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┃ 藤田健の"中国だけで驚いてちゃアカン!":by 藤田健さん

☆ New York・Midnight Harlem 【No2】

ハーレムに慣れるに従って、散策する時間帯を徐々に遅らせていった。
また、歩く範囲も最初は表通りを東西南北と縦走し、状況が大体つかめてきた
頃に裏通りへと踏み込んでいった。

その頃にはもう、ハーレム内の地域による空気の違いも感じられるようになっ
ていた。また、自分がハーレムに馴染んできた事を感じ始めてもいた。
街に馴染んできたかどうかというのは、細かに神経を配りながらもリラックス
して歩けているかどうか、地元の人達の視線を感じなくなったかどうかで大体
分かるものだ。

夜の10時以降にハーレムを歩く頃には、この街は健全で決して治安も悪くは
ないと私は判断した。

本当に治安が悪い街というのは、そこに住んでいる住民達にとっても(ツーリ
ストと同様に)治安が悪いので通りが暗くなると人影が途端に減ったり、緊張
感が漂ったりしてくるものだと思う。

真夏の日中、ハーレムの街はまるでオーブンのようだ。
コンクリートやレンガで出来た、風通しの悪い建物群。
きっと、クーラーのない部屋ばかりだろう。
外に出れば、アスファルトの照り返し。

こんなところに居たら、熱射病にかかってしまう。
通りには人もまばらで、皆暑さに生気を吸い取られぐったりしている。

それが夜の10時ごろになると、涼しさに皆息を吹き返しほっとしている。
玄関先の階段に座っているおばさんたちは、井戸端会議でかしましい。
車もまばらになった通りでは、子供達が自転車やスケボーで走り回っている。
5〜6歳くらいの子供達も一緒だ。バスケットコートも、若い連中で盛況だ。

そんなのどかな下町風景の中、アイスクリーム屋の移動店舗がゆっくりと住宅
地を巡回している。
広場では、若い男女が花火で盛り上がっている。
そんな生活臭あふれるのどかな風景は、熱帯を旅していた頃を想い出させた。

その雰囲気は、どうしてもマフィアという言葉にはつながらないし、心がすさ
んでいるとも思えなかった。
かえって、日本に居るときの方が人々のすさんだ気配を感じるくらいだ。
その後、ブロンクスの方まで足を伸ばしてみたが、私の抱いた感想は変わらな
かった。

その頃には、ハーレムに対する自分なりの感触が芽生え始めていた。
しかし、街の表情というものは、時間帯によって刻一刻と変化をするものだ。
例えば東京都心の街並みを思い浮かべてもらいたい。
明け方の街並み、通勤時間、日中、夕方、夜、終電後の深夜、休日。
時間の移り変わりと共に、街の表情は一変する。

だから、危ない街の代名詞のように言われているハーレムの実情を確かめる為
には、深夜のハーレム散策は絶対に外せない。

そこで、いよいよ深夜1時のハーレムを歩いてみる。

まずは地下鉄駅から地上へと通じる階段の出口近くに暫らくたたずんでみる。
NYの地下鉄は24時間営業なので、駅の付近はわりあいと深夜でも人通りがあ
り、また、警官が待機している事も多い。

その時の地下鉄出口には、若い黒人10人ほどのグループが長いことたむろっ
ていた。
日本でいえば、コンビニの店先にたむろっている高校生といった感じだ。

そんな中、些細な事から喧嘩が始まった。

1人の若い黒人男性が地下鉄出口の階段に、地下へ向かって立っていた。
この黒人、まるでマイク・タイソンのような体格をしている。
よってここでは、仮にタイソンと呼ぶことにしよう。

そこへ、もう1人の登場人物がちょっかいを出してきた。
この黒人、まるでバスケットの選手みたいに背が高い。
よってここでは、仮にジョーダンとしておこう。

その喧嘩は、ジョーダンがふざけてタイソンの背中を階段の下に向かって軽く
押した事から始まった。

不意を突かれて背中を押されたタイソンは、つんのめって階段を4〜5段下に
駆け降りたところで踏みとどまり、そして怒鳴った。
「あぶねえじゃねえか、この野郎!」

それに対して、ジョーダンが何かを言い返した。
そこからは、あっという間に殴り合いである。
マイク・タイソンとマイケル・ジョーダンのような大男二人の殴り合いは、ま
るで映画を見るようだ。

二人ともさすがハーレム育ち、喧嘩馴れしている。
その上、タイソンはボクシングの心得もあるようだ。
リーチの長いジョーダンに対するボクサー・タイソン。

二人とも、次々とパンチを繰り出すのだが、これをまた華麗なフットワークで
上体を揺らし見事にかわしてみせる。
日本人の泥臭い喧嘩と違って、まるでボクシングの試合のように一向にパンチ
が当たらない。

そこへ、駅で待機していた警官が登場。「おまえらいったい、何してるんだ!
まさか、喧嘩じゃないだろうな!」 警官に出て来られては、彼らも弱い。
ぶつぶつと何か言いながら、ジョーダンがその場を離れていった。
しかし、まだタイソンの方は憤まんやる方ない顔をしている。

案の定、警官が去ったら早速ジョーダンの後を追っていった。

その頃ジョーダンは、一足先に駅から200mほど離れたところにある小さな
食料品店にきていた。そして、そこにタイソンが乱入していった。

今度は狭い店内でのこと、二人は取っ組み合いの喧嘩となった。
ジュースのケースが押し倒され、商品が散乱する。
店の主人は、「頼むから表でやってくれ」とオロオロしながら声をかけるが、
何しろ相手はタイソンとジョーダンである。
とても止めに入って止まるものじゃない。もう、諦め顔である。

そのうちに主戦場は路上へと移り、最後にはタイソンがジョーダンに馬乗りと
なって勝負がついた。

その頃にはもう、二人のシャツは引きちぎられ、見るも無残である。
一応なにやら店にもわびを入れ、でもまだ二人は言い合いを続けながら地下鉄
の駅の方へと戻って行った。

駅まであと少しという所で二人は立ち止まり、何か話し合っていた。
そして驚いた事に、二人は抱き合って仲直りをしたのである。

これには私は、ほんとに驚いた。だって考えてもみてほしい。
日本でだったら、そんな殴り合いの喧嘩をしたもの同士が、すぐに仲直りでき
ますか。それも、見たところはガラの悪いあんちゃんたちである。

これじゃあ、まるで小学生の喧嘩じゃないですか。
なりはでっかいけれど、やってる事は小学生と変わらない。
その上、最後までナイフなんか出てこなかったし、結局大男が散々やりあった
末に二人ともほとんど怪我をしていない。
つまり、喧嘩といえども暗黙のルールがあったわけだ。

それはもう、今の日本ではなくなりつつあるほんとに健全な喧嘩の仕方ではな
いだろうか。その上、最後はちゃんと抱き合っての仲直り。
凄くまともな連中だと思った。

その翌々日には、また違った情景に遭遇した。

深夜の静寂に包まれたハーレムの通りをその時、私は足早に歩いていた。
そのあたりは、住宅街を少し外れた地域だった。

いくらハーレムに慣れたとはいえまたいくら治安が良いと感じ始めていたとは
いえ、やはり異国の地、それも人っ子一人見当たらない夜中のハーレムを1人
で歩くというのはどこか不気味で怖いものである。
だから、ともかく誰か人がいるところへ行き着きたくて通りを彷徨っていた。

しかし、やっと見つけた人影は、どうも様子がおかしい。
私の勘では、どうもジャンキー臭い。
こんな時だけは、いくら物見高い私といえどもさっさと道を折れてすれ違わな
いようにする。君子、危うきに近寄らずである。

なんだか、今日は嫌な感じだな〜と思って少し緊張しながら通りを歩いていた
とき、その場面に遭遇した。

人通りの全く途絶えた通りの歩道で、白人女性1人と黒人男性二人がなにやら
揉めているのである。
状況は段々と険悪になり、背の高い黒人がその30歳くらいの白人女性を小突
いたりしている。女の方もなにやらわめいているのだが、どうも分が悪い。

そのうちに状況はエスカレートしだして、男が女をひっつかむ。
電柱にしがみついて抵抗する女を背の高い男がひっぺがし、路上に組み伏せて
馬乗りになってしまった。
その間、もう一人の小柄な黒人男性は終始静観を決め込んでいた。

そんな中、状況がわからないまま割って入るのも恐いし、さりとて見過ごすわ
けにもいかないしと思いながら、私は通りの反対側で状況の推移を見守ってい
た。

一見したところ、黒人男性が白人女性をレイプしようとしている図そのもので
ある。だが、何故かその女性は私に対して助けを求めてこない。
私以外、近くに誰もいないのに。
その上、長いこと私は(反対車線からとはいえ)状況を眺めていたのである。
彼女が私に気が付かない訳はなかった。

また、何故かその背の高い黒人男性も、手は振り上げるのだがポーズだけで、
殴る事は結局しなかった。
どちらかといえば、相手を組み伏せて「どうだ、わかったか!」と言っている
風だった。

だから、私も彼女を助けに行くことに一抹の躊躇を感じていた。
それに、正直やっぱり、ちょっと恐くもあった。

だが、さすがにそろそろ助けに入る頃合かな〜と心の準備をしていた時、全く
良いタイミングで巡回中のパトカーが通りかかってくれた。
これで私が出て行かずとも済み、やれやれだ。

さて、そこで私が想像した次なる状況は、脱兎のごとく逃げ去る黒人二人と助
けを求めてパトカーに駆け寄る白人女性の図である。

だが、こともあろうにパトカーに駆け寄ったのはなんと背の高い黒人のほうで
あった。彼はなにやら、強く警官に言い寄っている。
そして、警官が白人女性からも事情を聞きながら、二人の間を仲裁している。
だが、どうも黒人男性の方に分があるらしく、白人女性は終始圧されっぱなし
だった。

そこまで事件の推移を確かめたところで、警官が私の方へやって来ないうちに
その場を離れる事にした。

生活臭あふれる街ハーレム。
ワルガキたちの闊歩する街ハーレム。
白人と敵対する街ハーレム。
貧乏人の巣窟ハーレム。

ハーレムの実像。

それはやはり、自分の足で歩いた者だけに見えるものだと思う。
無論そこで何が見えるかは、人それぞれだが。
                           藤田 健 
                           Fujita Ken
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 開始日:2001年12月11日/ 締切日時:2001年12月17日18時
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