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┃ Chinese Puzzle ―世界から見た中国― :by FROMFAST007
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[Chinese Puzzle No.12 (住宅事情にみる中国都市部の"公と個")] 2001/11/05
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<ポイント>

(1)住居は人の生活の根幹を為すが、ここ十数年の住居環境の変化は中国都
市部における"公と個"の関係の変化を浮き彫りにしている。

(2)改革開放以前の住居は、四合院に代表される儒教的な大家族主義と集団
住宅に代表される共産主義の影響が濃厚。
両者は、公の為に個人の自由を大きく制限するという共通点を持っている。

(3)現在、北京ではマンションと郊外住宅の購買熱が高まっている。
投資対象としてのみならず、実家や勤務先から切り離された個人的な自由を確
保する場としての魅力があると思われる。

<本文>

(1)社会状況を写す鏡としての住宅事情

住居は、人の生活の根幹です。
従って、住居の在りかたはその社会の状況を分かりやすい形で映し出します。

例えば日本のベッドタウンに林立する団地群は高度成長を支えたサラリーマン
社会の縮図ですが、このような住宅環境は戦前の日本や現在の米国ではまず有
り得ないでしょう。
その理由を突き詰めていけば、立派な社会学的な分析になり得ます。

今回は、中国都市部における住宅環境の変化を追うことによって中国都市部に
おける社会とりわけ"公と個"の関係の変化を見ていきたいと思います。
抽象的な話に終始しがちな、マクロな社会の変化を具体的に説明する典型例と
して話を進めていきたいと思います。

なお、このテーマに関しては、張競氏という社会学者が興味深い研究成果を発
表されているので、興味がある方は本誌末尾の参考資料を参照下さい。
今回は他に纏まったニュースや文献がないので、主に張氏の研究内容を参考に
しています。

また、ここでいう"公"とはあくまで政府や伝統による束縛という意味であり、
市民社会でいう"パブリック"とは全く異なる意味合いで用いていることを予め
お断りしておきます。

(2)改革開放以前の住宅事情

改革開放以前の北京周辺の住居は二種類に大別されます。
伝統的な四合院スタイルと共産主義的な集合団地です。

四合院とは、四棟の平屋が中庭を囲むように作られた住宅です。
それぞれの平屋には祖父母、両親、孫夫婦などが生活するように造られていま
す。現在では、北京市街では観光用に特別保護されたものぐらいしか見当たり
ませんが、市街から車で二、三時間ほど走って農村まで行くと見ることが出来
ます。

四合院の基本的な思想は、言うまでもなく儒教的な大家族主義でしょう。
子や孫が年長者を敬い養うことを美徳とする一方で、それぞれの小家族のプラ
イバシーや快適さという視点は欠如しています。
実際、私が中国語を学んでいる教師は、若い頃天津の四合院に住んでいたそう
ですが、正直なところ人間関係が余りにも煩わしくて苦労したというようなこ
とを話していました。

もう一つの住宅形態が共産主義的な集合団地です。
これは、住居も企業も私営を認めずに集団生産を行なう為に各国営企業が住居
を割り当てたものです。
通常は、工場や国営企業の敷地内に住居や生活に必要な設備が全て完備されて
いました。
現在では、国有企業も住居を保障するだけの資金的な余裕がなく、こうした住
居はほとんど全て無くなっています。

例外は、大学でしょう。
中国の大学は基本的に全寮制で、教師も含めあらゆる関係者が大学の敷地内で
生活できるようになっています。
しかしこれも変わりつつあり、ここ数年の間に、教師用住宅や学生用の賃貸ア
パートが学生街に建ち並び始めています。

集団団地の特徴は、共有スペースが大きいことと職場と住居の人間関係が全く
一体であることです。
日本の社宅の極端なケースということが出来るかもしれません。
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ちなみに、共産主義下ではほぼ強制的に集合団地が割り当てられ、日本ではサ
ラリーマンが希望に応じて社宅に住み、アメリカには社宅という概念自体がほ
とんどないことは非常に象徴的だと思います。
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ここまで説明した二種類の住居形態は全く異なる時代背景、思想を体現したも
のですが、両者には大きな共通点があります。
それは、個人の自由やプライバシーは公共の利益の為に大きく制限されている
という点です。

中国の有名な映画に、"芙蓉鎮"という文化大革命をテーマにしたものがありま
す。舞台は地方の小さな町で、町民は四合院に似た雑居に住んでいるのですが
小さな広場や台所などの、共有スペースを通じて思想教育が行われたり近所同
士の密告をするシーンが多数出てきます。
国営企業の集合団地にせよ、伝統的な雑居にせよ、極端に小さい個人空間と、
大きな共有空間の存在は思想教育や密告を行うには絶好の環境だったのでしょ
う。

(3)改革開放以後の住宅事情

現在、働き盛りの中国人の間で非常に盛り上がっているのがマイホームの話題
です。新聞のチラシ広告には、必ず分譲マンションや郊外の一戸建てのパンフ
レットが入っていますし、銀行も、政府から認可されたばかりの住宅ローンを
貴重な収益源としてかなりの低金利で提供しています。

私の友人などは、北京市街の各地域の地価のみならず、水質の状況や風水に関
することまで事細かに情報を集めて、新しい物件を毎週見に出かけています。
このような状況の背景には、政府や国有企業が国民の住宅を保障するほど潤沢
な資金は確保できなくなったことと、住宅の供給を市場に委ねるとともに不動
産業や金融業の発展を促そうという狙いがあります。

従って現在、北京市街の住宅のほとんどはアパートか高層マンションです。
その設備は生活水準に応じて千差万別ですが、個人が購入又は賃貸するので、
居住空間と職場とは完全に切り離されています。
また、間取りは日本と同じような形態なので、基本的には核家族を対象にして
います。

鉄道などの公共交通が発達していないので、郊外の一戸建ては少ないですが、
その点を除けば住宅の形態に関しては東京と異なる点はあまりありません。
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住宅の設備やデザインという意味ではなく、あくまで住宅の形態が東京と似て
いるということですが。
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中国人の間で起きているマイホームブームは、彼らが豊かになりつつあること
の象徴なのですが、それ以上に個人としての自由を求めるという潜在意識もか
なりあるのではないかと思います。

北京の町では、至るところに"建材市場"という商店街を見かけます。
これは、日曜大工の工具や家具を売る市場ですが、ここで様々な飾りを買って
新居を自分流にアレンジすることが大流行しているのです。

また、高級マンションでは住民同士で自治会を作って催し物をしたり、敷地に
花を植えたりするようになっています。
これは、自分の住環境を改善する為に公的な活動を自発的に行なうという中国
ではこれまで非常に希薄だった"共同体"の意識の芽生えとして内外で注目され
ています。中国語ではこれを"社区意識"と呼んでいます。

このように、現在の住宅ブームを単なる豊かさのあらわれと見るのは表層的で
そのブームの背景や結果として現れる生活スタイルの変化こそ、現在と今後の
中国社会のあり方を映し出していると言えましょう。
そして、その変化とは要するに"個の芽生えと公の静かな後退"ということでは
ないかと思います。

(おわり)

参考資料:
国分良成編『中国全球化が世界を揺るがす』ウェッジ選書、2000年。
→ 第二章"価値観の変遷と文化の行方"で、社会学者の張氏が同じテーマを
平易な表現で解説している。

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└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。 

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