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┃ 藤田健の"中国だけで驚いてちゃアカン!":by 藤田健さん

☆ バックパッカーのリスク管理術 ―病気編―

初めての途上国旅行を思い立った時、やはり病気の心配が心をよぎりました。
当初から長期旅行の計画だった上に、行き先さえも、香港から中国に入るとい
うこと以外は決まっていなかったので、知識不足から来る不安は否めませんで
した。

そこで、まずはガイドブックで健康管理についての項を読みあさり、次に途上
国における健康管理についての専門書を読みました。

最後の仕上げとして、横浜にある検疫所?(正式名称は忘れました)に黄熱病
や狂犬病等の予防接種とその証明書(国によっては、その証明書がないと入国
できない恐れのある国があったので)をもらいに行った際に、そこのお医者さ
んに途上国での病気の状況と予防法をお伺いしました。

そのお医者さんのおっしゃるには、「とにかく途上国は不衛生なので食事には
気をつけなさい。具体的には、生水は絶対だめ。ミネラルウォーターも品質の
悪いものがあるので信用しきれません。氷も、ミネラルウォーターを凍らせた
もの以外絶対だめ。氷入りの飲み物はだからだめ。お勧めは、炭酸系です。炭
酸には殺菌力があるので比較的安全です。しかし、コップで飲んではいけませ
ん。コップが汚れている可能性が高いので。さらに、旅行者のなかには不用意
にボトルをラッパ飲みする人がいますが、あれも危険です。口元が汚れていま
すから。だから、せめてティッシュでよく拭きましょう。あと、スプーンやお
箸もね。」

参りました。専門家のおっしゃる事ですから、その意見の裏には確かな根拠と
実例があるように感じられました。しかし、それでは旅行になりません。
実際、先生の説明には言外に「できることなら、そんな不衛生な国へ行くのは
危ないのでよした方がいいんだがな〜」というニュアンスが感じられました。

そうこうするうち、いよいよ旅行が始まりました。

私は、とりあえず1年以上の旅を考えていたので、予算は限られていました。
なのでミネラルウォーターを常飲するという選択肢は考えていませんでした。
それに、それではミネラルウォーターを売っていない場所には行けなくなって
しまいますから。

そこで、当初は生水に塩素系の殺菌剤を入れて飲んだりしていました。
しかし専門書によると、塩素系の殺菌剤では殺せない菌もあるとのこと。
できれば煮沸消毒がいいのだが、それも短時間では殺菌しきれないので長時間
(確か10分以上?)煮沸する事と書いてありました。
もう不安がいっぱい、殺菌剤入りの水さえがぶ飲みはためらわれます。

私は旅行に際して、地元の人と接する機会を楽しみにしておりました。そして
その機会は、列車の移動中などに訪れます。そんな時、近くの乗客からはお茶
やお菓子が勧められます。それは、地元の人たちと世間話を始める上での絶好
の機会です。それに、長い道中隣の人とくらいは仲良くなっておかないと、知
らない異国なので色々と困ります。(社内アナウンスが解らない等)

だから、極力おすそ分けの品やお茶は頂くようにします。しかし、これを食べ
たらお腹をこわさないだろうかとの不安が頭をよぎるのも事実です。
しかし、周りの乗客が皆食べている中で自分ひとり固辞したり、おもむろにミ
ネラルウォーターを取り出したりというのはやはり気が引けます。
だから、自然と食べてしまったりします。

そのことによってお腹をこわす事は十分にありえます。
しかし、少々のリスクは仕方ないと割り切っていくしかありません。
(余談ですが、この旅行者の心理を逆手にとって睡眠薬を仕込んでくる輩もい
るので、実際の状況はもう少し複雑です)

そんな経験を積んでいるうちに、地元の食事というものにあまり神経質になら
なくなってきました。

旅行が長くなるに従って他の日本人バックパッカーとの出会いも多くなってき
ます。彼らを見ていると、ほとんど地元の人と同じ常識で旅行をしています。
それは、とても自由でのびのびとした旅行です。

日本の衛生観念や感覚で判断すれば、、やはり途上国は不衛生です。
でも、現地の人は現地の常識に沿って元気に暮らしています。
同じ人間なのだから、同じことができないはずは無いと思いました。

当然、途上国に比べたら無菌状態のような日本からやってきたのですから、当
初はお腹をこわしたりしました。しかし、こわしなれてくるうちに、こわさな
くなるんですよね。
少々の雑菌ではびくともしない免疫ができたようです。

初めて海外で下痢をした時に、たまたま長期の日本人旅行者が大勢いました。
そこで、駆け出し旅行者の私が「下痢しちゃいましたよ〜」と不安げな顔で彼
らに報告をしたら、なんと、「俺はもう下痢が続いて一月だよ!」なんていう
返事が続出。驚きました。

彼らにいわせると、トイレに通ったりお腹が痛い状況であれば旅行に支障が出
るので問題だが、ただ下痢しているというだけだったら何の問題も無いという
のです。なるほどな〜と思いました。そして、その心構えで下痢を気にしなく
なったら、さらに旅行が楽になりました。

それに、地元の人をよく観察してみたら、下痢をしている人が多いのに気付き
ました。

途上国を旅行していてもうひとつ解った事があります。
それは、ある程度の病気のリスクは防ぎきれないという事です。

例えば外食に際して、食器が清潔だという保証はありません。(足を拭いた布
でそのまま食器を拭くのを目撃した事さえあります。)皿洗いをする人たちと
いうのは、いわば下働きの人たちです。彼ら全員に衛生観念を期待するのは難
しいと思います。一流ホテルの方が少しはましかもしれませんが、それでも同
じ国の人たちです。私は、五十歩百歩だと想像しています。

それに、チャパティなど、素手で持つ料理も不安です。多くの国で、トイレの
あとを(紙ではなく)水と素手で処理しているので、当然手を石鹸でよく洗っ
てもらわないと困るのですが、そんな事期待しきれません。

「あなたの店で食べたらお腹をこわした!」
なんて苦情は日本のように受け付けてはくれないのですから。

あと、店によっては蝿やゴキブリ、ねずみの数が半端じゃ有りません。
これは、一流レストランだから大丈夫だと思ったら大間違いです。
キッチンの状況は我々には見えませんからね。

だから、当然旅行が長くなれば結構怖そうな病気にかかる事があります。
しかし、それも旅行をしていてわかったことなのですが、意外に思ったよりも
病気は怖くないということです。(とてもつらいですけれど)

罹りやすい代表的なものは、“アメーバ赤痢”“B型肝炎”“マラリア”そし
て食中毒といったところでしょうか。これらの病気を患っている最中の人にも
何人も出会いましたし、単に患った経験のある人と云うだけであれば何人会っ
たか数えきれません。

しかし、大抵は皆安宿に泊まったまま医者に見てもらって直してしまいます。
抗生分質は偉大です。(ちなみに、B型肝炎とマラリアは抗生分質では治りま
せん。この二つを私は患いました。)

それに途上国のお医者さんは、現地特有の病気に関しては日本のお医者さんよ
りもはるかに優秀です。なぜなら、マラリアなんて日本のお医者さんは患者を
診察した経験自体のない人がほとんどなのですから仕方ありません。

無論、処置を誤れば死に至る病気はたくさんあります。亡くなられた実例も幾
つか伝え聞いた事もあります。
しかし、そのほとんどの例は発病直後の判断ミス、知識不足だと私は思ってい
ます。病気をあまりに甘く見たということです。

あと、現地の人が多く亡くなられる伝染病(コレラ等)もあります。しかし、
これも亡くなられる原因の多くは貧困だと私は思います。なぜなら彼らは、た
とえリスクを承知していても不衛生なものを食べざるをえません。

その上、病気になっても薬を買う事もできません。
極めつけは、路上生活者が病気になった場合、おちおち寝てもいられません。
寝込んだまま食料を手に入れられるほどの貯蓄を持っているとも限りません。

これでは病気になったらひとたまりもありません。

これに比べたらバックパッカーは若くて体力がある(ことが多い)上に、栄養
状態も良好、医者にもかかれるし安静にしていられる余裕もあります。
こじらせたり、誤診がなければ大抵の病気は直せます。
勝負は、発病直後の正しい処置にかかっています。

あとは日常でのコンディション作りにかかっています。病原菌というものは日
常的に体に入ってきます。その際、感染するか(発病するか)否かはその時の
体調に大きく左右されます。体調のすぐれない時にはちょっとの菌でもやられ
てしまいますし、体調がよければ抵抗力があるのでかなり跳ね返せます。

それは言い換えれば、あまり小さなリスクは避ける努力をするよりも体調管理
に努める方が大事だし、逆に体調が悪いときには神経質なくらいにリスクを避
けて早く体調を整える事に努めるべきだという事です。

それ以上のリスクは交通事故と思ってあきらめるより仕方がありません。
日本よりは当然相対的なリスクは高くなります。
が、それは日本とはあらゆる面に於いて状況が違うので仕方がありません。

そんなリスクを嫌うなら、途上国には行かない方が賢明です。
或は一部の駐在員の方々のように、自宅を出来る限り日本と同じような無菌状
態に保って極力現地との接触を避けることです。

当然、日本並みの環境を外国で求めるのですから、日本以上の出費は覚悟しな
ければなりませんし、その気苦労は大変なものでしょう。しかし、その対処法
は(仕方なく滞在している人を除けば)それでは何の為に外国にいるのか分か
りませんから、本末転倒というものです。

余談ですが、旅行中、日本の医療関係者(医者、看護婦、薬剤師、薬の開発研
究者等)の方と出会う事が何度もあったのですが、途上国の経験がなくて知識
の豊富な方ほど下痢や腹痛に悩まされている方が多かったのには驚きました。

理由の一つは、知識があるために衛生管理に神経質になりすぎて神経性の下痢
を起こしてしまったようです。
そしてもうひとつの理由は、完全な健康体を求めて下痢を止めようと試みて抗
生分質に頼り、腸内の有用細菌を全部殺してしまってさらにコンディションを
崩してしまうということです。

途上国で大きなリスクを回避する為には確かな知識はとても重要です。知識が
ありすぎて困ることはありません。しかし、それにもまして重要なのは経験と
現実的な対処です。状況を良く見極めてどの程度のリスクなのかを推測し、リ
スクを排除する努力によって損なわれるマイナス面とリスクを天秤にかけて判
断するしかありません。

どのような判断をなさるかはその人の価値観次第、人様々でしょう。

ただ、多くの場合、教育を受けているレベルの地元庶民の判断基準がもっとも
現実的で正しいと思います。

いま流行っている病気の情報とか、季節によって何の病気に(つまり何の食事
に)気を付けなければいけないか、地元で衛生上評判の悪い店はどこか、そし
て食べ物の良し悪しを判断する際のにおいを嗅いだり新鮮さを目で確かめたり
といった常識的な方法(これも経験なので教わらないと判断が難しい)に従っ
ていれば、少なくとも現地の中流以上の人たちと同じレベルのリスクですみま
す。

そして、我々に高度な医療を受けられるだけのお金があれば、当然命のリスク
は飛躍的に減少します。

最後に、個人的な意見ですが、無闇にリスクを恐れて何のために生きているの
か分からなくなるような生き方は、私は好きではありません。
だから、奥地も旅しますし、スラムも歩きます。そして、リスクを差引いても
有り余るものを得ることが出来たと私は確信しています。

(追記:だから私は、途上国でも卵かけご飯をやっぱり食べます。食べる前に
お皿に割って新鮮かどうかを確かめるくらいの注意が現実的で正解だと私は思
います。それでも避けられないようなリスクは私は気にしません。だって、卵
かけご飯は懐かしき日本の味、旅の友ですから。)

注意:以上の意見(簡単に云えば、現地に早く慣れた方が手っ取り早いという
こと)は長期旅行者や現地に住まれている方々を対象にして書いているので、
ツアーなどの短期旅行者の場合には当てはまりません。

現地の衛生状態に慣れるより前に体調を崩すだけで終わりかねませんし、短期
間であればミネラルウォーターだけで通すなどの神経質なくらいの注意もまた
現実的な選択だと私は思います。

                           藤田 健 
                           Fujita Ken
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