が必要とする中間管理職の人材が不足しています。

このため、人材紹介会社によるヘッドハンテイングが盛んで、中国進出の企業
増加によって需要が高まり、コストの上昇と質の低下が起きています。今後の
中国進出企業においては、事業推進に大きな懸念材料となることが考えられま
す。独立やヘッドハンテイグによる人材の流出を止めることは不可能であり、
事業継続のためには、今後管理職の育成が最も必要なことになるでしょう。

日本企業に必要な人材の育成は、一企業で解決できる問題ではなく、中国に進
出している日本企業が全体の問題として人材の育成をする必要があるのではな
いかと思います。

2)技術力について

これまで、一般的には中国の技術レベルは、日本より10〜20年遅れている
といわれておりましたが、IT革命によって情報の流れは加速度的に速くなり
その格差は著しく縮まっており、航空機や宇宙関連の技術においては、日本を
越えている分野もあります。

過去、日本企業は事業の再編・統廃合によって、多くのリストラを実施してお
り、その流れは今後も続くであろうと思われます。その人達にも生活権があり
特に中高年の人たちにとって再スタートを切る場合、過去の経験を生かす道を
選択するのがベストの選択となるでしょう。

高い技術と謙虚な文化習慣をもった日本人の技術者は、中国企業にとって切望
する人材であり、日本人技術者にとっては新天地での再挑戦のチャンスであり
双方の利害が一致します。今後はこのような経緯によっても、日本の技術流出
は避けられないこととなるでしょう。(日本では、殆どチャンスがない)

3)部品について

部品等の品質については、問題の残されている分野もありますが、多くの外資
の進出によって、外国の企業と取引を行っている企業においては、品質・納期
・価格とも充分に競争力を持っております。

特に、中国に大きな市場がある分野については、その速度は目を見張るものが
あります。例を挙げれば、携帯電話に使用されているスピーカーは、2000
年の以前においては日本企業が世界の80%のシェアを占めていました。そし
て、過去の実績と技術力、そして高度な生産設備によって、他国の追従は当分
困難と自負しておりました。

それが、中国市場の拡大によって、中国の民間企業の果敢な挑戦が実を結び、
現在では1社で世界市場の30%近くを占有するまでに成長し、プライスリー
ダーにもなっている企業があります。今後、日本企業は新たな技術革新を行わ
なければ、同分野での市場奪還はおろか、継続さえも困難となるでしょう。

4)インフラについて

中国進出に関しては、現地の正確な情報を収集することは必須であり、国家級
開発区においても、道路・電力・ガス・水道等のインフラが整備されていない
ところも多く存在します。

開発区の担当者や現地コンサルタントの情報を鵜呑みにして、進出した後で大
きな問題が発覚し、事業計画の変更をしなければならない事態も発生していま
す。進出の決定には、必ず自分の足で、目で確認し、整備計画ではなく完了の
確定によって行うべきです。

電力インフラについては、何処の開発区も「問題がある」とは表明しません。
――故意に隠しているコンサルもある――この問題は、一開発区の問題ではな
く、中国全土の課題であり、「早くとも2010年までは解決されない」と、
覚悟する必要があります。

―― 2.取引先の要求

1)技術的要求(弊社取引先の実態)

中国企業:要求は高い。基礎的な技術力が不足している。
     そのために、論理的な議論にならない場合もある。

日本企業:日本での使用実績があり、日本と同程度の要求。
     日本からの指導によるものが多い。

欧米企業:本国での使用実績があり、理論的な要求で相互理解が得られる。

2)経済的要求(弊社取引先の実態)

中国企業:性能優先か価格優先かで、企業間で大きな開きがある。
     支払いは、前金・代引きが原則で、回収問題は殆どない。

日本企業:安価な価格を希望(日本製の価格と比較)
     支払いは、日本の制度を持ち込むことがあり、問題がある。

欧米企業:合弁形態によって、企業間に格差がある。
     支払いは、前金・代引きが原則で、回収問題は殆どない。

――3.日本の製造業について

1)日本製造業の将来について

自由競争の社会において、製造業が物造りをし、「市場獲得が可能な、自社の
条件はなにか?」を明確にする必要があると思います。その用件を満たすこと
が出来る産業・企業のみが市場の残ることを許されるのではないでしょうか。

その、市場獲得の条件は大別すれば、製品の価格・性能・納期(時間)・企画・
デザイン・アフターサービス等で、どの項目が優先されるかは市場形成の条件
によって異なるでしょう。自社の製品市場(日本の製造業)においての優先順位
はどのようになっているかを、調査・検証するとこが出来れば、残れる産業と
退場すべき産業は明らかになるのではないでしょうか。

製品価格が優先順位の高い分野における事業存続は、時間の問題となるでしょ
う。性能も一部の特殊な産業を除けば、僅かな時間的余裕が残されているに過
ぎないと思います。

2)日本国内に製造拠点を持つ利点はあるか

中国ではインフラや社会情勢を含め、先の読めないリスクが存在しており、こ
れは中国進出の企業にとっては大きなコスト負担になっております。日本では
「ジャストインタイム」の採用によって、在庫減らしコスト削減に成功しまし
た。中国でこの製造管理システムの採用は困難で、リードタイム(時間)を付加
価値に変えることができるのは「日本に製造拠点を持つ大きな利点」となるで
しょう。

今後は、中国で設計・開発した製品を、中国調達の生産設備によって、中国で
教育した人材を使い製造コストを削減し、更に日本を製造拠点として「メイド
インジャパンによる、性能保証」、そして「納期短縮」で「時間を売る」こと
が事業継続の最も有利な条件になるものと思われます。

3)製造業の共存共栄

企業間の共存共栄は、目標とすべき課題ではありませんが、日本本社と中国合
弁企業における共存共栄は、日本と中国に時間差を活用することができれば、
可能となるでしょう。

嘗て、日本がアメリカにビジネスを学んだように、日本は多くの分野で中国の
数年先を行っており、その情報と技術力や企画力によって、互いに補完し合う
関係は構築できると考えられます。

水やエネルギーと同様に「技術も高い所から低い所に流れる」、これは自然の
摂理であり、一時的に制御出来たとしてもそれを継続することは不可能でしょ
う。今後の日本の製造業に求められるのは、「これまでに習得した技術は古い
ものと認識し、新しい情報と価値観によって、企画と創造を積み重ねること」
だと思います。

―― 5.中国と日本の間における、製造業の共存共栄はあるか?

―― 製造業事業間の共存共栄

過去、「日本国内において同業種間の共存共栄は存在できたか?」
電機業界のVHS対ベーターに象徴されるように、自由競争社会における共存
共栄は「理想的な題目」ではあっても、「その実現は現実的ではない」と言わ
ざるを得ません。それは製造業に留まらず、あらゆる産業においてもいえるこ
とでしょう。

共存の維持には一定の規制が必要であり、共栄の継続には企業間(国家間)の密
約が発生することは、歴史が示している通りです。これは自由主義経済の原則
から逸脱した業界のルールが生まれることとなり、他者の参入を阻害して企業
の自助努力を削ぎ、そして生産効率の低下を生み、結局はその産業の衰退を招
くことは必定です。

同じ価値観を共有する日本国内でおいてさえもそうなのですから、まして文化
や習慣の違う中国と日本の間において「共存共栄を目標とする」とこを、議論
検討すべきではないと思います。

それぞれの国は、歴史的背景や文化・環境など、多くの異なった条件を有して
おり、互いの国がその要件に合う産業の育成に傾注して集中的投資を行い、そ
の産業の更なる向上・技術革新によって発展させる明確な目的を持ち、それが
社会的な合意を得ることが出来れば、棲み分けは可能だと思います。

結果として「すみ分け=共存共栄」は実現するでしょうが(それが人類の英知)
現在、多くの国家が選択している自由主義経済システムにおいて「共存共栄」
を目標とするには「矛盾」が多く、それを解決できる「明解な理論は構築され
ていない」と思われます。

理想を掲げてそれを目標にすることは重要なことであると思いますが、論理的
根拠のない実現不可能な理想を追い求めることは「何もしないより罪が重い」
のではないでしょうか。

―― 雑感:中国株式市場

日本の幾つかの証券会社は、新たな市場として中国株式市場を注目し始めてお
ります。昨年末の、日本からの投資額=買い)残高は、約6千億円となってい
ます。中国の株式は香港市場とシンセン・上海で取引が可能で、国内市場では
A株=中国人のみ)、B株=外貨による売買)があり、人民元切り上げ圧力が
沈静化した03年9月頃から上昇を続け、6ヶ月で150%の株価になりまし
た。

しかし、4月中旬から約10%以上の下落が続いております。これは過剰投資
とインフレ懸念から、政府の金融引き締め策が発表され、それによって市場が
冷え込んでいるためと考えられます。

中国の株式市場は日本と違い、「売り・買い」とも価格指定が原則で、リスク
ヘッジのための先物市場もないようです。また、企業情報(ファンダメンタル)
に基づいた市場株価となっていない状況があります。

取引の手数料が極めて安いこともあって、数日間の売買が盛んであり、乱高下
が激しいもの特徴があります。(乱高下防止対策として、一日あたりの変動は
10%でストップとなる)

中国株に対する投資は、中国特有の市場を理解しなければリスクが高いと言え
るでしょう。(逆にそれを知ればマネーゲームとしては面白いともいえる)
中国株は、中国以外での過去の経験は通用しないように思われます。

政府の金融引き締め策は、株式市場におよばず、外国企業を誘致している工業
開発区の整備にも影響を与えており、中国進出に際してはこれまで以上の現地
情報の収集が重要になると思われます。

インフラ整備予定の開発区への進出計画は、充分な留意が必要です。

                        = この稿つづく =
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┃┃ この記事にお便りを頂きました。
┗━┛
┌─────────「Mickey Chinaさん」男性@五十代@会社員@静岡

はじめまして。

小生、大連に駐在経験があるものですが、アジアビジネスレポートは、「なる
ほど」とか「そうだなあ」などと、自分の経験と重ね合わせて読ませて頂いて
います。
今回の文章の中で、携帯電話のスピーカーが世界市場の30%を占めるほどに
なっているとは、本当に驚きです。
が…市場自体が中国に多いと考えれば、それも可能性としてはありうるのかな
あとも感じています

それにしても、世界市場の30%とは尋常ではないですよね。そんなメーカー
は、やはりスピーカー専門メーカーなのでしょうか?
それとも総合電気業でしょうか?
小生も中国市場には、大いに興味を持っているので、色々な方面の情報を知り
たいですが、よろしければメーカー情報などを教えて頂けませんでしょうか?

└──────────
 
┌──────────「平野信幸さんから」

「Mickey Chinaさん」、お便りありがとうございます。

2002年まで世界の携帯電話用スピーカーは、中国に進出している日系の大
手5社で殆ど独占状態でした。中国における携帯電話の普及は世界一で、本年
は3億台を突破するといわれております。

本年中における新規契約は6000万件以上と予測されており、これは全日本
市場の75%にも匹敵する市場です。2年で日本の1.5倍に相当する新市場
が産まれているのですから、中国市場の大きさには今更ながら脅かされます。

この携帯電話市場で、昨年は中国企業がシェアートップになり、全体の50%
以上を占めるまでに成長したようです。日系は何処も1%以下ということで、
苦戦しているようです。市場を見誤ったのか、本気に考えていないのかは解り
ませんが・・・

急進しているメーカーは、郷鎮企業から民間になって10年余の企業で、小型
スピーカーやブザーが当初の事業だと聞いております。今は携帯電話関連の他
の部品にも進出しており、現在、華東と華南の2ヶ所の工場で、6000名近
くの企業になっています。スタートは300人程度だったようです。

昨年の携帯電話の生産台数は、全世界で約5億台。

該当企業のスピーカー生産は、1200万台/月(年間約1億4000万台)。
日系企業最大手の生産能力は、1000万台/月(生産台数は約60%程度?)

具体的な企業名はご容赦下さい。
個人的なアドレスで情報交換をお願いします。 shhirano2001@yahoo.co.jp

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   上海平野(瑞穂)磁気有限公司
       平野 信幸
  mail: shhirano2001@yahoo.co.jp
   HP  : http://www.shmagtec.net/
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