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                            遊 庵 散 人
         ---------- China,20years ago ----------
           殆どの方が御存知無い「あの頃」の中国
         1970年代後半に於ける不可解な体験の記録
    
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<<まえがき>>

12億という巨大市場、しかもどん詰まり的な国際経済の中にあって、一人勝
ちの様な好調を持続している大国中国。
如何なる国も涎を垂らし売り込みを計る市場。

その美味しそうな市場を、一衣帯水の隣の好位置に持つ日本は、当然ながら世
界のどの国よりも遅れてはならじと、国内ではどの他企業よりも遅れてはなら
じと、それこそ大小取り混ぜ各企業が、東シナ海の先陣争いやっているのが現
状でしょう。

しかし相手は然る者、鷹揚に構えて隙は見せません。
敢え無く大陸に屍を晒す結果となった企業も多く、屍を晒さないまでも旗を巻
いて撤退した話はよく耳にします。

しかし私は寡聞にも中国で大当たりしたという企業の成功譚は残念ながら聞い
た事はありません。昭和の初めより大陸で大儲けを企んだ、大陸浪人の例を引
き合いに出すのは憚られますが、やはりこれも古い歴史を持つ国の強かさと言
うのでしょうか。

考えてみれば我が国は古来より、兵学者はもとより、治世家、一般武士に至る
まで、全てと言っていい程、中国古の孫子をひもとき、春秋戦国の興亡を学び
三国志の諸葛亮の知略を手本として戦のノウハウを学んできたのです。
いわば兵法に関しては相手は本家の元祖であり師匠の国でした。
これでは中国ビジネスも駆け引きでは、かなわぬのは当然でしょう。
しかしこの兵法宗家は一時国内外の戦争で貧困でした。

そこを日本のお人好しは、経済的に落ちぶれた兵法のお師匠に資金を援助し、
近代兵器まで提供し、その使用法まで念入りに指導したのです。
その結果今の繊維産業に代表される日本生産市場の壊滅です。
更に今度はその中国で作られた製品が雪崩の如く日本に入り、国内製品市場ま
で大混乱を来しているのは、私が今更申し上げる迄もない事です。
今後は如何に中国市場へ、日本が売り込むかが課題でしょう。

私は20年間の中国ビジネスを通し、常に買う立場でした。
残念ながら売る経験は皆無です。
その対比すれば強い筈の買う立場でも、常に色々な問題を発生させ、振り回さ
れてきました。
それだけに売り込む事の困難さは、思いやられます。
今回は私の周囲で、そう言う苦しく厳しい経験をされた方々よりの見聞録を元
に、中国内での理解しがたい商習慣や、中国人の考え方等を纏めさせていただ
きました。
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   <<本号の内容>>

◆◆ 中国国内ビジネス見聞録 
    
    全てがバックリベート      

    法の前にもバックリベート 
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 全てがバックリベート

以前NHKの報道特集の中で、自由化の進む中国国内市場の問題点として代金
をなかなか支払はない代理店の話題を、よくこんなに上手く撮影出来たものと
感心しながら見ていた記憶がある。

そこへ物を売り込んだ生産者が集金に行き、事務所で社長と掛け合う訳だが、
社長はのらりくらりと言い訳をしながら突然外へ飛び出す。
集金人は慌ててそれを追う。
又外での押し問答が続き、最後は社長は走り逃げ去る。

集金人の途方に暮れた様な顔が写る。
ともかく中国人は金を払いたがらない。
少なくとも自分の管理する金に対しては、払わねばならない払って当然のお金
も払う事を渋る。
それは非常に単純に入った物は儲け、出ていく物は損と割り切っている様な、
見方すら思えてくる。この様な判断は商業上の如何なる契約より優先的に働く
らしい。
支払いは出来るだけ少なく、出来るだけ先に延ばす心理が原理原則的に作用す
る。

中国で工場を経営する友人の日本人社長が私にこんな事を言った。

「経理担当が支払わねばならないものを、払わなくて困る」社長は中国人経理
担当に当月末の支払いとして、その支払い先別明細と資金を渡し帰国した。
翌月社長が工場へ行くと、経理担当は社長に対し、月末支払いは総額で社長の
指示より三割抑えたと、自慢らしく、如何にもそれが自分の優れた手腕である
如く報告したのには呆れたと言う。

中国である時期驚異の発展をし、今は無き日系百貨店の部長も、商品代の支払
いについて、如何に支払いを指示しても、自分の都合でしか払わない。
それは間違いなくリベート支払先の優先順位で支払われているのだが防止でき
ないと嘆いていた。
と言う事は前記の友人経営の工場も、経理担当は会社のため抑えたが如く報告
しているが、実の所自分の裁量でリベートをくれる先優先で支払ったとしか考
えられない。

中国に進出している日本系企業のメーカーや商社が国内販売を試みて、殆どが
苦労の泥沼に陥っている見聞について述べていきたい。

比較的進出企業の中でも中国側企業に対し、当初からきっちりした契約書を交
わした上で取引を始めるのは大手企業に属するのだろうが、先ずこの契約書は
結局中国側の勝手なやりとりにより無用なものとなるケースが屡々あるにせよ
しかしこの契約書作成は絶対必要だ。

これは商取引においては当然の事ながら、それを往々にして日本人は曖昧にし
て、有りもしない無益な浪花節的信頼関係だけで物事を進めるのは自ら狼虎の
前に身を晒す様なもので、その先の危険は目に見えている。

「俺はあの男がいるから提携した。…売ったのだ」
との話は日本の進出中小企業に多い。
確かにそういう人間関係の重要さは否定しないが、国際ビジネスの場合の優先
度はやはり「契約書」第一だ。

数年前日本の繊維業界で大波紋を起こした事件があった。
某大手チェーン店が販売したカシミヤ100%表示のセーターが、消費者の調
べでアクリルが30%も混入している事が判明、それを大手新聞が大々的に報
道し、それにより納入業者は大責任問題になり、担当役員以下全員が降格処分
を受けた。
これは勿論中国からの輸入品なのだが、以降小売店も流通業者も輸入業者も、
現地での品質確認をより厳しくした。

私はこの事件の実体は知らないが、私の推定では恐らく次の様なものだろう。

中国側の製品生産者は、製品輸出価格に見合う安い原料を、原料生産者に要求
したか、原料生産者が安い原料として、製品生産者に売り込んだか、どちらに
せよ双方の原料契約はカシミヤ100%であった筈だ。
それを売り方が価格並の原料に品質を落としたのが実体だろう。
製品生産者は原料の品質確認もしないまま、製品を日本へ輸出した。

だから問題の発端は、原料を巡る国内商売の恐ろしさにある。
中国国内商売は伏魔殿。
中国国内商売に経験豊富で、私にその実体を教えて頂いたA氏は「シルクロー
ド商売」と表現された。
それはキャラバンを組んでシルクロードを売り歩く商人の様に、その時上手く
売り込めば後は知らない式の、ごまかし商売が全く日常茶飯事との事だ。
その結果、数量のごまかしあり、品質のごまかしあり、正に魑魅魍魎の世界だ
という。

一例としてお聞きした、そのごまかし世界の手口をお伝えする。
日本へ送るため買い入れた松茸を検査したら、ご丁寧にも全品の茎に釘が差し
込まれていた。明らかに重量のごまかしだが、クレームをつけると形を整える
ためと弁明する。
ケース単位の量で契約する場合は、上げ底による増量のインチキはこれ又日常
茶飯事。
もっと驚いたのはA氏が中国東北地方で日本投資の乳業企業の経営者当時の出
来事だ。

畜産業者より牛乳を納入さすのだが、その混入品調査で信じられぬ事がよく起
こるという。
分析すると全体の脂肪分比率を変えない様(単なる水増しだと脂肪分が落ちる)
雑物混入は当たり前として、甚だしいのは馬、牛の小便と植物油脂を混入し、
それを牛乳の中へ混ぜ、平気で納入する業者も居たという。
A氏曰く「新宿歌舞伎町のインチキバーと同じ得体の知れぬカクテルあり、水
割りありで、値段をごまかす手法」と。

私はそれを聞き1963年、今からほぼ40年前、初めて訪問した香港を思い
出した。
観光地の道端で10枚1セットの絵はがきを売る5,6歳の子供に、日本人が
からかいながら、言い値の三割程安く叩いて買ったのを、ホテルへ戻り開いた
ら5枚しか入っていなかった。
正にその日本人を手玉に取った幼児の、鮮やかな手口に中国人の強かさと、叩
いた積もりが叩かれていた日本人の人の良さの印象が突然甦った。

A氏は更に言う。
何より恐ろしいのは、売り込み業者の仕入れ担当者への、バックリベートと接
待攻勢のすごさだという。
キャッシュバックや飲み食いの外に、卵や野菜等の生活必需品の贈り物は並の
量ではないそうだ。
担当者はその一部を部下にお裾分けし、口封じを行う。
携帯電話等の高額品もよくプレゼントに使われるそうだ。
当然仕入れ担当者も、それにより仕入先や支払先を全て優先さす結果になる訳
だ。

 法の前にもバックリベート

以下のレポートの大半は、前出の中国で長年に亘り内販企業の経営に苦労をさ
れた、A氏から得た貴重な情報を中心に、書かせて頂いたものである。
私の周囲にも中国での製品販売を狙っている企業も多い。
特に現地に工場を持つ企業は、この超不況下の日本へ製品を持ち帰るより、経
済が好調で12億の消費者が居る地元での販売を望むのは当然だろう。
しかしそれが思い切って積極的に踏み出せない理由はある。

「中国人は金を払ってくれない」この常識が日本人の足を止めている。
従って一部を除き、現在恐る恐るこのビジネスに足を踏み込んでいる企業も、
その売り先を日本人の経営する百貨店、量販店に限定して進めていると思われ
る。
以下のレポートはその不安を解消するものでなく、ますます増大さす結果とな
るだろうが、やはり実態を知る事が最大の問題解決の道とも考え、聞かせて頂
いた情報をそのまま提供する。

A氏がその経営にタッチしておられた乳業製品生産工場は、地元省の都市へは
百貨店、小売店へ直接販売し、他の省へは各省にある代理店へ卸販売を行い、
ほぼ全国的な販売網を持っていたとの事。
原則的に販売は買い取り方式で、代金回収は全て納入後30日或いは60日で
決済するとの契約を、相手側と交わしていたそうだ。
しかし勿論その通り履行される筈もなく、結果的には消化販売になる訳だ。

その為絶えず販売先の自社分在庫をウオッチするのが大変で、販促要員を常に
張り付け、常に在庫をチェックさす事になる。
しかし現実は、売れた分も完全に払う訳でなく、相手側が「今月これだけ」と
一方的に支払う額を受け入れざるを得ない。
余程ひどい場合クレームをつけ、その月の支払いを増額させても、翌月きっち
りとリベンジされ、場合によっては支払いゼロもあり得るそうだ。
真に無茶と言わざるを得ない。

そこで当然の事の様にリベートの問題となる。
相手はそれをちらつかせ、当方もそれを受ける姿勢を示す。結果金銭であった
り、物品であったり、接待であったりする。

そもそも中国人は自分の権力を行使し、人に斡旋する場合、リベートは其れを
要求するのが正当な権利であり、払う方も義務だと考え、これが一般的な商行
為と理解し、決して罪悪感はない。
従って当初より売買の際、それを採算に織り込む事が必要だ。

ただ困るのはそれが段々金額も、対象者もエスカレートし、仕入れ担当者から
売り場の組長、売り子まで気を使わねばならぬ様になる。
A氏は日本帰国の際は安いキティーちゃんのハンカチやボールペンを買いあさ
り、ポケットに入れ随分自前で持ち帰ったと言う。
仕入れ担当ともなれば先方より、次回は日本製バカチョンカメラや口紅など、
堂々と要求されるのが普通だという。
この伝統的商法は永久に改正されそうにない。

さて余程の売掛未払いが発生した場合、相手に対し裁判所に売掛不払いによる
支払請求の告訴を行う。
そうしたら今度は原告、被告との裁判官への貢物競争が始まる。
それにより判決の大勢がほぼ決定する。

幸い勝訴し相手方の物件等を差し押さえる為執行官が決まるが、今度はその執
行官に対する贈賄工作が展開される。
金銭、女、カラオケ、食事と堂々と先方より要求がある。
その挙句結局殆どが執行停止処分となる。

この執行停止処分とは法的に認められており、執行官の言い分は「相手は明日
の飯代もない。暫く待ってやれ」一応其れで終わりである。
この執行停止処分に対し、再度復活する途は法的にあるのだが、それが実現す
ることはあり得ない。
債務者の主張は「金がない、物がない、だから払えぬ」その理論で終わりとな
る。
執行官の意向も「あんな者に売る方が悪い、もっと今後よく調査して売れ」と
丁寧にお諭し頂けるらしい。

中国では1企業、1銀行、1口座の原則がある。
しかしこれは多分に見せかけであり、一応裁判に勝訴し取引銀行を封鎖しても
入金は全て別口座に入る仕組みが裏で出来ており、封鎖した口座には何時まで
待っても入金はない。
全て入金は“小金庫…へそくり口座”に入っている。
しかも現実は、既に債務者は別法人で悠々と仕事をしており、人も雇い給料も
渡し、事務所の家賃も払い、商品も仕入れている。手のつけ様がない。

ともかく中国の法は、法人の前には全く無力である。
法人の経理担当には殆ど一族の者を配置し、些かも外部へは勿論内部の者に対
しても、実態を秘匿する体制をとっている。

やはり信じられるのは自分の次には一族だけという、中国民族固有の閥意識で
ガードを固めている。
政府も1999年を「執行年」と銘打って法の順守実行を宣伝した。
これは多分にWTO加盟を睨んだキャンペーンだが、全然その改変の実効はな
い。
これがA氏の私に語った大要だ。
しかしA氏も最後にこう付け加えた。

「しかし言っておくが全てが、こんなずるい者ばかりではないよ」
と前置きし話された一部を最後に紹介しよう。

先ずこちらのやむを得ぬ事情で、販売を撤収する際、先方にとってはまるで大
きな痛手になり、当然可成りの抵抗はあったが、当方の筋をたてた話をする事
により、よくその事情を理解してくれ、売掛金は最後までキチッと精算してく
れた代理店の話。

工場のある東北地区から華南へ、約1ヶ月間の輸送中に多少品質の変化した乳
製品に対し、それを受け取った先方の自社判断で、これは熱加工するのだから
問題ないとして、一切当方にクレームもつけず処理してくれ、
後日そのデーターを見せられ驚いた話。

代理店に対し当方の資金繰りの都合で、先方に支払いを泣き込んだ場合、俺の
権限で出来る範囲ならと、快く応じてくれた信義の厚さには感激した話も付け
加えた。

この様な色々な矛盾を持つ中国の市場のまま、公正な国際市場であるWTOに
加盟しても大丈夫なのだろうか。
他国に迷惑を掛ける事にならないか。

満足にゴルフのルールもクラブを振る基本も判らない素人が、いきなりコース
に出て果たして人に迷惑を掛けずに回れるのだろうか。
もう少しレッスン場でトレーニングし、国際ルールにも馴染んだ上で本格的な
登場をしてもよいのではないか。
A氏は皮肉的にこう言った。
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<<あとがき>>

今回は一流総合商社で中国ビジネス一筋に経験され、その後長く中国東北地区
で、日本乳製品企業の経営と国内販売の営業に当たり、最近帰国されたA氏の
生々しい体験談を中心にお伝えしました。
改めて経験者でなければ判らない、国内商売の難しさについて、私自身も改め
て考えさせられるレポートになりました。
この様な事情だと、ただ無闇に飛び込んでみても、とても簡単に行く訳がない
実状が理解できると思います。

最後に氏は決して全てがずるい商人ばかりではないと、逆に強い感銘を受けた
信義に深い中国人の話も付け加えました。
最近日本でも、特に官界と企業側との多くの贈収賄の問題が表沙汰になりつつ
あります。

これを思うと汚い表現ですが、目糞鼻糞を笑う例えのように、決して日本人も
威張れたものではありません。
ただこの贈収賄に対し中国の方が少し罪悪感が薄い事と、常識的に慣習化され
ている事の違いと思います。

私は、中国ビジネス20年とは申せ、冒頭で申しましたように、日本への輸入
一筋で、国内商売の経験は皆無に等しい状態です。
その為中国人との関わりも自ずから限られた者になり、広く深いつき合いは望
むべきも有りません。
その限りにおいても、随分いい加減な応答で、悩まされ苦しめられた経験は多
いのですが、これは人間性からくる誤魔化しと言うより、仕事に関する使命感
の希薄からくるものが多いと考えていました。

実際に親しく付き合った幾らかの中国人には、私にとっては随分お世話になっ
たし、本当に信頼できる人達だったと今も信じております。
私がリタイヤ後大病で入院し、その時偶々仕事で来日した女性工場長は、かっ
て業務を通じ随分喧嘩もしましたが仕事もした仲でした。
彼女は夜私の病床を見舞ってくれたのですが、同行してくれた日本人の話で、
病院退出後私の罹病が気の毒だと彼女は涙を流したと聞き驚きました。

彼女は人民日報に「仕事に対しては鬼の工場長」と称えられた女性です。
やはりA氏の申す如く
「信義を持って接すれば相手も信義を持ってこれに応える」
人間としての基本原則は間違いないようです。

最後にA氏のこれから中国国内ビジネスを目指される方への成功の早道。
「本当に中国を理解し、言葉も判る信頼できる日本人に企業管理を任せる事」

“相手を知り己を知る者、百戦危うからず”やはり孫子でした。
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◆◆「China,20years ago」に就いてのご批判、ご感想、ご意見等がありまし
   たら、下記へメールでご寄稿いただければ幸甚です。
  yuuan@naka-n.com
                           遊 庵 散 人
┌―――――――――――――――――――――――――――――――――┘
└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。 
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