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┃ 藤田健の"中国だけで驚いてちゃアカン!":by 藤田健さん

☆ インド編(2)― 力車乗りの現実 ―

インドを初めて旅する者は、誰しもその貧しさと剥き出しの生存競争の凄まじ
さにまず圧倒されてしまう。そして考える。

「なぜなんだ!」

次々と湧き起こるトラブル。目の前で繰り広げられるインドの現実。
肌で感じる空気。そのすべてがあまりにも日本とは違う。

其の事にとまどい、旅行者は皆一生懸命に答えを探し求める。
「インドでわしも考えた」と本のタイトルに名付けた椎名誠氏ではないが、
インドに行くと皆考え込んでしまうのである。

そして旅行者の多くは、日本で育て上げてきたそれぞれの常識に当てはめて無
理やりに答えを導き出し、わかった気になって帰っていく。
偉そうに言っている私自身、長いことそんな思考からなかなか抜け出せずに旅
していた。

「サイクル力車の稼ぎは凄くいいんだ」と教えてくれたインド人がいた。
「奴らはただ、意地汚いだけさ」と吐き棄てる旅行者もいた。

実際、如何にインド人にひどい目にあわされたかという話は、旅行者からは無
論、インド在住の日本人からだって幾らでも聞けた。
そして、自分が直面する現実のどれもがそれらの話を裏付けていた。

そんな私のインドに対する見方を変えるきっかけを与えてくれたのは、一人の
日本人ツーリストだった。
永らくインドに滞在していた彼は、実によくインド社会に溶け込んでいた。
よく日に焼けた肌は“インド人よりも黒い”とインド人に冷やかされていた。

服装は、普通の下着用のランニングシャツ1枚にくたびれたベトナムズボン。
(ベトナムズボンというのは、作業衣屋さんに売っている、よく大工さんなど
が履いているベージュ色をした作業ズボンである。)

彼はいつも、ガンジス川のガート(川岸にある沐浴場)にあるチャイ(インド式
ミルクティー)屋で日がな一日チャイ屋の親父と話したり、ガンジス川で泳い
だりしていた。

彼の姿勢は、驚くほど力が抜けている自然体だった。
彼は、インドに対する批判的なことは一切言わなかった。

そしてその姿勢は、付き合ってみてよく分かったのだが、決して無理をしてい
るのではなく、素直にインドのすべてを受け入れた末のものであった。

彼と一緒に過ごすことが多くなるにつけ、自然と自分のインド人に対する視線
も彼と近くなっていった。
すると、今まで見えなかったものが少しずつ見えてきた。

それは単純に言えば「インド人の側から現実を見る」という事なのだが、現地
の事情もわからない外国では、現地の人の視線に立ってものを見るということ
はなかなかできないものだ。

しかし、自分がまだ現地の事情がわかっていない事に、そして現地の人の視線
に立てていない事に気付いた時、そこに謙虚さが生まれる。
その時おのずと、インドの現実を受け入れられるようにもなっていた。

旅行者にはとかく評判の悪いサイクル力車についても、少しづつ彼らのことが
わかってくるにつけ、自分の考えの至らなさが同時にわかってきた。

まず、彼らはかなり稼いでいるという人がいるが、私はたまたまサイクル力車
の家族が何十世帯も固まって暮らしている部落を歩いた事がある。

その暮らしぶりは、どう見てもスラム街の一歩手前、インドでもかなり貧しい
ものだった。また彼らの多くはサイクル力車を親方から借りていて、その借り
賃を親方に払うと果たして幾ら彼らの手元に残るのか。

彼らは金を溜め込んでいるという人もいる。
しかし、インドでは、貧しい人ほど蓄えが必要だ。
なぜなら、もし彼らが生活に行き詰まっても、国は助けてくれないのだから。

もし病気になって仕事を休んだら、その日の稼ぎはゼロである。
もし怪我をしてしまったら、もしサイクル力車が壊れてしまったら。
もし蓄えがなかったら、不意のトラブルで本当に食べ物さえ買えなくなってし
まう。

私は一度、少しだけサイクル力車を漕がせてもらった事がある。

人が乗っていない時でさえ、驚くほど重かった。
あれに人を二人乗せ、30分漕いで約70円。
-- 今は、当時の倍以上インド・ルピーの為替相場が下がったので、もっと安
いと思う。

そして、そこから力車の借り賃等必要経費を差し引いて、果たして幾ら彼らの
手元に残るのか。自分があの職業につくことを想像したら(もしインド人に生
まれていたとしても)とても割が合うとは思えない。

日本でなら、日雇いの肉体労働でも1日8000円くらい稼げるが、果たして
インドでは同じ額を稼ぐのに肉体労働を1ヶ月して稼げるかどうか。

そして私は考えた。確かにサイクル力車の運賃相場は、バラナシ駅からガンジ
ス川迄10ルピーと地元ではなっている。まあ、暗黙の定価のようなものだ。
しかし、その値段が安すぎるんだと。

力車乗りたちのカーストはとても低い。つまり、社会的な力はろくにない。
だから、値上げができないのだろうと考えた。

実際、その後何度かバラナシへ行ったが、インド・ルピーの急激な下落によっ
て物凄い物価高になっているのにもかかわらず、力車の運賃相場だけは変わっ
ていない事に驚いた。これでは、彼らの生活はどんな事になってしまうのか。

そんな状況にもし自分が置かれていたら、金持ちの外国人と交渉する時ぐらい
はやはり高値を吹っかけるのではないだろうか。
なにしろ、本当に食うや食わずなんだから、格好はつけていられない。
そして、金になりそうな客に群がるのもこれまた当然である。

こうして考えてみると、食うや食わずの彼らが(彼らから見れば大金持ちの)
働きもせずにフラフラと海外旅行をしている外国人からさらに小金(サイクル
力車の場合でいえば、5円10円レベルから2〜3百円レベルまでである)を
せしめようとすることは、ごく自然なことのように感じられる。

(相場から考えればたとえ法外な額だとしても)我々にしてみたら大した金額で
はない値を吹っかけてくる彼らと、それに目くじらを立てて怒る金持ち外国人
の果たしてどちらが意地汚いのか。

----ただ、吹っかけられても腹が立たない事と、言い値を払う事は別である。
彼らの言い値を払っていたら、地元の物価が無闇に上がってしまうし、その他
にも色々と地元に影響が出てくる。----

そんなふうに思いはじめたら、彼らに高値を吹っかけられてもハラが立たなく
なったどころか、飾りっ気のない彼らの生き様が感じられて、なにやら楽しく
なってしまうのであった。

※ インドでリキシャーといえば、本当に明治時代の日本の力車が源流だそう
である。
そしてサイクル力車というのは、自転車と力車を合体させた定員2人の自転車
タクシーといったところでしょうか。

運賃は大体相場が決まっているのですが、天候や時間、客の懐具合等々によっ
て価格が変わるので交渉で決めることになっています。

                           藤田 健 
                           Fujita Ken
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘
■読後感アンケートの結果。

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 開始日:2001年12月25日/ 締切日時:2001年12月30日18時

■コメントボードに頂きました感想。

┌--------「たろさん」

パールバックの大地で、主人公が難民状態でリキシャをこぐ時の話と似ていま
した。

└--------
┌--------「異邦人さん」

働きもせずにフラフラと海外旅行をしている、他人の人生を批判する筋合い
は筆者氏にはないと思うよ。

└--------
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘
└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。 

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