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┃ Chinese Puzzle ―世界から見た中国― :by FROMFAST007
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[Chinese Puzzle No.5 (中国の流動人口)]  ―――――― 2001/07/04・05
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<ポイント>

(1)改革開放以降、中国では自然発生する農村から都市への人口流動現象を
   後追いする形で移動の制限が徐々に緩和されてきた。

(2)緩和されつつもいまなお存続する移動制限は、都市部の環境維持には一
   定の成果をあげている。
   しかし、経済上の必要性から流動人口は増える一方である。

(3)現在、人口移動を制限する唯一の拠り所である戸籍制度を大幅に緩和す
   るか撤廃すべきだという意見が出てきている。

(4)特に強く問題視されているのが、農村と都市部の教育機会の格差。
   この改革を必要とする機運は静かに高まっている。
   戸籍制度が一部緩和されるとすればこの分野での緩和の可能性が高い。

<本文>
今回は中国の流動人口を採り上げます。

人口超大国であり、かつ所得の地域間格差が拡大している中国において、低所
得の農村から高所得の都市部へ人口が移動することは必然です。
しかし中国政府は1949年の建国以降、いくつかの手段で人口移動を制限してき
ました。
ここでは、これまでの流動人口対策の流れをごく簡単に記したいと思います。

現在の様子について結論からいえば、人口移動を制限する政策は中国人からは
一種の必要悪として容認されている印象を受けます。
しかし、これに伴う子供の教育機会の不均等はかなりの不満を生んでいるよう
です。
私は、こうした"世論"が実際の政策に反映していくのかどうかという点に注目
しています。

尚、この問題は中国に特有のものであるため、中国についてあまり詳しくない
方には最初取っ付きにくいかもしれません。
今回の内容は詳細を突き詰めればきりがないので、大体の雰囲気を理解してい
ただければいいと思います。

(1)中国の流動人口対策

中国では、1949年の建国当時から人口の移動が制限されてきました。
その理由は、農村人口を確保して食糧自給を確保することと都市の人口過密に
よる社会問題発生を未然に防ぐという二つが考えられます。
人口移動を制限する手段は、大きく分けて三つありました。

一つは、口糧制度というものです。
これは、都市部の指定された住民にのみ食糧の配給券を割り当てるというもの
です。
これにより、農村から都市にやってきた人々は食糧を手にいれられなくなるわ
けです。

二つ目は、労働就業制度です。
これは、人々の職業を国家が全て決定するというものです。
社会主義国ではよくあることですが、例えば学生は大学を卒業する直前に勤め
先を国家から指定されたのです。

以上二つの制度は、現在では既に完全に無くなっています。
口糧制度は、1993年に食糧配給制度が完全廃止されるとともに消滅しました。
労働就業制度も、市場経済化の過程で消えていきました。
しかし、もう一つの人口移動を制限する制度は現在もあります。
戸籍制度です。

中国の戸籍制度は、日本と大きく異なります。
日本では、戸籍制度は血縁や出生地を記録する意味しかありません。
しかし、中国では地域間移動を政府が管理する手段になっています。
やや乱暴ながら日本人の感覚に分かりやすく言い換えると、戸籍がパスポート
とビザの役割を果たすのです。

例えば日本のパスポートを持つ日本人が米国に移住しようと思えば、米国に帰
化して米国のパスポートを取得するか米国のビザ(または永住権)を取得しな
ければなりません。
そして、その取得は決して容易ではありません。

同じように、四川省の戸籍を持つ中国人が北京に引っ越そうと思えば、北京市
の許可を得て北京の戸籍を取得するか北京の居住許可証を取得しなければなり
ません。そして、その取得は決して容易ではありません。
基本的に、戸籍地を移転しようとすれば以下二つの条件を満たす必要がありま
す。
 i) 新戸籍地で住居を確保している
ii) 新戸籍地に正式な職業がある

しかし、最近では"都市建設費"という名目で一定の代金を政府に納めれば、都
市の戸籍を得ることができます。
この"値段"は急激に上昇しており、例えば北京市の"都市建設費"は1983年
は1万元でしたが、現在は約10万元(約150万円)だそうです。

まとめると、市場経済化に伴って流動人口を制限する制度は大きく緩和されて
きたが、戸籍管理による制限が依然として残っているというのが流動人口対策
の現状です。

(2)流動人口の現状

それでは、戸籍管理による人口移動の制限は実際にどのような結果を生み出し
ているのでしょうか。

i)都市部の現状
都市部では、大きく分けて3つの"階層"が出来ています。
第一に、都市戸籍を持つ正式な都市人口。
これは、新中国成立前から各都市に住んでいた人口と、新たに都市部で正式な
職業を得て住民になった人口の合計になります。
確かな資料は手元にないのですが、都市全体の約7割がこれに当るのではない
かと思います。
先ほどのパスポートの例えでいえば、都市部の"パスポート"を持つ人々です。

第二に、都市戸籍は持たないが正式な手続を経て都市部に移動している人口。
彼らの大部分は都市戸籍を持つ人々が就きたがらない低賃金の仕事の需要があ
るので、政府から承認を得ています。
パスポートの例えでいえば、“パスポート”は農村のものだが都市部の“労働
ビザ”を持っている人々です。

第三に、"盲流"といわれる不法流入人口。
都市部での仕事は見つからないが、とにかくまず都市部にやってきてから仕事
を探す人々です。
これは、"観光ビザ"で労働していたり、そもそも"ビザ"すら持っていない人々
です。

第二と第三のグループを合計した人口が、都市全体の約3割といわれており、
中国語では"外地人"と呼びます。

中国の人口問題を扱う本や記事では特に"盲流"現象が強調されていて、いかに
も混沌とした都市状況が目に浮かびそうですが、実際にはそれなりに状況はコ
ントロールされています。
その例としては、中国の大都市にはスラムがないことが挙げられましょう。

私は以前アメリカに住んだことがありますが、アメリカの大都市に必ずと言っ
ていいほどあるスラムは、少なくとも私が訪れたことがある中国の大都市(北
京、上海、広州など)にはありません。

こうした都市環境は人口移動の規制によって辛うじて確保されているというの
が、私が会った中国人に共通する意見です。
また、都市部での犯罪は外地人によるものが大多数を占めるそうで、こうした
事情からも都市部の住民は基本的に人口移動の制限は一種の必要悪だと考えて
いるといっていいでしょう。

ii)農村部の現状
農村部に関しては、過剰な労働力が農村に偏ってしまっているということが必
ず問題視されます。
現在、中国の農村人口は全国民の約7割です。
これは経済が成長すると都市化が進行するという世界的な経験則と明らかに違
う傾向で、中国の農村が貧困に喘いでいる大きな原因の一つです。

純粋に経済的な観点からすれば、貧しい農民は所得水準が高い都市部へ移動し
高い給料の職業を探すべきです。
従って、人口移動の制限はこうした経済の原則に反しているともいえますし、
都市へ出稼ぎに行って豊かになりたい農民の希望、より突っ込めば“豊かにな
る権利”を妨げているともいえます。

これについて、農民はどう考えているのでしょうか。
私は中国の農村とは接点がないので農村出身の中国人数人に聞いてみました。

それによると、農民は一般的にはこうした制度をもちろん好んではいないが、
かといって、自分たちがそれを変えることが出来るわけでもないので仕方なく
従っているということのようです。
ただ、長い間農村の生活に慣れてきた自分達はそれで良いけれど、自分の子供
にはより自由を与えてほしいという意識はかなりあるようです。
それが、具体的には流動人口と教育の関係という一つのテーマに繋がります。
この問題は中国のメディアでも最近取り上げられるようになってきた大変興味
深いテーマです。

(3)流動人口対策をめぐる議論

流動人口に関する政策は、中国広しといえども国民一人一人に必ず影響を及ぼ
します。従ってこの政策に関しては、どんなに小さなものであっても変更があ
れば必ず街の掲示板に貼り出されます。これは、情報公開の度合いがまだ非常
に小さい中国ではかなり特殊なことです。
流動人口の問題はこのように非常に重要ですから、これに関する議論が新聞な
どに発表される場合は一面または特集記事として大きく掲載される場合がほと
んどです。
また、確認は出来ませんが、この問題に関して意見を発表する場合は共産党の
意見に真っ向から反対していないかという点は充分に吟味されたうえで発表さ
れているのだろうと思います。

こうした前提があることを考えると、新聞に発表されている各種の意見が意外
にも流動人口の制限は撤廃すべきだという方向に傾いていることは驚きです。
ここでは、参考までに6月の新聞に掲載された二つの主な議論を紹介します。

工人日報という北京の新聞は、労働力と熟練労働者の分配は市場に任せるのが
市場経済の基本であり、戸籍制度を改革することによって農村と都市の経済格
差を縮小することが出来るとしています。
さらに、現在の戸籍制度は既に時代遅れであって、数百年前から変わっていな
い部分さえあるとまで言い切っています。

一方、経済学消息報という新聞は、戸籍制度は暫く現状のままにしておいた方
がよいとしています。その理由としては、第一に人口移動を自由化すれば都市
部の環境が悪化するということ。

第二に、人口移動を自由化すれば農村と都市部の経済格差はかえって一層ひど
くなるというものです。
従って、農村と都市部の経済格差をまず縮小したうえで自由化しなければなら
ないとしています。

双方の意見は、人口移動の自由化がもたらす結果について正反対の予想をして
いますが、注目すべきは消極派も戸籍制度は"暫く"現状維持すべきだというこ
とで、いつか自由化すべきだという点は共通しているということです。
これが、中国の流動人口の中期的な将来を示しているような気がします。

ただ、気になる点が一つあります。

それは、人口移動の自由化に関する議論が経済的な側面に限られていることで
す。 人口移動の制限は、居住の権利や豊かになる権利といった人権に係わる
問題でもありますが、こうした側面からの議論が出てきていないことが現在の
中国の限界だと言えましょう。

(4)流動人口と教育の問題

最後に、この人権という側面にも触れる新しい現象をお伝えしましょう。
それは、流動人口の子供たちへの教育問題です。
正式な都市での居住権を持たずに生活する不法滞在者にも子供はいるわけです
が、彼らは非合法の住民ですから普通の学校に入学することが出来ません。

そこで、彼らは非合法の学校に"入学"して勉強します。
しかし、教師は教職免許を持っていませんし、警察から逃れるために"校舎"も
頻繁に移動します。

教育のレベルは当然低くなりますし、彼らが例えば将来大学に入学する資格を
得られるのかも分かりません。
彼らの両親はともかく、子供たちがこのように不公平な目に会ってもいいのか
という意見があるのです。
こうした意見は、ついに南方週末という中国でも進歩的な新聞で、特集として
発表されました。

また、流動人口に限らずとも農村と都市部の教育レベルの格差は非常に問題に
なっています。農村に住む人々には、自分自身は農村の生活に慣れてしまった
ので今さら都市に行こうとは思わないが、せめて自分の子供には、より多くの
機会を与えてあげたいという雰囲気が生まれつつあるとも聞きます。

こうしたことから、次に戸籍制度の大幅な変更があるとすれば、それは子供の
教育に係わる部分なのではないかと思います。
そしてこういう流れは、経済発展が中国の民主化を進めていく、という予想を
具体的に裏付ける事例になるかもしれないという意味でも注目されます。

(おわり)
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参考資料:
劉吉等編『現代中国の実像』ダイアモンド社、1999年。
若林敬子『中国 人口超大国の行方』岩波新書、1994年。

工人日報 2001年6月4日号(中国語)
→現在の戸籍制度は経済発展の障害になっているので大幅に緩和すべきだとい
う社説。

経済消息報 2001年6月8日号(中国語)
→都市部の社会環境を維持するためには、現在の戸籍制度を性急に緩和すべき
ではないという中国人民大学教授の意見。

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