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┃ 中国ひとりぼっち: ―――――――――― by ブーザンさん                ブーザンのホームページ(中国ひとりぼっち)

☆ 成都の7日間(2) ――――――――――――――――― 1995/05/21

−7

既に2軒のホテルを回ったが、気に入ったホテルが無かった。
現在の私ならばどんなホテルでもいいが、その頃の私には余り安いホテルには
泊まる自信がなかったし、治安の面でも不安があった。
日本からツアーで来る場合には、ホテルも見て廻る所も、旅行会社の決められ
たお決まりのコースで、また、安全も保証されている。

しかし、私の場合たった1人の気ままな旅行である。
自分の安全は自分自身で、守らなければならなかった。
車は成都の川沿いに走っていた。
その川を跨いだ橋を渡ると、すぐ右に折れた。

−8

その渡った橋から400m位走っただろうか?
左手に交通飯店があり、その中に入っていった。
タクシーの運転手がカウンターに行き、四川語で話しているので、聞き取れ
なかった。
3分くらいで話しを終え、私のほうを振り向きOKと手で表現して見せた。
そして荷物をトランクから出し、部屋まで運んでくれた。
時間は既に8時を廻っていたが、運転手は部屋に入ったまま出て行こうとし
ない。
備え付けのお茶の葉を湯飲み茶碗に入れ、それにお湯を注ぎ、まあお茶でも
飲んで下さいと、ソファーに座り、、
さて、明日からの行動はどうするの?と、私に問い掛けてきた。

−9

「明日は、成都にどんな観光名所が有るか自分で調べてバスを使うので、貴方
はもう帰っていいです」と伝えたが、運転手は帰る素振りも見せずにこう言っ
た。
「自分1人で・・・?それもはじめて来た成都で・・・?何が分かるというん
ですか?」と笑った。

私は日本から購入してきた「中国」の観光ガイドブックの成都の欄を、目次よ
りページを探して彼に見せた。

−10

彼は「北京とか上海などには、沢山傍線が引いてあるが、どうして成都のペー
ジには、何も引いてないのか?」と私に尋ねるが、話せば長くなってしまう為
「今晩めぼしい所に傍線を引き、明日の朝、バス停からそこへ向うつもりだ」
と返答すると、彼はその観光ガイドブックを見ながらニヤッと笑った。

何が、おかしいのか?
聞く気も起こらなかったが、彼は
「このガイドブックは、相当前の資料を基に作成してある。何故ならばバスの
料金や電車の料金は5、6年前の料金であり、ホテル料金も、やっと3軒目で
見つけたこのホテルの料金は140元と書いてあるが、今では260元になっ
ている」

もう既に時間は9時を廻っていた。
私は彼に「一体何が言いたい!」と、怒りたくなった。が、、

−11

心とは裏腹に、「この本は古い本なので、昔の料金になってるのだろう?」
と、言ってしまった。
が、すぐに出版年月日を見て、
「いやっ!古い本ではない。ここに1994年と書いてある、1年前だ!」
と、勝ち誇ったように言う。
「もう勘弁してくれ!」と叫びたい気持ちを彼に伝えた。

所詮本の作成に当たっては長年の年月を掛け、情報収集し、校正しなおして、
印刷出版となるので、この中に書かれている内容が5・6年前のものであって
も何も不思議ではない!
・・と、本の論争をし合ってみてもどうにもならないし、私は「今の問題は、
貴方がいつこの部屋から出て行くのか?」
一番の問題はここにあるが、わざわざ成都まで来てこんな話しも無いものであ
る。
「(私は)何故成都にいるのか?(こいつは)何故空港で私にターゲットをしぼっ
たのか?」何とも悲しい気分になってしまった。

−12

10時半を過ぎた頃から、運転手が自分の腕時計ばかり気にしている様子に、

「私が腕時計を見てばかりなら理解できるが、どうしてさっきから腕時計ばか
り気にしているんだ」
おかしな状況を聞いてみると、

「兄貴が10時にこの部屋へ来る事になっているが、まだ来ないので何かあっ
たのかと腕時計を見ていた。」
という意外な返事で仰天した。

「アンタは何ですか?私の部屋番号をお兄さんに教えたというんですか?」
ついに私は、我慢しきれず強い口調で彼に言った。

彼は「大丈夫、大丈夫!べつに貴方と一緒の部屋で寝るつもりはありませんか
ら・・・」
私は言葉に詰まった。

もうこのホテルの部屋に入ってから3時間近く経っていた。
「このタクシードライバーは何を考えているのだろう・・・?」
そんな事を考えていると、部屋のドアーをノックする音で我に返る。
運転手が応対に出て、多分彼の兄貴であろう人を部屋の中に導き、ソファーに
座るよう促がした。

−13

彼達は早口の四川語で5分ほど話していたが、いきなり中国語(普通話)で、
「紹介します。これが私の実兄です」
彼が握手を求めてきたので、心と裏腹に腕が自然に反応した。

「あんたが、日本人か・・?」
何か珍しそうな物でも見るような目つきで、私を見ていた。
こんなとき人は、どういう表情をしたらいいのか・・・?
彼は、今小さな旅行社の案内係りをしているという。

「一人でこの成都の町を出歩くのは危険過ぎる」とその兄さんは私に話した。
しかし、私はそれには答えず、
「どうして何も許可を得ずに、無断でお兄さんを呼んだりするのですか?」
と、逆に問い正した。

「貴方が明日どうすれば良いか困っているので、兄貴が来て私の車で案内する
事を、説得してほしい」と、自分が頼んだという。
私は呆れ返ってしまった。

−14

彼達の話しが延々と続いたが、私には半分も聞き取れない。
時間はもう12時前になっていた。
まだ風呂にも入ってないし、旅行ブックを見て、明日行く所をチェックしなけ
ればならなかった。
私は、彼らに早く帰ってもらいたい一心で、
「明日の朝8時にロビーへ来て下さい!その時に決めましょう」
と話すが、
「という事は、私の車で観光する事に、同意という事ですね」

−15

私は、疲れ混じりの「あくび」をしながら、「あなたのすきなように・・・」
と言うと、兄弟達は握手をしながら、私に
「明天見!(明日また会いましょう)」と、また、
「是!好人!(あんた良い人だ)」と言いながら、ドアーを出て行った。
が、またドアーをノックするので何かなとドアーを開けると、
「この辺は危ないから、鍵とチェーンをするように・・」と、ニコニコしなが
ら再度「明天見!」と言い帰って行った。

時間は既に12時半過ぎになっていた。
悪夢のような4時間半であった。

                            =つづく=
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