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┃ 藤田健の"中国だけで驚いてちゃアカン!":by 藤田健さん
☆ カルカッタ編(6)―乞食さん(後編)―

またまた、いつものチャイ屋での出来事である。 このチャイ屋に座っている
と、何人もの乞食さんがお金をもらいに回ってくる。
乞食さんの顔ぶれは、毎日大体決まってる。
きっと乞食の人たちも集金のコースを決めているのだろう。

だから、座っている私の前を、毎日何人もの乞食さんが通っていく。

チャイ屋に通いだしてまだ日が浅い頃は、わりと気軽に小銭(1Rpか50パイサ
=0.5Rp)を渡していたのだが、、チャイ屋の面々と仲良くなるにつれ、乞食に
お金をあげるのを見ている彼らの、視線が気になるようになってきた。

なぜなら、そこのチャイ屋はチャイが一杯1Rp、従業員の収入は(3食付きで)
10Rpのチャイ屋である。
働きもしない乞食に、気軽にお金をあげるという私の行為に不愉快さを感じて
も不思議はないと思ったのである。

そこで、さらに彼らの顔色を窺ってみると、どうも彼らにとっては、お金をあ
げても構わない乞食と、あげるべきではない乞食、、端的にいえば人望のある
乞食と嫌われ者の乞食がいるらしいということが分かってきた。

彼らの判断基準はもっともで、働けるのに怠けたいから乞食をしていると思わ
れる者や、実は財産があるのに乞食をしていると思われる者(ちょっと信じが
たい話だが)そして性格の悪い嫌われ者などがいるという訳である。

彼らは、時に乞食の身の上を(多分噂で)知っていたり、その言葉遣いや雰囲気
などからその乞食のバック・グラウンドを推測したりしているようだ。

しかし、当たり前だがこれを通りがかりだけのツーリストが見抜くのは至難の
業である。
私は毎日チャイ屋に座っているので、チャイ屋の面々とは仲良くやっていきた
いと思っていた。

だから、自然と乞食にお金をあげる時にはみんなの様子を窺って、暗にみんな
が認めるような乞食にだけお金をあげるようになっていった。

その結果、チャイ屋の面々から合格点をもらえている乞食は、毎朝一回は私の
ところに立ち寄るようになっていった。
まあ、乞食さんの顔なじみ、といったところだろうか。

そんな中で、面々から一番尊敬されていた乞食さんは、乞食と呼んでもいいも
のかどうかも判然としない盲目の老人で、お金を受け取れるようにいつも右手
を前に突き出して、左手に長い杖をついて「アッラー・アクバル=アッラーは
偉大なり)」と唱えながら一歩ずつゆっくりと歩んでいくムスリムの老人だっ
た。

この人が若い頃からこういう生活をしているのか、どんな人生を歩んできた人
なのかは知る由もない。
ただの乞食なのか、聖職者なのかさえも私には見分けがつかなかった。

もう一人、私と仲良しになった乞食さんで、両足を失ってしまっていて、スケ
ボーのような車輪付きの四角い板に乗って、路上をガラガラといざって移動し
ているおじさんがいた。

彼は毎朝「Good morning ,Master!」と朗らかに挨拶をしてくる。とても明る
く自然で、なんだか幸せそうな顔をした人だった。
彼は英語もけっこう達者で、時々チャイをご馳走してあげて、世間話をしたり
もした。

インドについて書かれている本を読んでいると“乞食のカーストの子供は乞食
にしかなれないので、乞食をしている親は、子供が(乞食として)稼ぎやすいよ
うに我が子の足を切断したりするそうだ”と書いてあるのをよく目にする。
少しインドに詳しいツーリストは大抵この話を知っている。

だから、或る日私は、この足のない乞食のおじさんに確かめてみたくなって、
訊いてみたことがある。「おじさんは、なんで足を失ったの?」 と。
それに対するおじさんの答えは意外なものだった。

実はこのおじさん、数年前まではタクシーの運転手をやっていて、事故で両足
を失ったそうだ。だからこんなに英語が達者なんだ。
事故で両足を失っても、乞食をしながらでも、朗らかに逞しく生き抜いている
おじさんを見ていたら、すごいな〜、と、尊敬の念まで湧いてきてしまった。

このおじさんや、何人かの顔見知りの乞食さんとは、チャイ屋以外でも街中で
たまに出会うことがあった。
雨の日の彼らは、雨宿り出来る場所に一日中佇んでいてどこか物哀しかった。

マラリアなどの病気に罹っている時の彼らは悲惨だ。
熱があろうが辛かろうが、路上で過ごすしかないのだから。
薬が欲しければ(ツーリストにすがるなど)自分で頑張って手に入れるしかない
のだから。

しかし、生きるのに必死の彼らではあるけれど、どうにかこうにかその厳しい
状況を切り抜けた後の朗らかな彼らの笑顔を見ていると、なんだか生きていく
元気を分けてもらえるような気がしてきてうれしかった。
日々つまらない事で悩んだり落ち込んだりしていた自分にとって、彼らのたく
ましさはときにまぶしく、また、うらやましくさえ感じる時があった。

彼ら乞食の中にも、普通の日本人よりずっと生き生きとしているように感じら
れる人たちもいるのである。
私は、生きている実感というか、生命力を感じさせてくれる乞食の人に何人も
出会うことができた。

その頃から段々と、乞食にお金をあげるかどうか、そして、いくらあげるのか
という自分自身にとっての判断基準が決まってきた。
その頃の私にとっては、もう、乞食にお金をあげる理由というのは単純明快な
ものとなっていた。

簡単にいえば、お金をあげたい気分にさせてくれた乞食さん、つまり、元気を
分けてくれたり、こちらまで幸せな気分にさせてくれる笑顔を見せてくれたり
愉快な気分にさせてくれた乞食さんに対しては、私も彼らに幸せを運んであげ
たくなったということである。

ブッダガヤで出会った女性ツーリストが言っていた、「最近やっと私も素直な
気持ちで乞食にお金を渡せるようになったのよ」とはこういう意味だったので
はないだろうか。
私を不愉快な気分にさせる乞食に対しては、いっさい施しを与える気にはなら
なかった。

結局、乞食さんが私からお金を獲得できるか否かは乞食さんの人間性(或いは
人間力”といってもいいだろうか)にかかっていたと思う。
それは、乞食がたとえ子供だったとしてもである。

チャイ屋に座っていると時折、15人程の、物乞いの老婆の列を見かけること
があった。年金制度なんてないに等しいインドでの、身寄りのない老人の生き
る術なのだろうか。

しかし、驚いた事にその集団が来ると、チャイ屋のとなりの煙草屋の兄ちゃん
は、当人も全然金が無さそうなのに、物乞いの老婆全員に小銭(本当に小さな
額の小銭だとは思うが)を渡していたのである。
もしかしたら、その為の小銭を普段から用意していたのかもしれない。

そしてバラナシでは、ここで死んでガンガーに流してもらおうと、他所から集
まってきている老人達が、沐浴場への参道の階段にズラリと並び、喜捨を得る
ために座っている。
この人たちを乞食と呼んでいいものかは、よくはわからない。
ただ、施しだけを頼りにして一日中路上に座っている人たちだ。

彼らに喜捨をする側も、こうズラリと並ばれては大変だ。
場合によっては、2〜30人に渡さなければならないのだから小銭も用意しな
ければならない。
しかしそこはよくしたもので、ちゃんと小銭の両替商がそこで開業しているの
である。 施す側の人たちも、そこまでしても喜捨をしたいのであろう。

ツーリストのなかにはよく、乞食にお金をやっているときキリがない、と言う
人がいる。確かにそんな物乞いの集団を見たりすると、私だってそんな気がし
てくる。しかし、あげだすときりがないというのは間違いである。

乞食が多いのは事実だが、日常出会う人数には必ず限りがある。
とはいっても、一人残らずにあげているとかなり鬱陶しい事になってしまって
気軽な旅行気分がそがれてしまうのも、これまた事実であろう。

インドでは、福祉制度の貧弱さは先進国とは比べようもない。
税金だって払っていない人がほとんどだろう。
そこで、西欧的な福祉制度の代わりにそれを補っているのが宗教ではないかと
思う。

生きるのに困れば、乞食をするのは当たり前。
金持ちが貧しい人を助けるのも当たり前。
金持ちが多く支払わなければならないのも当たり前。
まあ、累進課税みたいなもんだと考えればわかり易い。

そんな意識を持っている社会なので、乞食の人もあまり自分の職業に引け目を
感じていないような気がする。
この国では、乞食の人や、足のないようなハンディキャップがある人でも、胸
を張って(?)がんがん普通の人たちと喧嘩をしている。
まあ、引け目なんか感じていたら生き抜いていけない厳しい社会という見方も
出来るだろうが。

生存競争の激しいインドでは、下手に乞食に施しを与えるとたくさんの乞食が
集まってきてしまい、彼らに取り囲まれて身動きが取れなくなってしまうとい
うのは本などでよく目にする話である。

しかし、私自身は経験した事もなければ見かけたことも、体験談を耳にした事
もないので、(本の著者にはあったのかもしれないが)それは取り越し苦労だと
私は思う。
無論、乞食に(日本人にとっては小額のお金のつもりでも)大金をあげたりすれ
ば、囲まれて騒ぎになることがありえないとは言わないが。

慈善団体が行っている(乞食を含む)貧しい人たちの為の無料給食サービスなど
を見ていると、彼らは実に整然と列を作って静かに順番を待っている。
正直、そのモラルの高さに驚いてしまう。

インドという国は、混乱と秩序が、激しい生存競争と相互扶助が、騙し合いと
公正さがうまく調和して存在している社会だと思う。
そしてそこにこそ、インドの奥深さと多彩さ、面白さが感じられるのである。

そのことは、乞食さん達とのふれあいを通して端的に感じたことでもある。

                           藤田 健 
                           Fujita Ken
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││メールマガジン読後感アンケート結果。
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◇読まなかった(ーー;)--------------------------------------  1人 ( 3%)
   
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││コメントボードに頂きました感想。
└─┘
┌--------「たろさん」

藤田 健さん。インドで感じた大事な話、ありがとう。

困っている人に対して、何が出来るか、何をしてあげるべきか。
情けは人のためならず(自分のためにしているのだと)を最近実感しているこ
ともあるのですが、今回のお話は身に沁みました。

└--------
┌--------「ヒロ99さん」

インドはまだ行った事はありませんが、乞食への施し方について教えていただ
いて楽しく読ませていただきました。

└--------
┌─┬───────────────────────────────┘
││お便りで頂きました感想。
└─┘
┏━━━━━━━━━━「みやさん」2002/03/13

藤田健様、みやです。お久ですね。

カルカッタの乞食の話、ヘンヨーイース(めちゃおもろい!)でした。
とくに悲惨さを背負った男の話が・・・・
両足のない男がどのような一日をすごしているかよ〜く分かって面白かったで
す。

でも、その男を一日中じーっと観察していた藤田様を見ていたインド人はもっ
とびっくりしたかも・・・ね。
「なんや、このおっさん、ヘンな日本人!?」って。
それとも日焼けしてインド人と変わらなくなっているのかしら?
カルカッタの町にすっかり同化して、座り込んでいても違和感がない・・・
のかもね。

インドを旅行した日本人は、
インドが大好きになってはまる人と
もう二度と行きたくないという人の二つに大きく分かれるみたい。
うちのダンナは後者です。

ボンベイの町で、ボンベイ大学の学生ですという若者に「私が案内してあげま
す」と言われてついて行ったら、墓場に連れ込まれて取り囲まれ、お金をせび
り盗られてね・・・
「二度とインドへは行きたくございましぇ〜ん」と言ってます。
渡したのは日本円にして千円ぐらいって言うからそれぐらいで済んでよかった
よね。

のこのこついて行く方が「アホ」なんでしょうが・・・

北京でおばあさんと孫娘の乞食を見ました。
夜中の11時過ぎに地下道を通ったらござをしいて寝ていました。
暑いときならいいけど、寒くなったらどうするんやろね?

それにしても藤田健様。
世界各地で世捨て人のように
優雅に時を過ごすあなたは一体何者?
仕事は?家族は?年齢は?生活費は?

べつに尋問しているのではありません。
ただの好奇心だけやから・・・ネ。

┗━━━━━━━━━━
 
┏━━━━━━━━━━「藤田健さんから」2002/03/14

みやさん、お久しぶりです。

> それにしても藤田健様。
> 世界各地で世捨て人のように
> 優雅に時を過ごすあなたは一体何者?
> 仕事は?家族は?年齢は?生活費は?

とのご質問ですが、この連載の中では「俗世間の事から離れたイメージの中で
読んで頂いたほうが夢がふくらんで楽しいのでは?」と思い、敢えて日本での
個人的生活には触れないように書かせていただいております。勇気を出して話
した末に皆さんのイメージ(どんなイメージ !?)を壊してもなんですし…。

でも、もしどうしてもお知りになりたい方がいらっしゃって、尚且つもし“オ
フ会”なんて開かれて直接お会いできる機会がございましたなら、その際には
(リクエストがあれば)お話をさせて頂こうかと思っております。

┗━━━━━━━━━━
 
┏━━━━━━━━━━「(^^) OJIN です(^^)」

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└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。 

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