前回紹介した森永卓郎氏や共産党、社民党に共通しているのは「企業」に対す
る視点である。
彼らは、企業というものは、労働者を搾取して生きる資本家の収奪機関と見な
しているものと思う。ーーーだから、目を離していると企業は労働者を食い物
にすると考えているのではなかろうか。
私の理解では、マルクス経済学というのは、分配問題を主として取り扱った経
済学だと思っている。
----その証拠に、どうしたら富が増えるのか、の論は見たことがない----
そして、分配論をベースに、社会学にまで範囲を広げて、労働者が主権を握る
のが歴史の必然、と見なす思想で全てを俯瞰したのがマルクス史観だろう。
だから、1990年ぐらいまでの時代は「マルクス史観」が大きな権威を持っ
ていて、種々の社会現象をその観点で切って説明していた。
たとえば、仕事にやりがいを感じない事を「疎外」という言葉で表していたが
それは資本と労働が分離しているから発生するのだという。だから、資本が全
て国有になれば「疎外」は起こらないと説くのである――――。
しかし、北朝鮮等の現実を見て、資本の国有とやりがいの問題とは別問題であ
ることが分かった。
今でもその当時と本心は変わらないのだが、マルクスの説く社会主義や共産主
義の一大実験場であったソ連や東欧が潰え、その統治の内容として如何に民衆
を弾圧していたかが白日の下に晒され、社会主義が理想だといえなくなったた
め、表現だけは少し変えている評論家が週刊金曜日などをはじめ沢山いる。
だから彼らは、企業では、資本家と労働者が、マルクス流に言えば剰余価値を
奪い合っている図式しか浮かばないので、資本家と労働者は、ゼロサムゲーム
をやっているものと見なしているのである。
だから彼らは、企業が2003年頃から労働分配率を下げていることでもって
好景気の利益を労働者に還元していないと非難している。
しかし1990年代は、不況であったが労働分配率は右肩上がりに上がってい
るのだが、ひと言も言わない。彼らの論理からすれば、高い労働分配率を評価
基準として考えると、不景気になったほうが労働者は幸せということになる。
昨今の話題になっている米国のビッグスリーは、労働者の賃金水準も高いし、
企業年金も随分良いらしいのだが、倒産の淵に立たされている。
国内市場だけを考えればよい時代は、ゼロサムと考えても問題は起こらなかっ
た。ーーーしかし、グローバル経済では異なるモデルで考えざるを得ない。
それは、競走馬の厩舎を思い浮かべれば良いのではなかろうか。
資本家が資金を出し、厩舎長と労働者が育てた馬は、競馬場で競争して、勝っ
て賞金を持ち帰るか、負けるか、で、資本家も労働者も貰える分配金は大きく
異なる。この場合の厩舎と労働者は、ウイン−ウインの関係である。
国内市場の場合、企業にかかる税金、働く者の労働条件、設備の価格も、殆ど
のものは全く同じであるか、違っていてもそう大きくは変わらない。
しかし、グローバル経済ではそれらが大きく変わるのである。
だから、国内だけの市場である時の考え方で企業に負担を求めると、国際的な
競争に負ける危険性がある。そして、国際的な競争に負けると、日本市場でも
その商品は駆逐される事になるだろうから、国内だけの競争と考えられない時
代になっているのである。
したがって、グローバル化以前は、労働者の厚生的な費用負担を企業に押し付
けていたが、いまは、国(すなわち国民)の負担にし、企業は競争に専念できる
ようにするほうが企業の生産性が上がり、国際競争に勝てる可能性が高くなる
と考えられるようになった。
また、失業のセフティネットは国が引き受け、失業者の再教育をその間に無料
で行うなどして、労働力の必要な産業への転換に成功している国も出てきてい
る。そうすれば、
景気調整などでも簡単に解雇できるし、数年の生活保障がされているから労働
者もあわてず、自己の能力を高めてより有望な産業に転進を図るようになって
いるらしい。一つの例がオランダであると言われている。
だから、企業が労働者を解雇することを、社会的責任の放棄だなどと道義的責
任論を持ち込み、重い荷を負わせることが自らの首を絞めていることが分かり
始めたわけである。
しかし、日本ではまだそう考える人が極めて少なく、社会的責任を果たせ等と
糾弾する人も多い。セフティネットができるまでは、生活保護の適用等で仕方
がないが、解雇されてもあわてないセフティネットの構築が急がれるべきであ
る。
いずれにせよ、企業は労働者からピンハネを主業とするような考えではなく、
我々の労働を商品やサービスに変えて、国内外に売る機関であり、労働者と対
立するものではないという見方が必要なんだろうと思う。
森永氏や共産党・社民党がよく言うように、企業に税負担を多くさせるのが本
当に国民全体にとってよいのかといえば、企業の国際競争力を削ぐ効果しかな
いであろうし、
税の高い国からは企業は脱走し、その国の労働者は失業者の海となるだろう。
ーーー時代は大きく変わった。
我々の考え方も変えねば、世界的な競争から置いていかれ、さらに貧しい日本
になること必定であろう。
= この稿おわり =
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┃●┃ 読後アンケートの結果。
┗━┛
◇ この意見に賛成 -------------------------------------- 68人 (65%)
◇ どちらかといえば賛成 -------------------------------- 21人 (20%)
◇ どちらともいえない ---------------------------------- 8人 ( 8%)
◇ どちらかといえば反対 -------------------------------- 5人 ( 5%)
◇ この意見に反対 -------------------------------------- 3人 ( 3%)
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┃●┃ お寄せいただきましたご意見や感想。
┗━┛
┌──────────「やせ我慢さん」
素人にとても分かり易い解説で、ありがとうございました。
基本的には、その通りだと思います。
ただ、ある程度以上の規模になると、企業は利益を求める野獣になると思いま
す。彼らの獲物の一部を我々は貰うのですが、信じているだけでは食べられる
恐れがあります。
書かれているセフティネットの整備はもちろんですが、企業が入ってはいけな
い分野を決めて保護する必要があるのではと考えています。
└──────────
▼
┌──────────「紋起さんから」
やせ我慢さま
┌--------
ただ、ある程度以上の規模になると、企業は利益を求める野獣になると思いま
す。彼らの獲物の一部を我々は貰うのですが、信じているだけでは食べられる
恐れがあります。
└--------
仰るとおりの面は常にあります。誰もが「我欲」「保身」から逃れられない部
分があり、弱いものを生贄にして生き延びようとしますので注意が必要です。
本当は、従業員組合のような団体が機能してくれると良いのですが、労組だと
イデオロギーから抜けられないですからね。未だに労組は、赤旗から離別でき
ず、
「米、帝国主義」反対を叫び、原潜の入港反対で赤旗を振っている姿を見ると
「慣性力の強大さ」と、他にやるべきことから逃避している感を強くします。
└──────────
┌──────────「Jan さん」
現代の人々は、義務を果たすことなく、何でも与えられることに慣れてしまい
過ぎました。これが企業に何でも要求することになりました。
支払う税金だって、厚生年金だって、健康保険だって、自分で計算せずに会社
まかせですね。自分のことは自分でします、というのは、ボーイスカウトのカ
ブスカウト(小学生)でも誓っています。
いい大人なんですから、権利ばかり主張せずに、もっとちゃんと義務を果たし
なさい、と言いたいですね。
会社は従業員を養うために存在しているのではありません。(^^;
└──────────
▼
┌──────────「紋起さんから」
Jan さま
┌--------
現代の人々は、義務を果たすことなく、何でも与えられることに慣れてしまい
過ぎました。
└--------
ごもっともです。私達日本人は、工場生産で働かせればダントツでしたが、そ
ういう仕事は新興国に持っていかれました。でも、その時に染み込んだ考え方
は根強く残っています。ーーー創造力を発揮する場では、依存心の強い考えは
適合しないはずなのですが。
野生で狩をするライオンも、動物園で飼い馴らされると餌をねだるようになり
ます。野生に戻って、リスクを取って創業し、雇用を増やせる人が沢山出て欲
しいものです。
└──────────
┌──────────「さぶろうさん」
賛成に票を投じました。
私の父は、高度成長期に労働組合の委員長をしていましたが“企業と労働者は
協調していかなければ競争に勝てない”とよく言っていました。紋起さんのご
意見に近いと思います。
幸いなことに、企業は生き残り、年金が出ています。
└──────────
▼
┌──────────「紋起さんから」
さぶろうさま
┌--------
私の父は、高度成長期に労働組合の委員長をしていましたが・・
└--------
そうですか。あの時代は左翼思想が本当の正しい思想であるかの如く思われて
いましたから、大変なご苦労をされたと思います。特に、倒産する危険性がな
い官公労の思想的偏向は大変なもので、
それが社保庁の年金記録紛失等の不祥事に繋がっています。だから、全逓が民
間労組になったことだけでも郵政民営化は正しいと思っているのですが「かん
ぽの宿」で揺り戻そうとしているように見えます。油断大敵です。
└──────────
┌──────────「麻生次郎さん」
100年に一度あるかないかの大不況といえども、渦中にいる我々は「現実」
問題として受け止め対処していくしかない。
そのためには「価値」を生み出す以外に方法はなく、実際の生産=価値を生む
活動からかけ離れた政党・政治家や評論家の論説は「オハナシ」で結構ではな
いか。ーーー価値創造の活動に疲れた体と心を癒す、芸術・宗教・娯楽と思え
ばよい。
いつの時代、どの民族、国家でも、もっともらしく現実と過去を語るのが常、
肝心なことは、国や、「偉い」政治家先生、評論家、学者先生の方々にあるの
ではなく「自分」の考え、行動ですから。
ーーー実は、言うは易く行うに難しの典型ではあるが。
└──────────
▼
┌──────────「紋起さんから」
麻生次郎さま
┌--------
肝心なことは、国や、「偉い」政治家先生、評論家、学者先生の方々にあるの
ではなく「自分」の考え、行動ですから。
└--------
何よりも行動が大事だと私も思います。新聞に投稿する、新聞社に電話する、
ブログにかコメントを書き込む。ーーーこれらの小さなことが流れを作ること
になると思います。
今の日本の閉塞感は、世界の環境変化に日本経済が適合していないところから
発していると思うのですが、個人のモラル問題で解消すべきという評論家も多
く、そういう人を突破するには、先述のような行動が必要だと思います。
└──────────
┌──────────「井口君夫さん」
角を矯めて牛を殺す、ということが言われる。大企業だけが儲けて、庶民の税
負担は大きいなどという。そうした一方的な意見を吐く輩がますます増えてき
た。
実際、公費負担でセーフティネットを作るとしても、その財源となる税収は企
業の存在なくしては成り立たない。そうした事情の全貌を、国民は理解して物
事を見、かつ判断しなければならないと思う。
ところがそういえば、詭弁だとか理屈をこねる誤れるオピニョンリーダーがい
ることも事実だ。そうした人士を正しく選別する能力のないマスコミ編集者も
いるのだろうか。それとも、思想的に絶対的なものを信じて疑わないのだろう
か。ーーー真に始末に負えないことが多い。
非難ばかりでない議論が望まれる。
今日、選挙でも立会演説会なるものがない。これも人心を眩ませる方向へ進ん
でいる確かな証拠であろう。
└──────────
▼
┌──────────「紋起さんから」
井口君夫さま
┌--------
そうした人士を正しく選別する能力のないマスコミ編集者もいるのだろうか。
└--------
いると思います。いや、そういう人が多いと言っても良いでしょう。彼らは、
就職以来、本当に生活に追われたこともない学業成績優秀者です。だから読者
に受けの良い観点で通しますね。
左翼的思想は、反論できない層を悪者としますから、揶揄して書くにはもって
こいの見方だと思います。だから昨年度の殆どのマスコミの業績が赤字であっ
たことは何か影響を与えるかと思ってましたが、変わっていないですね。
└──────────
┌──────────「lonsome carboyさん」
そもそも、
会社があっての労働者と賃金
国家があっての平和や人権
左派の有識者といわれる面々は、この大前提そのものを憎悪もしくは無視する
傾向が強いですね。
└──────────
▼
┌──────────「紋起さんから」
lonsome carboyさま、正しくそのとおりです。
そのように振舞うことが身の証だと思っていたり、賢さの表現だと思っていた
りしている人はまだ結構います。
また、そうのような教育が長らく続いてきましたから、幼い時代の刷り込みは
長く影響を保つものだと感心しています。一番の問題は、反対の論理を受け付
けず、好き嫌いの感情論で「憎悪・無視」するので話しにならないことです。
└──────────