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┃ 藤田健の"中国だけで驚いてちゃアカン!":by 藤田健さん

☆ ネパール・サファリ編

ネパール南部の平原に、チトワン国立公園という野生動物の保護区がある。
そこではサファリが出来る。一番人気はサイ。本当はトラもいるらしいが絶滅
寸前で、ガイドでさえなかなか見ることは出来ない。

あとは鹿や孔雀を見たり、バードウォッチングを楽しむ場所だ。
中の散策の仕方は3通り。ジープか象か徒歩。
そして私は、そのどれをも試みた。

まずはジープの場合。

川辺の決まった場所にいるサイの群れにジープで近づく。やはり(当たり前だ
が)動物園で見慣れたあの"サイ"だ。広々とした景色の中でのサイはまた格別
ではあるが、どことなく“檻のない動物園”といった感じで今ひとつ感動でき
ない。正直言って、テレビで見るサファリほどの迫力は感じられない。

なにしろテレビでは、動物専門のカメラマンが何週間も粘って撮っている。
その映像の中からハイライト・シーンだけを選りすぐって編集し、さらに解説
まで加えているんだからやっぱり面白い。

本物を見ても感動できず、テレビの方がかえって面白いと感じてしまう自分の
感性にこそ正直驚いた。サイの方はといえば、「せっかくくつろいでいるんだ
から、ほっといてくれよな!」 といった感じで憮然としている。

次は、象の背に揺られて。

象の背に、ツーリストが座れるように座布団が括り付けてある。前膝をついて
かがみ込んでいる象の鼻を正面からよじ登り、いざ出発。立ち上がると、予想
以上に視界が高く、実に眺めが良い。

下草の茂ったジャングルも、象は全く苦にしない。また、象に触ってみて初め
て、まるで針金のような硬い産毛で皮膚が覆われていることを知った。サイの
群れに近づいてみる。象に比べれば、意外なほどサイが小さく感じる。

ライオンでさえ象には勝てないというのがよくわかる。逃げまわるサイと追い
かける象。サイにとっては、全くいい迷惑である。

そして最後に徒歩。

無論ガイドと一緒である。正直言って、徒歩のサファリにはほとんど何も期待
していなかった。当然ジープや象に比べれば行動半径は狭く、また、既に見る
べき動物はもう充分見た後だった。

でも、“せっかくここまで来たんだから” と思って一応試してみた。

ガイドについて小川を渡り、草原を越え歩いていく。孔雀が重い羽をばたつか
せ、助走の末にやっとのことで宙に浮く姿などユーモラスでおかしかったが、
たいした動物は見かけない。なんだか“のどかなピクニック”といった気分。

そんな気分で歩いていたら、やっとサイ発見。ジープと象の上から飽きるほど
眺めさせてもらったサイである。もう、驚きもなければ感動もない。ガイドが
もう少し近づいてみようと言うので、20m程まで近づく。サイは草食動物な
ので、のどかなものである。とその時、突然!

「サイに気付かれた。木に登れ!」というガイドの声。

「そんなこと急に言われたって小学生の時以来木登りなんてしたことないし、
 元々木登りは得意じゃないんだから。無理言うなよな!」
なんて心の中でつぶやいていたら、
!私を置き去りにして、一目散にガイドが逃げてしまった!

そこでサイの方をもう一度振り返ったら、なんとサイがこちらをめがけて突進
してくるではないか!!!!
いや〜あせった、あせった。

いろんなごたくもどこかへ吹っ飛んで、何がなんだかわからないままに、何故
か私も木の上の人となっていた。下を見下ろすと、ほんの2m下にサイの角。
こちらを見上げて睨んでる。明らかに怒ってる。恐い。ジープや象で追かけま
わした仕返しだろうか。

「ジープや象に乗って、やりたい放題しやがって。素手の勝負だったら、人間
 なんかひねり潰してやる!」とでも言っているよう。

「動物園のサイと全然違う〜!」
「テレビのサイは、こんなに恐くなかったよ〜」

本物の野生の迫力が、骨の髄まで響き渡った瞬間であった。

しばらくの“にらめっこ”の末に、どうにかサイも怒りを鎮めてくれ、去って
行った。

「あ〜恐かった。こういう事態が有り得るなら有り得るって、事前に云ってく
 れよな〜。」
とガイドに言ったら、
「友達のガイドが一人、サイに突き殺された。」
とか、
「自分も3年前に一度、サイに突かれた事がある。これがその時の傷跡だ」
とか話し出した。

なんと、登った木が細いと、なぎ倒されたりすることもあるそうだ。
本当に恐ろしい。

それから後のサファリは、一気に緊張感あふれるものとなった。全身の神経が
研ぎ澄まされ、まるで野生に返ったようだ。

物音がした瞬間、ガイドが私を制して偵察に行く。“もし鹿のようなおとなし
い動物だったら急いで見に行かなくっちゃ!”でも、“万が一トラだったりし
たら…登れる木を探しておかねば!”(トラも、木登りが出来そうな気がする
けど…)

自然とその後は、“いざとなったらどの木に登ろうか、どこへ逃げようか”と
いうことばかりに気が回り登れそうな木伝いに歩いている自分がそこにいた。

野性の世界では、生身の人間は実に弱いものです。「腕力の弱い動物たちは、
こうしていつも怯えて暮らしているんだろうな〜。真っ暗な夜中なんか、ほん
とに恐いだろーな〜。動物って凄い。とても俺には、そんな勇気はないぜ。」
と野生の実感を噛みしめながら、帰路についたのでした。

………………………………………………………………………………

ケニヤでサファリに行った時にも、同じようなことを感じました。野生のライ
オンのすぐ前に車を乗り付けても、車馴れしたライオンは意に介しません。そ
れを見ていると、なんだか野生のリアリティーが感じられず、危なくないよう
に感じてしまうのです。

何年か前に、日本のテレビのリポーターが何の気なしに車から外へ出てしまい
ライオンに噛み付かれたのも、現場に来たらわかる気がしました。野生の実感
が感じられなくなっているんですね。

でも、キリンやインパラの走る姿には、「これがキリン本来の姿なんだな〜。
動物園のキリンとは、別物だ〜!」 と感激しました。考えてみたら、気候も
違う動物園の狭い檻の中に閉じ込めていたら、生気を失って当然ですよね。

それ以来、動物園に行って檻の中の動物を見ると「本当の彼らは、もっと精悍
で凛々しくて、野生の美しさにあふれているんだけどな〜。」と悲しくなって
しまいます。

今は、その気になればこうして本物が見に行ける幸せな時代です。自分がもし
子供時代に戻れたら、動物園やテレビの動物を見て感性を曇らせてしまう前に
本物の野生動物を見てみたいと思います。きっと、生まれて初めて接する野生
動物に圧倒されながらも、一生涯忘れることのない鮮烈な印象を心に刻めると
思うのです。

最近、ヨーロッパへ行った感想が「ディズニーランドみたいだった。」とか、
観光名所を巡る旅が“ガイドブックで調べたことを確認してまわる旅“になっ
てしまっているとよく聞きます。バーチャルリアリティー全盛の時代、本物の
価値がわからなくなってきているのかも知れません。

情報の海を泳いで暮らしている現代人は、知らないうちに知識として知ってい
ることが一番大事になっていて、本物を全身で感じ取ることの、経験を通して
知ることの大切さを疎かにしているんじゃないかと考え込んでしまいます。

                           藤田 健 
                           Fujita Ken
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