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┃ 藤田健の"中国だけで驚いてちゃアカン!":by 藤田健さん

☆ 中国人的労働気質

今から十年以上前、中国のある地方都市で、確か爪切りを買いに国営商店へ
行ったときのことです。商品は万引き防止の為か、全てガラスケースの中に
ありました。だから、買いたいものが有ったらまず店員さんに頼んで、ガラ
スケースから出してもらわなければなりません。

さて、ここからがさすが中国です。ガラスケースの向こう側の、ほんの2m先
にいた店員さんに声をかけたのですが、無視されてしまいました。しかし無視
されたからといって引っ込んでいては埒があきません。仕方がないので、何度
も声をかけたところ、やっとこちらを向いて彼女は言いました。

「そこから先は私の担当じゃないから知らない!」

目の前のガラスケースは彼女の前までつながっており、どう見ても担当は彼女
以外に見当たらないのですが、彼女の返事はこうなんです。

「では、どうすればいいの?」 と聞けば「そのうち担当が戻るでしょ!」と、
素っ気無い事このうえない返事。
店内に客はまばらで、彼女も暇そうにポケ〜としているだけなんですけどね。

私は、憤まんやるかたない気持ちで宿に戻り、さっそく日本人旅行者をつかま
えて事のてん末を話しました。
しかし、彼らの言葉は 「だってここは、中国なんだぜ!」 とこれまた素っ気
無い返事。

中国が初めてだった私は、驚いてしまいました。

けれど、その後私も、中国に慣れるにしたがってそんな風景が日常のことなん
だとわかってきました。そして、徐々に不愉快さは薄らいでいきました。ただ
中国で何かをしようとするときは--妙に骨が折れることがあったので--チョッ
ト憂鬱ではありましたが。

その頃の中国では、店の人間の方が客よりも態度がでかいのは当たり前。
そんな状況に気後れしてしまう我々日本人は、どことなく“売って頂く立場”
そして売り子は、“めんどくさいけど売ってやるよ!”という態度。
これが日常茶飯事でした。

だから、我々長期旅行者はそんなカルチャーショックを楽しみつつも、やっぱ
りどこか中国に疲れていました。

お金を払ってもつり銭をくれないこともありました。仕方がないのでつり銭を
要求すると、「つり銭が欲しいだって?なんてあんたはケチなんだ!」といっ
た感じでつり銭を放ってよこしてきました。もっとも、釣りを放ってよこすの
も、怒った顔をしているのも、いつものことでしたが。。。

市場に果物を買いにゆけば、天秤式の秤で重さをちょろまかすなんてのはいつ
ものことです。お金の支払いが絡むときは、本当に気が抜けません。
だから、知らず知らずのうちに我々の顔つきもしかめっ面になってきて、なん
だか神経もささくれ立ってきていました。

そんな状況の中でたどり着いたのが、雲南省大理です。

その頃の大理でのバックパッカーの常宿は、第二招待所。そして、今から話題
にするレストランは、その第二招待所の真正面にありました。

そのレストランのオーナーはチベット人で、年の頃は30代後半、坊主頭で落
ち着いた感じのなんともいえない雰囲気をもった魅力的な人です。

何故か、そのレストランの中は、同じ中国とは思えないしゃれた雰囲気です。
ちょうど日本の多国籍料理屋でも思い浮かべていただければいいでしょうか。
そして、よく店内で流れていた曲はヒッピー界のカリスマ Bob Marley 。
一番人気のメニューはステーキでした。

穏やかなチベッタンのオーナーはとても商売上手で、我々旅行者の心情を見事
に見抜いていました。

まず、店内に入るとにこやかに迎えてくれます。
もしオーダーミスなどのクレームが入っても、絶対に客と議論などせず、すぐ
謝ってにこやかに対処してくれます。
店を出るときは、“Thank you. See you tomorrow.” といった具合です。
そして、常連になればより一層居心地の良くなる店でした。

「え? そんなの当たり前じゃないかって?」

そうです。確かに西側諸国では当たり前のことです。しかし、そこは中国だっ
たのです。中国旅行で漢民族の冷たい仕打ちに疲れ果てていた我々旅行者は、
そんな当たり前のサービスに狂喜したのでした。

当然一日二食をそこで食べ、大理の滞在もみな長引きました。そして、大理は
中国のパラダイスだという噂は、中国国内はおろか、世界中のバックパッカー
の間を駆け抜けていったのでした。

無論、大理という土地が、そのレストラン以外にも色々と旅行者を惹きつける
魅力を持っていたからこそではあるのですが。

世界中というのはあながち大げさでもないんですよ。我々長期旅行者は、いつ
も暇なのでおしゃべりばかりしています。そして、話が尽きるとよく、「今ま
で旅行したところでどこがよかった?」という話題になるからです。そんな時
大理の名前がよくあがるんですよ。

そしてその理由の一つは、良いレストランがあるからなのです。その頃の中国
を旅行していた我々のささやかな望みは、居心地の良い店で楽しくご飯が食べ
たいというものでした。

やはり雲南省西双版納の片田舎でのことです。村中どこを見回しても飯屋はど
こも似たり寄ったりだったので、とりあえず我々は、まだ十代とおぼしき田舎
娘がやっていた飯屋へふらりと夕食を取りに入りました。

店の風情は時代劇さながらのあばら家。かろうじて電気は来ていて、裸電球が
ぶら下がっていました。当然、メニューなんかありません。

メニューのない店でのオーダーの仕方は、(我々日本人の場合)直接調理場へ
行って、数少ない食材を指差しながら、例えば、

「その青菜は炒めてね!それでいくら?」
「そのキャベツは、肉を加えて何か作って!それでいくら?」
「スープは、卵とトマトと何かあと一品野菜を入れてね!それでいくら?」

といった具合に頼みつつ、一品一品値段を確かめていきます。
トラブルは嫌ですからね。

しかし、そのあたりの店ではどこでも、野菜のおかずが一皿1.5元〜2元、
肉や魚が入ると3元位、ご飯は茶碗一杯6角と判で押したように相場が決まっ
ていました。だって、どこも似たり寄ったりの安飯屋なんですから。

そしてそこの店を取り仕切っているのは世間知らず(に見えた)田舎娘です。
我々は3人でしたが、ひとりは中国人に間違われるほど中国に溶け込んでいた
(無論中国語を話せる)T氏。もうひとりは、アフリカをゆっくり回った帰り道
の(確か、3〜4年)ベテラン・バックパッカーのH女史。

つい、旅慣れた者同士で気が緩み(私はまだその頃は全然旅慣れていませんで
したが)値段を聞くのを忘れてしまいました。

そしてお勘定となって金額を聞くと、我々の予想のおよそ3倍!明らかにやら
れました。田舎娘とたかをくくって安心していた気の緩みを突かれたのです。

でも、私はともかく、あとの二人は旅のベテランです。早速クレームをつけ、
値段交渉です。しかし、敵もさる者、一歩も引きません。夜も更けていく中、
客は我々だけでした。“このあと、どうなっちゃうんだろう”と心配顔の私を
尻目に、あとの二人は悠然と交渉を中断してお茶を飲みつつ談笑にふけり始め
ました。我々は、完全にその娘を無視して長居を決め込んだのです。

何しろ我々はその日最後の客ですから、我々が帰らない限り彼女も店を閉めら
れません。しかし我々は暇を持て余している長期旅行者です。どうせ宿に帰っ
てもおしゃべりを続けるだけなのですから、この店でお茶を飲みながらおしゃ
べりを続けても一向に構わないのです。

小一時間も経った頃、全然時間を気にするそぶりを見せない我々に、娘の方が
根負けして、「OK」とおもむろに言いました。我々の完勝でした。
しかし、こんなことがあると、どんな店に入っても気が許せません。またトラ
ブルが起きないだろうかとどこかリラックスしきれないのです。

そんな気分で中国旅行を続けている我々長期旅行者が、前述のような安心でき
る居心地のいい店を見つけると、狂喜乱舞してついどっぷりと逗留してしまう
のです。
このような状態を、バックパッカーの間では“沈没する”と呼んでいます。

何年かして大理を再訪してみると、その通りには続々とサービスのよい店が建
ち並んでいました。そして、あの店のオーナーは知らないうちに (レストラン
だけでなく) 何軒かの店を経営するチョットした町の名士になっていました。

その頃の中国では、旅行者相手の小さな商売であれば、客を集めることは結構
簡単なことだったのです。

想像するに、多分商売で成功することよりも、成功を嫉む地元の人達とどう折
り合いをつけていくか、役人たちの強請りたかりにどう対処するかといった事
の方がずっと難しかっただろうと思います。

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途上国の商売を見ていると、もう少し工夫をすればもっと利益が出るだろうに
と思うことがよくあります。人を騙すことばかり考えていないで、“まっとう
な商売をしろよ”と言いたくなる時も多々あります。
いい加減な仕事は多いし、客のことを本気で考えてはいないし…

でも、日本人のように自分を押し殺して働いていないので、なんだかとっても
自然です。それに比べて日本の都会は、能面のような顔をして歩いている人で
一杯です。確かに日本人は豊かになったけれど、そのために無くしてしまった
何かを、途上国では沢山見つけられます。

日本では、お客第一が常識ですが、人生お客の立場でいる時間よりも働いてい
る時間のほうが遥かに長いのですから、労働者の方がお客よりえらそうにして
いられる社会っていうのも案外良いのかもしれません。

でも中国人の場合、もうチョット客に愛想良くした方が、お互い楽しいと思う
のですが。
                           藤田 健 
                           Fujita Ken
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