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┃ 藤田健の"中国だけで驚いてちゃアカン!":by 藤田健さん

☆ カルカッタ編(2)― 世界一のカレー屋を探して ―

カルカッタに初めて滞在してから、約一年後のことである。

私はその後幾つかの国を旅し、再度カルカッタを訪れた。Hotel Maria の屋上
にベッドを確保すると、早速いつものチャイ屋へと向かう。
店に着くと、驚いた事にそこには、金を持ち逃げしたシャンカールが舞い戻っ
ていた。どういう経緯で親父さんに許してもらったのか、とにかくまた店を任
されていた。

一年ぶりで会うシャンカールは、以前よりも少し大人になっていた。
きっと、様々な苦労のあった一年だったのだろう。
言いようのない感慨にふけりながら、また私のチャイ屋通いが始まった。

カルカッタでの生活の中心は、チャイ屋に座っている事と街を歩く事、そして
食事である。
食事といえば、やはり中心になるのはカレーだ。

私もインドを旅していて様々なカレー屋に入ったことがある。
デリー・バラナシ・ボンベイ…、そしてふとひらめいた!
カレーといえば、無論インドが本場である。

とすれば世界一おいしいカレー屋はやはりインドにあるはずだ。そしてインド
各地でカレーを食べた経験からいって、私にとって一番おいしいのはどうやら
カルカッタのカレーのようである。

ならば、カルカッタにこそ世界一おいしいカレー屋があるはずだ!

そう思って以来、カルカッタの街を歩く際には、どこに高級カレー屋があるの
かチェックをしつつ、世界一おいしいカレー屋の目星を付けて行った。
予算に限りがあるので、そうそう何軒も食べ歩く訳には行かないが、それでも
一流店で食べるくらいのお金はあった。

ーー何しろ私は、世界一物価の高い国から来た男なのだから。

目指す店は見つかった。宿からさほど遠くない。歩いても行けるのだが、威厳
を持って店に入るために今日は人力車で店に乗りつける。いつもは、スラム街
の散歩に馴染むよう、穴のあいたTシャツにビーチサンダルなのだが、久々に
飛行機搭乗用のワイシャツと靴の登場だ。

店の前に立つと、当然のごとくドアボーイがドアをあけてくれる。
席に案内されて周りを見回す。街中を歩いている人たちと違って、金持ちそう
な人たちばかりだ。数ヶ月ぶりで味わう贅沢な雰囲気。

ボーイがやって来た。
まずはオーダーだ。
このメニューの中から、世界一おいしいカレーを選び出さねば。

ここで、私の編み出した必殺のオーダー法を披露しよう。

メニューを見ると、一流店ならばカレーの種類が30くらいあると思ってもら
いたい。これがヒンドゥー語と、運がよければ英語で書いてある。
当然、インドに慣れていない日本人はメニューを見ても分からない。何しろ店
に入るまで、カレーの種類が多いなんて予想もしていなかったのだから。

だからメニューに面食らった日本人は大抵、自分の知っているカレーを必死で
捜す。そして、チキンカレーという字をメニューに見つけてホッとする。

しかし、これを頼むのは素人だ。大抵あとで後悔する。

何しろ、インドでいうチキンカレーという奴は、野菜も何も入っていない黄色
いルーの中に骨付きのチキンがポンと入っているだけなんだから。
チキンカレーは、インドカレーの中で一番面白みのないカレーだと私は思う。

インドカレーの名前の多くは、大概が具の名前である。
これは慣れると、大体覚える。
そして、私のお勧めはそれ以外の名前がついたカレーである。
これは、正直いって何が来るのかは(私程度の知識では)来てみないとわから
ない。しかし、この中にこそ旨いカレーがあるように私は思う。

これは推測なのだが、具から名前を付けているカレーは大体、具が一種類であ
る。多分、何種類かの具を使ったカレーは、具から名前を付けると名前が長く
なりすぎるのだろう。

だから、具の名前ではないカレーを頼むと大抵2〜3種類の具が入ったカレー
がやってくる。これが、味が複雑になっていておいしい場合が多い。

さらに、これは根拠はなにもないのだが、カレーの名前に地方の名前が入った
カレー、つまり、何々地方風カレー、これに何故かヒット作が多い。
少なくとも、私はハズレに当たった事はない。

こんな中から、野菜にマトンにシーフードにチーズ、カレーソースの種類も黄
色にオレンジに赤をバランスよく頼むと味に飽きがこない。従って、(中華を
食べに行く時と同様)数種類のカレーが頼めるように数人で連れ立ってカレー
を食べに行くのが絶対に良い。

あとは、好みに合わせてナン(チャパティーをふっくらさせた感じのパン)や
チャパティー、プーリー(チャパティーを揚げた物)、サフランライスなどを
主食に、タンドリーチキンを前菜に食べれば完璧だろう。

最高級レストランだから、当然客層も良ければしサービスも良い。
客のインド人の吸っているタバコなど、その頃私が吸っていたタバコの3倍も
値のするものばかり。ちょっと目配せすればすぐにボーイが飛んでくる。

オーダーをする時には、お世辞のひとつも言ったりする。本当に細かな気遣い
のできる店だった。味も、日本の一流店でも食べた事のない深みと繊細さが感
じられる期待通りのものだった。

このような店では、たとえチップの習慣が無いといわれるインドであっても話
は別である。果たして幾らぐらいのチップを置くべきか?
それとなく他のインド人を観察してみると、けっこう皆気前良く置いているよ
うだった。

やっぱり10パーセントくらいは置くべきか。
そんな事を考えつつ勘定書きを眺めてみると、二人で300Rpを越える程度の
支払だ。では、チップは二人で40Rpくらい置く事にするかと決めて、支払を
済ませて店を出た。

久々に先進国に戻ったような一時が楽しめて、それは楽しい夜だった。

翌朝、いつものようにチャイ屋に寄って朝食を食べる。
そこで、ハタと考え込んでしまった。

昨夜のレストランでは、二時間ばかりの食事を済ませて、一人あたり20Rpの
チップを支払ってきた。しかし、このチャイ屋で私は毎日7〜8時間も座って
いるのにチップなんて払った事がない。

確かに昨日のレストランは良いサービスを提供してくれた。水が減っていれば
注ぎにも来てくれたし、恭しく扱ってくれもした。それに比べればここは安っ
ぽい路上のチャイ屋だし、無論チップの習慣もない。

しかし、私は毎日々々この店に座っていて彼らの世話になってはいないのか?

高級店だから、地元の習慣だからという理由だけであの店では20Rpのチップ
を払ったけれど、してもらったことといえば、所詮は皿の上げ下げとコップに
水を注いでくれたこと、ドアを開けてくれた事、そして、恭しく接してもらっ
た事だけだ。

それに対するチップの額は、チャイ屋の連中の日給を越える額。
どうにもこうにも釈然としない気持ちになってしまった。
チャイ屋の連中に、客扱いされて少しでも気を遣われてしまうだけで申し訳な
いような気になってしまうのである。

しかし、では彼らにチップを払えばよいのかといえば、事はそんなに簡単では
ない。
第一、そんな習慣がないのだから、いわれのない金は彼らだって受け取るわけ
にはいかないではないか。乞食ではないのだから。

そんな釈然としない気持ちを抱いたままチャイ屋通いを続けていたある朝のこ
とである。私はチャイ屋にいるときに、チャイ屋の隣の煙草屋でタバコを買う
ことがある。

余談だが、インドの庶民は、紙巻タバコは高いのであまり吸わない。
もし吸うとしても、ばら売りのタバコを一本ずつ買う人が多いようだ。

その代わり、タバコの葉を黒檀の葉で巻いたビリーというタバコがお気に入り
だ。これは、1本々々はとても細いし短いのだが、確か30本で4Rpしなかっ
たと思う。だが、ビリーというのはブルーワーカー御用達のタバコという趣き
があるために、逆に高カーストのインド人は決して吸いはしない。

その頃に私が吸っていたタバコは、一箱(10本)が10Rp の“Wills”とい
う紙巻タバコ。シャンカールにとっては贅沢品だ。
だから普段、彼は紙巻タバコは吸わない。

さて、その時も、私は席に座ったまま煙草屋に声をかけた。

「“Wills” One Packet !」

すると、となりから間髪入れずに声がかかった。

「Two Pactets !」

シャンカールである。つまり、俺にも一箱買ってくれということである。
シャンカールの方に視線を向けると、彼はニヤッっとした。
私もつい苦笑いをして、

「OK.Two Packets!」 と答える。

奴はいつもと違って、「Thank You, Mr!」なんてかしこまって云いやがる。
しかし、彼のうれしそうな顔を見ていると、普段世話になっているチップ代わ
りにタバコを買ってやるのもいいかと思えてくる。

ふと、「これがシャンカール風のチップの取り立て方(?)かもしれないな」
と思った。

この店は、インドのお金持ちだったら決して立ち寄ったりはしない店。
私の釈然としない思いは、そんなインドの習慣を飛び越えてしまった、外国人
特有の感傷かもしれない。
本来付き合うことのない世界の人間同士が付き合い始めたからこそ露見してし
まった社会の矛盾。

この矛盾をどう受け止めたらいいのだろう。
この問いかけに対する答えを、未だに私は見つけられずにいる。

                           藤田 健 
                           Fujita Ken
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■読後感アンケートの結果。

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■ツマラナかった(-_-)--------------------------------------  2人 (11%)

■コメントボードに頂きました感想。

┌--------「kamsさん」

インドカレーの話面白かったです。

私もインドでカレーを食べました。
インドでも高級ホテルで食べるとおいしいです。
日本では食べられない味がします。
また、田舎でも地元の人が行く店はおいしいです。
高級ホテルとは違うおいしさ、家庭の味のようなおいしさがありました。
ただインド北部ではマトンカレーが多いようです。
インドは広いのでいろいろなカレー味があるのだと思います。

また、インドにカレーを食べに行きたくなりました。

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┌--------「ブラジル人さん」

いつも楽しく、かつ為になる話をありがとうございます。
ゼロを発明した民族が、カースト故に余計な苦労をしているのが、残念です。

今回のカレーの話、いつか自分の参考になる日がくることを願いつつ、ケン
さんの健康を祈ります。 ● 面白かった(^○^)

└--------
┌--------「テローさん」

どんな辛さか分からないですよ!
チャイというのはカレー屋さん?ですか。
そんなに長く居座っていて怒られないの? ● 面白かった(^○^)

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└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。 

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