┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  迷子になったらここ!(^O^)  ━┓
┃
┃ 藤田健の"中国だけで驚いてちゃアカン!":by 藤田健さん

☆ カルカッタ編(9)或るマリファナ売りの人生 ―― 2002/03/20

そのインド人とは、何度かチャイ屋で顔をあわせたことがあった。彼の仕事は
マリファナの小売。そして、メインの客はツーリスト。―――大柄で、年の頃
は40代後半といったところか。どこか凄みのある、ほとんど笑うことのない
男だった。
ーー彼には得体の知れない不気味さを感じていたので、店での付き合いは挨拶
を交わす程度にしてあまり近づかないようにしていた。

ーーその彼が、数年前までは有名な猿回しだったという噂を耳にした。

その話に興味を覚えチャイ屋の常連客に訊いてみたところ、彼はどうやら雑誌
に写真が出たこともあるほどの有名な猿回しだったらしい。しかし、数年前に
猿に死なれてしまって以来、マリファナ売りに身を落としてしまったというの
である。

―― 或る日の午後、

たまたま彼とチャイ屋で隣り合わせに座る機会があった。まだ暑い日中だった
為に客もまばらで、私も暇を持て余していた。そんな時、不意に彼が話し掛け
てきた。
「ちょっと散歩に行かないか。おまえにインドの本当の貧しさを見せてやる」

ーー私は、彼の意図を測りかねた。彼はツーリスト相手の商売をしているだけ
あって、私がインドの貧民に関心があることを見抜いているようだった。
そんな私が鼻について、インドの悲惨な現実を私に見せつけたくなったのか、
ーーそれとも別に何かしらの意図があるのか。

少しだけ危険な匂いが感じられて躊躇したが、それでも彼が何を見せてくれる
のかを知りたくてついて行くことにした。

道すがら、ほとんど会話を交わす事はなかった。しかし、時折思いついたよう
に彼が語りかけてくる事があった。
「おまえはマリファナはやらないのか?俺は大好きだ。凄くいいぞ。」とか、

「人力車の連中がアスファルトが溶けるほど熱い路上で、なぜ裸足で車を牽い
ているか知っているか?彼らのカーストでは、サンダルを履く事が許されてい
ないんだ」 とか。

その時の私は、先の展開が読めないことに危うさを感じながらも、同時に未知
の領域に踏み込む時特有の緊張感を楽しみながら、彼の後ろを歩いていた。

そのうち、いつしか我々はスラム街の中を歩いていた。そして、その中の一軒
の前で立ち止り、「ここだ、入ってくれ。」と私を促した。
ーースラム街自体は、私も随分歩いていたのでさほど珍しくはなかった。しか
し、家の中に入るのはそのときが初めてだった。

その家は、形状が直方体の、変わった造りの家だった。壁は土色をしていて窓
は一切なく、単に入り口が四角く切り取られているだけの至極単純な作りだ。
屋根も真っ平ら。その上、天井の高さが1.5m程しかなく、室内で普通に立
つことさえできない。部屋の中は酷く殺風景で、広さは4畳半に欠けるぐらい
だろうか。

家の中には一人のみすぼらしい老婆が寝ていた。彼女は私の為に起き上がり、
挨拶をした。彼は、彼女の事を「私の妻だ」と紹介した。妻だというのだから
老けては見えたが実際には意外と若いのだろう。

しかし、何よりも私を困惑させたのは彼女の喉だった。なぜなら、彼女の喉に
は直径2センチほどのプラスチックの筒が突き刺さっているのである。そして
そこからヒュウヒュウ音を立てて息が漏れるのである。ーーーだから、彼女の
声も異様なガラガラ声だった。

貧しい人たちとの付き合いにある程度は馴れていた私も、さすがにその状況に
は圧倒されてしまった。ーー部屋の中は薄暗く、入り口の日差しだけが異様に
まぶしかった。そして、窓のない室内の空気はよどみ、壁は熱を持っていて、
とても人間の住む場所とは思えなかった。

その狭い室内で、彼はチャイをふるまってくれた。しかし、まるでオーブンの
中のような暑苦しい室内で、無口なマリファナ売りと、喉からヒュウヒュウ息
がもれる女と顔を突き合わせているのはひどく息苦しく、一刻も早く外に出た
い衝動に駆られた。

―― しかし、いよいよ彼の本題の話が始まった。

「俺の妻は見てのとおり病気で、とても金がかかるんだ。だから、仕方なく今
はマリファナ売りで生計を立てている。4年前に猿に死なれてしまって以来こ
のざまだが、もし猿が手に入れば、けっこういい稼ぎになるんだ。そして今は
猿の出産シーズン。いま猿を買えなければ、チャンスは一年後までお預けだ。
もし猿が手に入ったら、3ヶ月でトレーニングを終わらせて、それからは一日
150Rpぐらいは稼げると思う。」

ーーここで彼は話を止めた。ーー重苦しい沈黙の時が流れた。

彼は日本人の性格をよく知っている。多分、私の心理を見抜いてのことなのだ
ろう。話を区切ったあとに、決して金をくれとか貸して欲しいと自分からは言
わないで押し黙ってしまったところがひどくうまいと思った。

今度は私が口火を切る番だ。ーーしかし、なんと言ったらいいものか。見事に
罠にはまってしまったような心境だった。
重苦しい雰囲気と息苦しさに耐えかねて私の口は勝手に開いてしまっていた。

「猿は一体、一匹いくらなんだ?」 (訊いてしまった!)

「すぐそこで猿を売ってるから一緒に見に行こう。」ーーーと彼が答えた。

彼曰く、このあたりは猿回しのカーストが住むエリアなので、小猿を売ってい
る店があるということだった。――その店は、家を出ると本当に目と鼻の先に
あった。

子猿の値段は、一匹500Rpぐらいだという。――私のカルカッタ5日分の
滞在費に相当する。旅行中の私にとっては決して小さな金額ではない。しかし
日本円に換算すると大体2500円。ーーーもしこの金で彼の人生の軌道修正
ができるものなら、無論出せない金額ではない。

もちろん、お金をあげるのではなく貸すという形を取るわけだが、別にお金が
戻ってこなかったとしても、2500円ばかりのお金で彼の人生を好転させる
ことが出来るのならば安いものではないか。ーーそれもまた楽しいのではない
かと思った。

そう決心して子猿を一緒に見に行ったら、彼がさらに別の提案をしてきた。

「この店で子猿を買うと一匹500Rpだが、カルカッタからバスで6時間程の
村へ行くと、多分2匹で700Rpぐらいで買えると思うんだ。猿が2匹いると
掛け合いの芸ができるので猿回しの商売がとてもやりやすいんだがなぁ..。」

ーー確かにその提案には説得力があった。

だが、目の前で猿を買わせないと、お金を他の事に使ってしまうのではないか
という一抹の不安があった....一瞬悩んだ。しかし、彼の立場に立って考えて
みても、ここで猿を買って猿回しの商売に戻るほうが良いに決まっている。
そうでなければ、彼も現状から抜け出せなくてお先真っ暗だろう。ーーお金が
返ってくるかどうかは別にして、彼は必ず猿を買うがずだと確信した。

本当ならば、私もその村まで同行して、猿を買うのを見届けられれば一番良い
のだが、連日のあまりの暑さで、その頃の私にはその気力も体力も残ってはい
なかった。そのまま一緒に宿まで戻り、猿を買ったらすぐに私に見せに来るよ
う約束をさせて、その場で700Rpを彼に渡した。

ーーさあ、これで彼の人生が方向転換できるのだろうか。

わたしにとっても、彼がまた猿回しに復帰する姿を思い描くのは、なんとも楽
しい時間の過ごし方だった。彼がカルカッタの公園で、街角の広場で、生き生
きと猿回しの芸を披露して観衆の喝采を受ける姿を見てみたかった。それは、
この上なく嬉しい瞬間になるだろうと夢見て、独りほくそ笑んだりもした。

翌日からは、いつ猿を連れて彼が現れるかと心待ちにしてチャイ屋で待った。
しかし彼は現れない。ーーーサダルの通りでは、何をしている時にも目だけは
彼の姿を探している自分がいた。

ーーしかしその日以来、彼は忽然とサダルから姿を消した....。

10日ほど待ってみたが彼が現れないので、とりあえずはカルカッタを離れて
バラナシへ向かう事にした。ーー彼は、自分の人生を変えるチャンスをみすみ
す逃してしまったのだろうか?ーーそれほど彼は愚かな男なのだろうか?
ーーーその答えは、彼に会ってみなければ分からない。

一ヶ月あまりバラナシに滞在したあと、私は再びカルカッタに舞い戻った。

そして、サダル・ストリートを向こうから歩いてくる彼の姿を遂に発見した。
しかし一瞬、わたしは彼から隠れたい衝動に駆られた。彼の気まずい顔を見た
くはなかった。彼の言い訳をするところも見たくはなかった。
ーーなんだか、哀し過ぎる気がして。

私は、猿回しに戻って晴々とした彼の姿が見たかったのだ。もう、ケチなマリ
ファナ売りの彼を見たくはなかった。ーー彼が、そこまで愚かな男だったとい
うことを認めたくはなかった。

そんな事が頭をよぎった直後に彼と目が合い、挨拶を交わした。ーーしかし、
次に彼の口から出てきた言葉は..言い訳の言葉でもなければ謝罪の言葉でもな
かった。―――「金を貸してくれないか」

そこには、何の躊躇も気まずさも感じ取れなかった。ーー呆気にとられて我が
耳を疑った。
「その前に、俺が渡した700Rpはどうなったんだよ!猿を買ったんじゃない
のかよ!なぜ、見せに来なかった!」ーーーと言うのが私には精一杯だった。

それに対して彼は「勿論買った」と答えた。
「先ずはその猿を見せに来い!話はそれからだ!」と私は言い放った。

ーー2時間後、彼は猿を従えてチャイ屋に現れた。

しかし、残念ながら芸など全くできない猿だった。どう見ても、一ヶ月以上を
かけて芸を仕込んだ形跡は認められない。なんにも出来ないのだ。きっと近所
から急いで猿を借りてきたのだろう。
本当にガッカリした。これで、彼が猿を買っていないことがはっきりとした。
ーー哀しかった。ーーなんだか、何もかもがつまらなくなってしまい、力が抜
けていくのを感じた。

所詮、彼を泥沼から救い出せるのではないかと錯覚した自分が傲慢だったのか
もしれない。自分が、あまりにも人間というものに期待をかけ過ぎていたのか
もしれない。
不幸な人生を歩んでいる人には、目の前の幸せへの扉が見えないのだろうか。
それとも、傍から想像するよりもずっと幸せな人生を送っているのだろうか。

ーーまた人間というものが分からなくなってしまった。

ーーその後、二度と彼と言葉を交わすことはなかった。

                           藤田 健 
                           Fujita Ken

┏━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┃┃ メールマガジン読後感アンケート結果。
┗━┛
◇ 面白かった  (^○^) ----------------------------------- 33人 (94%)
◇ ふつう   (゜.゜)------------------------------------  2人 ( 6%)
◇ ツマラナかった(-_-)------------------------------------  0人 ( 0%)

┏━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┃┃ お便りで頂きました感想。
┗━┛
┌────────「shimaumaさん」男性@二十代@その他海外 2003/10/31

Roma ji de suimassen.(このコメントの原文はローマ字で書かれていました)

金持ちの価値観でものを見過ぎです。
インドに行って日本人(先進国)の価値観でものをみることがバカげています。
┌--------
│所詮、彼を泥沼から救い出せるのではないかと錯覚した自分が傲慢だったの
│かもしれない。
│自分があまりにも人間というものに期待をかけ過ぎていたのかもしれない。
│不幸な人生を歩んでいる人には目の前の幸せへの扉が見えないのだろうか。
└--------
この文章、何様のつもりですか? 正直腹が立ちます。サルまわしのオッサン
がサルを買わなくて当たり前。ただ単に、あんたはボッタクラレタだけ。

奥さん見たんでしょ?幸せとかそんなことの前に、生きることで彼らは必死な
んです。それを、上からチャンスを与えるとかいってることが同じ日本人とし
て恥ずかしい。ーー反論があったら返信して下さい。よろしく。

└──────────
 
┌────────「気分は情報無限さん」男性@三十代@大阪 2003/10/31

個人的にshimaumaさんの投稿に全然同意。

そもそも「不幸な人生を歩んでいる人には目の前の幸せへの扉が見えないのだ
ろうか。」という発言は人格すら疑いたくなるような暴言です。

└──────────
 
┌──────────「(^^) OJIN です(^^)」 2003/10/31

この記事を書かれた藤田健さんは、現在、さる発展途上国で起業奮闘中のため
お応えできかねる状況にあります。

代わりに OJIN めがお応えしたいのですが、インドの事情につきましては全く
分かっておりませんので的確な答復ができません。
事情に斟酌を頂きたくよろしくお願いいたします。

なお今後とも、ご意見や感想を頂けますようお願いいたします。

└──────────
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘
└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。 

藤田健の中国だけで驚いてちゃアカン!目次 アジアの街角から CHINACHIPS 総合トップ

SEO [PR] お金 ギフト  冷え対策 わけあり商品 動画無料レンタルサーバー ブログ SEO