現在の官僚組織でもそうだが、方針は上が枠組みを考えて示し、下がそれを具
体化するのではなく、課長・係長クラスがまず枠組みを策定し、それを上に持
ち上げて了承を得る方式であるが、そのやり方は軍部でも同じであった。
すなわち、官僚組織の上層部は、担がれた神輿に乗っているようなものであっ
た。だから、下克上の風土は、担ぐ若い層が、突出しても大丈夫という事例を
学びさえすれば、極めてたやすく蔓延することになる。
現地の若い層が上の尻を叩いて、参謀本部の事前了解を得ることなく行動を起
こすようになることが、満州事変以降顕著になる。満州事変では、関東軍作戦
参謀の石原莞爾が、高級参謀の板垣征四郎らを説得して戦争を起こしている。
会社でいえば、中企業の課長代理クラスが大企業のMAをやったといえるので
はなかろうか。このとき、朝鮮駐屯軍は独断で満州に攻め入り、戦線の拡大を
行った。
以降、2・26事件、支那事変等々で、若い将校らの独断専行による軍事行動
が頻発する。確かに2・26事件は厳しい処罰がなされた。が、しかし、他の
独断の軍事行動に関しては何らの処罰もされず、褒められているに等しい。
石原莞爾は6年後には参謀本部部長に昇進し、板垣征四郎は陸軍大臣に任じら
れる。朝鮮駐屯軍司令官で独断で越境した林銑十郎は総理大臣になっている。
このような処遇は、独断専行を褒めていることになるのだから、それに近いこ
とがそこらで発生し、その発生した既成事実をそのまま認めて次の施策を講じ
その結果中央の思っていない方向に国が進むことがそこら中で起きた。
現場の若い将校の突出で軍事行動がなされ、その既成事実で次の対策が打たれ
るのだから、身体が尻尾に振り回されているようなものである。
天皇の軍隊といいながら、これほど天皇の言う事を無視した組織はない。軍を
動かすには天皇の裁可を得るのが鉄則なのに、それを無視する。天皇がこの人
が首相となり内閣を組織せよと命じているのに陸軍大臣を出さずに倒閣する。
こういう天皇の命令も聞かない風土だから、政府のいうことなど聞くはずもな
い。「戦争は、それ以外の手段を以ってする政治の延長である」とするクラウ
ゼビッツの定義の如く、政治と統合されていなければ混乱を招くだけで効果を
失うことだけでなく、災いを招来することになったのである。
加えて、既成事実を認めて、それを前提にして次の行動を決める「行き当たり
ばったり」の経路を辿るから、その路の先に何があるかを考えていないことに
なる。
陸軍は、常に戦死した兵に申し訳が立たぬとして、支那からの撤兵を拒否して
いた。当時で、支那事変の戦死者は10万人と言われているが、その既成事実
を盾にした行動で380万人が死ぬ戦闘の路に踏み込んだのである。
支那事変の戦死者は、何十倍も仲間が増えたと喜んだのであろうか――――。
情報判断に於いても錯誤の連続であった。ーーー情報量が少なく、しかも得た
情報の読み方が、先入観が支配する「勝手読み」なのである。三国同盟もその
点で最悪の選択をしている。
アメリカの駐日大使グルーは、「日本は『略奪国のチームまたは組織』に加盟
した」と見ていたのである。したがって、日・独・伊の三国同盟によって米国
の日本に対する圧力を弱め、介入を諦めるという松岡洋祐の思惑とは全く逆の
方向に動いている。
大戦略無き混迷の路を歩んだ後、気が付いた時には石油の禁輸を喰らっていた
訳で、この段階でできることは少なかったであろう。
国民を含めて、殆どの人が狂気に支配されていたとしか思えない。残る路は、
死中に活を求めて開戦するしかなかったのである。
1つ1つは、小さな浅慮だとか、不覚の行動だったのだろうが、積み重ねると
思いもしない結末になってしまったというのが大東亜戦争への路だったように
思う。
今、経済戦争で日本が辿っている路は、何か類似のような気がしてならない。
ーーーそして、国の安全についても同じである。
= この稿おわり =
┏━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┃●┃ 読後アンケートの結果。
┗━┛
◇ なるほどこのとおり! -------------------------------- 42人 (56%)
◇ 本当にこんな状態なのか? ---------------------------- 15人 (20%)
◇ じゃーこれからどうする? ---------------------------- 14人 (19%)
◇ これは誤った分析だ! -------------------------------- 4人 ( 5%)
┏━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┃●┃ お寄せいただきましたご意見や感想。
┗━┛
┌──────────「尊野ジョーイさん」
日本側の失策に焦点を当てると、紋起さんの大東亜戦争分析も「一面の真理」
であると思います。
しかし、あくまでも「一面」を明らかにしただけであり、これですべてが解明
されたわけではないでしょう。戦争は「戦う相手」があって起こることですか
ら、国際的な視点というものも必要だと思います。
日本だけが正しい判断と行動をしていれば戦争は起こらないといえるのでしょ
うか。
└──────────
▼
┌──────────「紋起さんから」
尊野ジョーイさま、ご指摘ありがとうございます。
確かに、戦争には相手があるのですから、日本の側だけでなく相手方の分析も
必要な時もあると思います。しかし、大東亜戦争の対米開戦について言えば、
米国がいろんな挑発を繰り返して日本を戦争に誘い込んだ部分は極めて乏しい
と思っています。
こう述べると、アメリカは戦争を望まないはずはないと主張される方もおられ
るでしょうが、米国は、少なくとも日本と戦争をやりたがっていろんな工作を
していたという面は少ないという意味です。
世に非常に右の論者の方がおられ、例えば、日露戦争の直後アメリカは「オレ
ンジ計画」を立案し、日本との戦争に備えていたと述べておられます。
しかし「オレンジ計画」は、アメリカ海軍から見て交戦の可能性のある国別の
戦争準備計画であって、全体は「カラーコード戦争計画」と言われていたもの
です。だから、イギリスとの戦争準備計画である「レッド計画」も存在してい
ます。
対米開戦の分岐点ーーーその点を越えると引き返せない点(ポイント・オブ・
ノーリターン)は、南部仏印進駐ですが、これ等も誘い込まれたのではなく、
日本軍部の意思で計画し、天皇の裁可を得て行ったもので、米国の工作等は全
く存在していない日本軍の自主的な行動です。
また、それに対応する石油禁輸も、無茶苦茶な言いがかり等とはいえない対応
策だったと思います。石油禁輸に至るルーズベルト大統領の意思を読まなかっ
た日本側の不覚の行為です。
宣戦布告のない戦争である支那事変で、アメリカは義勇軍や武器支援を蒋介石
の国民党にしていますが、これとても、9ヶ国条約を一方的に破棄し中国での
アメリカの権益を侵す日本に対して、自国の権益を守る行為と言われればその
通りで、挑発でも工作でもないでしょう。
満州事変以降の日本軍の行動は、嫌々戦争に巻き込まれたものではなくて、自
分の意思で選択した行為が、結果として対米開戦になっています。自ら虎口に
入っていったとしか言いようのない、短慮と不覚の路の行き着く先だったと思
います。
└──────────
▼
┌──────────「尊野ジョーイさん」
ーーーその後、私の考えも少しずつ変わってきました。
紋起さんの以下の言葉があります。
┌--------
確かに、戦争には相手があるのですから、日本の側だけでなく相手方の分析も
必要な時もあると思います。しかし、大東亜戦争の対米開戦について言えば、
米国がいろんな挑発を繰り返して日本を戦争に誘い込んだ部分は極めて乏しい
と思っています。
└--------
私はこれに反論したのですが、なんだかモヤモヤした気持が残っていて、バッ
クナンバーの「短慮と不覚の路 上・中・下=1224号、1128号、11
33号」をもう一度読み返してみました。
もともと私の考えは、西尾幹二先生の受け売りだったのですが、西尾先生の意
見が必ずしも絶対ではないのではないか、と思うようになりました。
先の、秦郁彦との論争についても、岡崎久彦さんまで批判しましたが、ちょっ
と言い過ぎであったような気もします。
西尾先生は、アメリカを敵視し過ぎているような気がします。アメリカは最初
から日本をつぶす気でいたというのが西尾先生の主張ですが、果たしてそこま
で考えていたのでしょうか。
最近は、GHQの封書問題について本を書かれていますが、大東亜戦争は欧米
列強が植民地支配を開始した長期的な歴史の視点から見て必然であった、とい
う主張をしています。=林房雄の大東亜戦争肯定論の視点ですね。
果たして、これも正しい認識なのかどうか、ちょっと疑問に思うようになりま
した。ーーーもっとバランスの取れた歴史認識が必要であると思います。
〜〜〜開設ブログ
『僕らの世代が「政治」を創る!』
『目指すは「超一流」の学者だぜ!』
└──────────
▼
┌──────────「紋起さんから」
貴殿の思索過程をお聞かせ下さってありがとうございます。
私が大東亜戦争を勉強する目的は、再び負けるような戦争をしないためには、
何を変え、何を付加しなくてはいけないかを考察することであります。
その目的からしますと、渡部先生、西尾先生の論は全く別の領域にあります。
日本人に誇りと自信を与えることは良いことだと思いますが、その結論に導く
ために、意図的に事実を選択したり、無視したりすることは、再び負ける戦を
始める危険性を除けないと思います。
近々「短慮と不覚の路」の続編を投稿しますので、その際に、またご批判をお
願いいたします。
└──────────
┌──────────「Jan さん」
う〜ん、その通りですね。歴史は繰り返すと言いますが、今ではビジネス界で
も政界でも同じことが起こっているようです。これは組織に優れたアタマがい
ないことに起因しているようですね。
世の中はカリスマを求めているようです。ーーー人間は愚かですから、その選
ばれたカリスマが狂気の人であれば、また不幸になるかも知れません。
つい先月、2000年のマンネリと言われたクリスマスの降誕劇を見ました。
あれも、圧制下の人々が「救い主」の出現を願った結果、イエスキリストがカ
リスマだったために人々がそれに従った結果、欧米を中心に多数のキリスト教
国家ができたのではないでしょうか。
今や「出よ!カリスマ!」の時代ですかね。
そして、自称カリスマの若者が組織を動かして跳ね返り反乱を起こすのが多く
なりますね。
非常に残念だけど、大多数の人間は自分で考えずに、そのようなちょっと優れ
た人について行くほう楽だと考えているようですから‥‥。
あたしゃそんな行動は真っ平ですから、もし反乱が一時的に結果オーライにな
れば、その時は反逆者になるでしょうね。(=∵=)
そしてまた大筋で破滅の方向へ進んでいく‥‥歴史は繰り返されるものです。
└──────────
▼
┌──────────「紋起さんから」
Jan さま、コメントありがとございます、仰るとおりだと思います。
日本における閉塞感はカリスマの登場を切望しているのではないでしょうか。
橋下大阪府知事のような総理大臣が出てくると、飛びつくと思います。アメリ
カのオバマ大統領も、カリスマとしてアメリカ国民は歓迎しているのではない
でしょうか。
日本の閉塞感は、今までの繁栄をもたらした諸システムが、グローバル化の世
界に不適応である症状を呈していて、それをどう変えるかという方向も示され
ず、ただ弥縫策を施しているだけの状況を敏感に感じ取っているのでしょう。
年末の年越し派遣村に対するネットでの反論等を見ていましても、「かわいそ
うだ」の人情論だけでは何も解決しないことを国民の多くは理解しているよう
に思います。
ただ、世界の状況に適応しようとすると、日本の文化を棄てなければならない
ところが出てくるわけで、多分棄てることは極めて不愉快でしょうから、揺り
戻しも大きく=現在の小泉改革批判は多分にこれでしょうね)外圧がないと変
われないのでしょうね、日本は。
その分、今まで蓄えてきた富を逸散してしまうのではないか、と案じておりま
す。
└──────────