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┃ 藤田健の"中国だけで驚いてちゃアカン!":by 藤田健さん
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☆ 砂漠にて ― 前編 ―
その時私は、タール砂漠を旅していた。
インド西部、パキスタンとの国境近くだ。
私の頭の片隅に、昔読んだ"本多勝一"の「アラビア遊牧民」がきっとあったの
だろう。極限の気候で暮らす人々の生活を見てみたかった。その為には、一年
で一番暑い季節の砂漠を旅するのが最適だと思った。
村で唯一の宿屋に泊まる。
そこは、普通の民家が余った部屋に人を泊めているといった感じの宿だった。
そこで宿帳をめくると、なんとこの数週間、一人も客が泊まっていない。この
くそ暑い季節にわざわざ来るような変わり者は皆無ということか。その宿屋で
ガイドとラクダを手配してもらい、砂漠の旅が始まった。
ラクダを真近に見るのは初めてだったが、ラクダの足の関節は人間よりも一つ
多い。変わった生き物だ。
ひざまずいたラクダに乗る際は、気をつけないと立ち上がる時に振り落とされ
る。立ち上がったラクダの上は、予想以上に高い。思っていたより、股が疲れ
る。
実際に歩き出してから分かったのだが、この季節にはあまりの暑さの為にとて
もじゃないが日中の砂漠は歩けない。だから、ラクダで移動するのは朝と夕の
2時間だけ。
午前中の早い時間には、もう、砂漠の中にぽつんと一軒だけ立っている無人の
掘っ立て小屋へ到着した。中の広さは四畳半ぐらい。小屋の中には野ねずみと
ガラパゴスにでも居そうなトカゲが一匹。
この小屋はきっと、遊牧民の避難小屋みたいなものだろう。
そこで、とりあえず水を飲む。途中の井戸から汲んだ水は茶色く濁っている。
それを、布をフィルター代わりにしてコップにあてて飲む。
マズイ!土の味だ。しかし、無性に喉が渇いているので、さらにもう一杯。
こんな茶色い水でも貴重な水だ。
ガイドのバグワーナ氏の作ってくれた簡単な昼食を済ますと、あとはただ夕方
まで、じっと待つのみ。かって経験したことのない暑さの中、ただなにもせず
じっと待つのみ。あまりの暑さに頭は働かず、体は動かず、なにやら我慢大会
のよう。しかし、逃げ場はどこにもない。
まだ出発したばかりなのに、もう後悔している。何を好き好んでこんなことし
ているんだろう。
ちょっとした好奇心で来るには、酷暑期の砂漠に対する認識が甘すぎた。
やっと、暑さのピークが過ぎ去った。
しかし、いざ出発しようとしたら、鎖で両足をつないでおいたラクダが居なく
なっていた。四方は見渡す限りの砂漠だ。ラクダが隠れるような場所はどこに
もない。だが、視界の中にラクダは居ない。
果たしてこれで、無事にラクダを探し出せるのだろうか。不安がよぎる。
しかし、バグワーナ氏は簡単にラクダを連れ戻してきた。
さすが、砂漠の民だ。
また2時間ラクダで移動して、今晩は砂漠で野宿。日が翳れば涼しくて快適。
井戸で、ロープとバケツを使って水を汲む。結構きつい。
付近の動物たちも、水飲みの順番待ち。
バグワーナ氏が彼らの分も汲んでやる。砂漠の民の知恵か、はたまた優しさ
か。そこへ、遊牧民がやって来た。
百頭ほどの山羊の為に水を汲んでいたが、大変な重労働だ。驚くほどの量の水
を、ラクダも山羊も飲む。動物たちもやっぱり、喉の渇きを我慢していたのだ
ろう。いざ水を汲み上げ始めると、動物たちが我れ先にと争って大混乱だ。
水を汲み終わるまでに、2時間はかかっていた。
夕食後は、焚き火の近くで寝っ転がって星を眺めて過ごす。昼間の耐え難い暑
さが嘘のように平和な時間が過ぎてゆく。しかし、暫くしたらコガネムシの様
な黒い虫が集まってきた。それが、寝っ転がっている私の体の下にもぐり込も
うと、次々に突進してくる。何十匹もの黒い虫が、私に向かって這って来る。
バグワーナ氏の方を見ると、彼も虫につきまとわれて困っている。次々と摘ん
では投げ捨てている。それに習って、私も摘んでは投げる。しかし、いくら摘
んで遠くに投げても、性懲りもなく這って来る。
そのうちに、背中の下に入り込んだ奴を摘もうとしたら指先に激痛が走った。
転げ回るほどの激痛だ。一瞬頭の中を“サソリ”という文字がよぎる。
“もしサソリだったら、死ぬことはないのか!
“とにかく、毒を吸い出さねば。”
バグワーナ氏は、「何が起こった?」とオロオロするばかり。お互いのつたな
い英語では、このパニック時に意思の疎通はできない。
“もしこの地方のサソリが、命に係るような猛毒を持っているとしたら、すぐ
に指を切り落として毒の回るのを止めるべきでは?”
“2、3分のうちに何かしらの判断をせねば、手遅れになるのでは?”
頭の中を、様々な思考が交錯する。しかしやっぱり、指を切り落とす決断はつ
かない。一瞬、“とうとう来るべき時が来たか”と覚悟を決めそうになった。
暫くして、やっとさっきの黒い虫が刺す事があること。その際には、激痛が走
る事がバグワーナ氏との会話の中ではっきりとしてきた。
“あ〜、早まって切り落とさなくてよかった。”
命に別状のないことが判って、やっと冷静さを取り戻す。
しかし、激痛は一向に収まらない。
以前、アメリカ人の旅行者がこの虫に刺された時も「もうすぐ私は死んでしま
う!」と大騒ぎだったそうだ。それにしても、この火傷のような痛みは耐え難
く、しかしどう治療をしたら良いのか判らない。
バグワーナ氏は、近くに生えている草の樹液をつけて、そのうえに砂をかけて
くれるが、果たして有効な治療法なのかどうか。
とりあえずマキロンを吹いてみるが、また思い直して樹液をつけてみる。
こんな事態は予想しておらず、知識不足。もう少し、調べておくんだった。
その後、3時間ほどでやっと痛みも和らいできて、気持ちも落ち着いてきた。
どうやら、あの樹液は有効なようだ。
自然は、この激痛をもたらす虫と一緒に解毒作用のある草を近くに生やしてい
てくれる。。自然の神秘を感じる。
また、この全く水がない様に見える砂漠の地にも、わずかながらの植物と虫た
ち、そして小動物が生きている。
自然の厳しさと共に、そのたくましさと不思議さを感じる。
砂漠の植物は、葉っぱから水分を逃がさないように、いわゆる葉っぱらしい葉
はなく、まるで茎ばかりに見える。また、動物に食べられないように棘だらけ
だ。自然の仕組みは、信じられないほど良く出来ている。その“自然の神秘”
を感じるときは、同時に“人間の無力さ”を感じるときでもある。
途上国を長いこと旅していると、何度か身の危険を感じたり、場合によっては
命の危険を感じるような状況にぶつかる事がある。これは日本で生活している
限り、普通には巡り会わない状況だ。確かにそれは辛く、なおかつリスキーな
状況ではある。当然、自分からあえて求めることのない状況だ。
しかし、その経験を通して、日常では意識できない“死”を真近に感じること
の出来る貴重な経験であり、また、それは裏返せば“生”を実感できる貴重な
瞬間でもある。
そこに私は一人旅の大きな “価値”と“魅力” を見出してしまう。
藤田 健
Fujita Ken
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└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。

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