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┃ Chinese Puzzle ―世界から見た中国― :by FROMFAST007
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[Chinese Puzzle No.11 (戸籍制度改革)] ――――――――― 2001/10/21
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<ポイント>
(1)7月に本誌で採り上げた戸籍制度の改革が始まった。
中国社会への影響という点では、WTO加盟や民間企業経営者の共産党入党容
認以上に重要な改革である。
(2)この改革は、短期的には社会の混乱、長期的には国内の経済格差縮小を
もたらすだろう。
"副産物"として人権状況の大幅な改善と人材の地域間格差拡大が予想される。
短期的な都市部の混乱を乗り切れるかどうかが改革の成否を決める。
(3)外国からみれば、労働コストと質の両面で沿海都市部が生産基地として
今後も期待できる。内陸部への投資意欲は減退し、海外からの直接投資が西部
開発を支える構図は考えにくくなる。
(4)海外のメディアは本件をあまり重要視していないように思われる。
外国の中国報道は共産党や政府の動向のみならず、社会の動向に更なる注意を
払う必要がある。
<本文>
7月4、5日に本誌(Chinese Puzzle No.5,6 "中国の流動人口")で採り上げ
た戸籍制度の改革の一部が10月1日に施行されました。
今回は、10月1日の規制緩和の内容を簡単に説明し、その中長期的な影響を
考えてみたいと思います。これまでの戸籍制度を巡る状況については、本誌の
ホームページを経由してバックナンバーを参照してください。
(1)戸籍制度改革の内容
今回の規制緩和の内容は大きく二つに分けられます。
第一に、二万余りの地方都市で定職と住居が確保されていることを条件に農民
及びその同居世帯の戸籍を、農村から最寄の地方都市へ移転させることが可能
となりました。
これまでも、同様の条件が揃えば移転が許されたケースはありましたが、その
際には受け入れ側の都市が定める"都市建設費"や各種の賄賂を納めなければな
らないという問題がありました。
今回は対象を全国の地方都市として一律の基準を定めたことにより、以前より
もかなり移転のハードルは低くなりました。
この規制緩和は、子女の教育問題を初めとする様々な差別を嫌う農村側の要求
と、低コストの労働者を必要とする、地方都市の利害が一致した結果と言えま
しょう。
第二に、北京市が一定の条件を備えた外地の民間企業経営者に対して、北京市
の戸籍取得を認めました。
これは、一部の大都市が、戸籍取得を希望する外地人の増加を利用して優秀な
人材を確保することを目的としていると思われます。
この二つの規制緩和から、政府が、まずは農村から地方都市への人口流入を容
認することにより徐々に人口移動を自由にしていく、という方針がハッキリし
てきました。
このように、戸籍制度の改革が相当早いペースで進展していることは、大いに
注目されます。
中国人の生活と、中国社会の根底に影響を及ぼすという意味では、私は戸籍制
度改革はWTO加盟や民間企業経営者の共産党入党問題よりも遥かに実質的な
意義をもっていると考えています。
以下、中国国内への影響と、外国からみた中国への影響に分けて戸籍制度改革
の意義を述べたいと思います。
(2)戸籍制度改革の中国社会への影響
戸籍制度改革は、まず短期的には都市部の混乱(治安の悪化や差別感情の高ま
り)を招くことになるでしょう。
7月に述べたように、都市部には既に、外地人への警戒心や差別感状が根強く
存在しています。
特に地方都市へは、低所得の農民がより一層流入してくることは間違いなく、
従来からの都市住民との摩擦は増すばかりでしょう。
この混乱をどこまで食い止めることが出来るか、都市部の感情的な反発を抑え
ることが出来るか堂かが改革の成否を握るでしょう。
長期的には、改革のメリットは大きいと思います。
まず、国内で市場原理に適った人材の配分がされて過剰な農村人口という構造
問題がかなり改善される筈です。
収益率が低い割に天災などのリスクが大きい農業から、国内及び輸出用の工業
生産等に相当な労働者がシフトすることになるでしょう。
中国の農民は、人口の約7割、10億人いるといわれていますから、このイン
パクトは計り知れません。
これにより、中国人同士の所得格差の拡大という問題は相当改善されることは
間違いありません。
残された農村も、一人あたりの耕地面積は拡大し、一方では(農作物の供給減
により価格が上昇し)一人あたりの農作物収入も向上することにより恩恵を受
けるでしょう。恐らく、広大な農村地帯に、財政資金や外国の援助で砂漠に水
を撒くようなインフラ投資を行うよりも、遥かに実質的な経済効果があると思
います。
一義的な影響は以上の通りですが、この改革は、同時にいくつかの重要な“副
産物”を伴うでしょう。
その第一は、自由に関する問題です。
言うまでもなく、中国政府が意図していないとしても、戸籍制度の緩和は中国
人の居住の自由を拡大することに他なりません。
現在、中国政治の最大のテーマといえば民主化ですが、民主化は普通選挙や複
数政党制のような制度の整備以前に、国民が思ったように発言したり行動でき
る自由が伴っていなければ実質的な意味を持ちえません。
その点私は、中国の民主化はまず、中国人の生活がより自由になることを待た
ねば進められないと考えています。
居住権の拡大には、間違いなくこのステップを更に一段進めていく意義があり
ます。
第二の"副産物"は、人材格差の拡大です。
今回の改革により、今まで農村に滞留していた優秀かつ若い働き手はこぞって
都市部に移動するでしょう。
その結果、農村の過疎化と高齢化は、日本等よりも遥かに深刻かつ速く進むで
しょう。
中国の高齢社会化は、地域毎に全く異なる様相になるかもしれません。
社会保障などの政策は困難を極めることになると思います。
一方、今回北京市が出した規制緩和から、大都市は非常に優秀な人材を優遇政
策により吸収しようという意図を感じますが、これはあまり成功しないのでは
ないかと思います。
本当に優秀な人間には、アメリカなどへの海外移住という選択肢があるからで
す。優秀な人材の獲得競争は、中国国内ではなく世界的なものであり、中国国
内の戸籍制度で優遇しても実質的な効果は上がらないだろうと思います。
(3)外国からみた戸籍制度改革の影響
外国からみると、経済面で改革の影響があると予測されます。
確実に言える事は、中国沿海部の生産拠点は今後も引き続き労働コストは上昇
しないだろうということです。
沿海部の背後に10億人近い農村部の住民が就業機会を待ち望んでいるわけで
すから、仮にその1割が実際に沿海部へやってきたとしても、1億人すなわち
ほぼ日本の人口に匹敵する数の低コスト労働者が控えているということになり
ます。
以前、東南アジアや台湾が低コストの工業製品で経済成長しましたが、その後
国内の労働コスト上昇で停滞や産業構造の転換を余儀なくされました。
しかし中国に関しては、労働コスト上昇圧力は中長期的にみてもそれほど問題
とならないでしょう。
戸籍制度の改革は、この傾向をより確かなものとする裏付けとなります。
一方、中国政府が必死に進めている西部大開発は失敗する可能性が大きくなり
ます。労働者が移動するのであれば、外資企業がわざわざ内陸部へ投資する意
味はなくなります。
先日、日本の財界団体である日中経済協会が昨年の朱首相の来日時に約束した
西部地域訪問のミッションを行いましたが、投資先として西部地域を評価する
声はほとんど無かったそうです。
沿海部の労働コストが上昇しないのであれば、内陸への投資を敢えて行う理由
は無いといっていいでしょう。
財政状況が厳しい中国は、西部大開発の原資の大部分は外資頼みですから、こ
の計画は頓挫する可能性がかなり大きいと見ています。
(4)外国メディアの着目点
今回、参考にしようと日本を含めた様々な外国メディアを探してみましたが、
このテーマに関する報道はごく僅かでした。
国際ニュース報道の大部分が、米国同時多発テロ事件関連になっているのは当
然ですが、中国関連では共産党が民間企業の経営者(いわゆる資本家)の入党
を奨励したことが重大ニュースとして採り上げられています。
これは、中国共産党が実質的に共産主義を放棄したことを示す意味で象徴的で
はありますが、その傾向は決して今に始まったことではなく、中国社会を今後
大きく変える契機になるとは考えにくいものです。
中国共産党幹部自身はともかく、その親戚には従来より大企業の経営者が大勢
います。
そういった象徴的なニュースも重要ですが、より中国社会の実質的な変化に焦
点を当てたニュース、例えば今回の戸籍改革などはもっと重視されていいので
はないかと思います。
独裁政権といえども今の中国共産党は、世論や経済状況に対して過敏なほど配
慮するようになってきています。
こうした一面を意識しないと、現在の中国情勢は理解出来なくなりつつあると
思います。
(おわり)
参考資料:
鮫島敬治、日本経済研究センター編『2020年の中国』
日本経済新聞社、2000年。
→ 第7章"三農問題の解決"が戸籍改革の展望について触れている。
産経新聞 2001年9月2日
→ 戸籍制度の変化を伝える記事。変化の背景が中心だがよく纏まっている。
(下記ホームページでは記事本文参照不可。同日朝刊1面を参照。)
http://www.sankei.co.jp/
広州日報 2001年10月12日(中国語)
→ 10月1日の規制緩和を纏め、その意義を分析。
http://www.southcn.com/job/CareerCenter/HRfedex/200110120502.htm
北京青年報 2001年8月28日(中国語)
→ 地方都市関連の規制緩和を説明。
http://www.bjyouth.com.cn/Bqb/20010828/GB/4719^D0828B0410.htm
北京青年報 2001年10月9日(中国語)
→ 北京市関連の規制緩和の内容と緩和後1週間の状況を説明。
北京市が求める人材と北京市の戸籍を求める外地人のミスマッチを説明。
http://www.southcn.com/job/CareerCenter/LaborLaw/200110090657.htm
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