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坂の上の雲を! ――――――――――― by 紋起さん
☆ 氷山の水面下の話(6) ――――――――――――― 2008/12/08
少しばかり専門学校のお手伝いをしていて痛感するのは、多くの学生に勉強す
る生活習慣がついていないことである。大学進学している若者はそうでないか
もしれないが、民間企業の調査でも子供たちの家庭での勉強時間の少なさは驚
くばかりである。

私達の子供の頃とは、日本は違う国になってしまっていて、精励刻苦を事もな
げにやれた日本人が希少化していると思わざるを得ない――――。しかし、

このことから思うのは、東大生の親の年収は平均以上だという統計データの読
み方である。先述のように、山田昌弘氏らは、塾に通えない生徒は東大に入れ
ないと読む。ーーー果たしてそのような解釈が正しいのであろうか。

生活習慣は、子供が勝手につけるものではなく、親の刷り込みで付くものであ
ろう。先の専門学校生の関連で言えば、勉強する生活習慣を親が刷り込んでい
る生徒が当然だが成績も良い。そのような勤勉を刷り込む親は、勤勉であるこ
とは言うまでもない事だ。

そして、往々にして、そのような勤勉な生活を送る人は、年収も多いはずであ
る。すなわち、山田昌弘氏らのデータの読み方は、その根元で一定の「意図」
が存在すると考えたほうが良い。そして、事実であるのかどうかを確かめるこ
となく、安易に彼らの論を受け入れてはならない。

蔭山英男氏の教育論で有名になった百マス計算の活用の効果に関しては、百マ
ス計算の反復練習で、集中力が高まったり、脳が刺激を受けてその後の学習に
効果のあることが実証されている。

これは、東北大の川島隆太教授の研究とも合致すると言われており、単純な計
算や声を出して朗読することなどが、学習の準備としての役割を持っていた可
能性を示唆しているように思う。

そのような視点で見れば、我々が子供の頃には、家事の手伝い等で単純労働を
自分たちの役割として司っていたが、そういうことも、忍耐強さの鍛錬以外に
も、集中力向上の効果があったのかも知れない。

椎名誠氏だったと思うが、彼が発展途上国に行った時に、現地の子供たちが水
汲みとか農作業の手伝いを、目を輝かせてしているのを見て感激したという。

しかし、日本から来た教育関連の一行が、子供にそういうことをやらさず勉強
させたほうがよいと言って帰ったことに憤慨していた。教育関係者の頭の構造
を示す良い例だと思う。

単純なことの繰り返しにも、学習をするのと同等、それ以上の価値が含まれる
ことを再評価する必要がある。

動物行動学という新しい分野を開き、ノーベル医学生理学賞を受けたオースト
リアのコンラート・ローレンツ博士は、動物に於ける「刷り込み=インプリン
ティング」を見出した。

「刷り込み」は、動物の誕生間なしの頃に覚えこんだことが本能に近いものと
なって、生涯継続する類のことである。我々人間も動物の一種であるから「刷
り込み」が存在していてもおかしくはない。

私が講演で聞いた話だが、ユダヤ人の教育には鉄則があるらしい。

1−子供が生まれたら、子供が寝る前に、親は子供の寝床の横で本を読んでい
  る姿を見せ続ける。

2−絵本に蜂蜜を塗り、絵本を舐めたら甘く、人間にとって有益であることを
  幼児の本能に刷り込む。

3−子供が中学を卒業するまでに、公共交通機関とヒッチハイクだけで長旅を
  させ、自分たちに対する他民族の視線を体得させる。

というものであった。真否の程は定かではないが、ローレンツの理論とピタリ
と合致している。

これらのことから言えるのは、教育の基本は家庭であり、それは刷り込みと生
活習慣である。だから、教育問題を学校だけに限定したり、山田氏らのように
金の問題に還元したりしてはならない。

戦後、私達は単純なことを軽蔑し、多くの知識を学ぶ努力を「詰め込み教育」
として蔑視し、辛いことから逃げた。そしてつけた名前が「ゆとり教育」であ
る。

そして一番罪の重いのは、家庭での教育を蔑ろにして、TV・まんが・ゲーム
等の時間消費の場としていても、教育は学校でやってくれると他人任せにして
いたところがあったことではなかろうか。

いま社会現象として発生しているいろんなトラブルは、氷山の見える部分であ
り、根本原因は、氷山の下部に存在するのだが、その大きな部分に家庭の日本
的伝統断絶があるように思えて仕方がない。

だからといって、学校教育の抜本的改革は重要で、必要であることは論を待た
ない。

ーーー子供の育成に関し、私達が伝統的に持っている刷り込みに言及しておか
ねばならない。それは、

「過保護」の性癖があることだ。

子供を「いつくしむ」育て方は、温和な子を育み、それが温和な日本人を生み
出している根本なのかも知れない。ーーー昔は、「いつくしむ」育て方であっ
ても、親は子供に接する時間がなかった。

子沢山であり、家事労働は極めて時間の掛かるものであった。水汲みは、井戸
から釣瓶[つるべ]で何度も汲み上げ、バケツで炊事場に運び、種火から火を大
きくして薪を燃やし、洗濯物は洗濯板で何度も揉み洗いをして、それに畑仕事
が加わるのであるから、

子供の面倒をみれるのは寝る前のわずかな時間しかない。私の場合でも、電化
以前の頃で覚えている母の姿は、炊事場や針仕事をしているものだけである。

だから、心は過保護であっても、実際は放任の部分が多くあった。

家事をしている周りでウロウロする子供を邪魔に感じた時の親は、「外で遊ん
でおいで!」と言ったものである。子供は、外で子供たちで遊びをやり、沢山
の失敗と少しの成功を味わい自立していった。その中でリーダーシップとメン
バーシップを始め、沢山のことを学んだのである。

大きな失敗で、親や先生から叱られたことを含めて、沢山の失敗が教材で、理
屈や考えを体得したように思う。

しかし現在では、

家庭電化で家事労働からかなり解放された親は、その時間を子供に向けるよう
になった。心は刷り込みの通り「過保護」であるので、時間的余裕があるから
あれこれと指図したりして真実「過保護」となってしまう。

子供たちは、失敗して体験で学ぶことが少なく、知識として学んでしまうこと
が多い。もっと悪いのは、親が、子供たちの失敗するのを見ていられないから
失敗しないように行動の指示までしていることを見かける。

だから、子供たちの自主性が弱く、依存体質が強くなる。一昔前によく言われ
た「くれない族(**してくれないと愁訴するのが習性の集団)」はいまも健在
であるし、これからも続くだろう。

ーーー失敗を乗り越えた経験のない人たちは、極めて弱い。

ここにも、伝統的なやり方が環境変化に適合していない例を見る。それは子育
てと言う「理」よりも、「情」に近い世界であるから仕方のないことではある
が、親が構い過ぎると子供をダメにすることを予防する伝統を生み出さねばな
らなかった。

西郷隆盛の言葉のように、「子孫のために美田を買わず」が本質なのだろうが
殆どすべての人は、美田を残そうとしている。子供に失敗(致命的な失敗は避
けねばならない)をして自ら学ぶようにしたいものである。

これに関連して言えば、

これだけ沢山の「振り込め詐欺」に掛かる人が続出しているのは、日本の教育
の悪さだと思うのだが、そういう論は聞いたことがない。

家庭教育と学校教育のいずれもが、こういう詐欺に対する防御を教えてきてい
ないのではないか。ーーー他人は、常にあなたの財布から金を盗ろうとしてい
るのだ、と教えてこなかった結果なのだ。

このことを常に教えていたら、「軍隊があると戦争になるから、軍隊は不要で
ある」という左翼の馬鹿げた主張に同調する人はもっと少なかった筈だろう。
どなたかが中国人の窃盗団のことに言及しておられたが、何も中国だけではな
く、世界中が泥棒だらけで、日本人だけが例外的に無防備なのだ。

従って、今の政府や警察の過保護の対応が正しいとは思えない。

そもそも、振り込め詐欺に掛かった人は、気の毒ではあるが、欲の深い割りに
無防備な人だと思う。ーーー子供あるいは孫が事故を起こして罪になるのを、
示談で済まそうという「欲」が、確認するステップを忘れさせてしまって詐欺
に掛かっているのではなかろうか。

それを防ぐためにATMの横に警官を張り付けて防止しようとしている。もっ
と自己責任でやることを徹底しないと、何も学ばず警察への依存体質が強化さ
れるだけである。

学習が一番の予防だから、手間は掛かるが、模擬振り込め詐欺の電話を全老人
に掛けて、騙される人は一度騙されておいたほうが良い。

退職後のボランティアで団体を作り、老人に模擬的に詐欺電話を掛けて演習を
しておくことだ。模擬演習はワクチンを打っているようなものだから、効果も
持続する。

政府や自治体の過保護体質も、国民の依存体質を強め、その結果、官僚の跋扈
を許すことになっていると自省しなくてはならない。

                        = この稿おわり =
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