漱石の「こころ」に出てくる一節で、要約すれば「大袈裟に人を尊敬して盲信
する人は、やがて180度態度を変えるものだ」というのがあります。
ーーー自分自身を振り返っても、まさにその通りだなと思います。
そして、他者を全肯定したり全否定するのは、依存心の強い幼い心だと判りま
した。ーーー個人レベルであれば、そういうものだと思えば良いのですが、こ
れがもっと大きな規模になると笑ってもいられません。
NHKの、台湾統治をテーマにした歴史ドキュメンタリーが問題になった時に
感じた違和感は、まさにそうしたものでした。
NHKスペシャル「アジアの“一等国”(4月5日放送)」は、日本の台湾統治
を取り上げ、日本時代を知る台湾人のインタビューを織り交ぜた構成になって
いました。
しかし、出てくる人が殆ど日本時代の差別やマイナス面ばかり語ることに疑問
の声が挙がりました。特に、メインで扱われた人が「親日家」として知られる
人だっただけに、NHKの意図的な編集ではないかと騒ぎになりました。
そこで、チャンネル桜というメディアが、急遽現地取材でNHKの番組に出た
人を訪ね、その発言の内容を確認するという番組を作成しました。
ーーーその映像は無料でネット上に公開され、編集なしに当事者の生の声を伝
えるという形になっています。
つまり、NHKは日本の台湾統治を過酷な植民地支配だったと喧伝する意図が
あり、インタビューも、その為に意図的な編集がなされたに違いない、それを
本人に会って検証しようというものです。
その背景には、保守派の人たちには親台湾という人が多いという事情がありま
す。ーーー台湾が親日国なのは、日本の台湾統治が善政であったからで、戦前
の日本を全否定する反日左翼への反論の根拠の一つになっているのです。
私も、日本の台湾統治について一定以上の評価をしていますし、戦前の日本が
無比な悪だったとも思いませんから、上記のような保守派の気持は充分に理解
できます。
ところが、
チャンネル桜が現地取材した映像を見ると、大いに違和感を感じました。
まず、一部のインタビュアーの姿勢に「こんなとんでもない番組が放送されま
したが…」という感じが溢れていたのです。これではインタビュアーがどんな
答えを望んでいるのかが露骨に出てしまい、取材される側がその意図に迎合、
或いは気遣いをしてしまう恐れがあります。
あくまで憶測ですが、「台湾の人は親日だし、特に当時を知っている人なら、
NHKの番組に激怒するだろう」という思い込みがあったのではないでしょう
か。
確かに、自分が喋ったこととNHKが編集して流したものの印象の違いについ
て怒っている人もいましたし、日本時代の良い点も話したのにと困惑された方
もいました。
しかし、インタビュアーの意気込みと較べると、現地の人は割りに冷静な人が
多かったように思えました。
つまり、「親日の台湾人が、しかも日本語世代の人たちが、ことさら日本の悪
い面を言うはずがない! NHKの意図的な編集に違いないし、当事者の人た
ちも心外だと怒っているだろう!」ーーーと意気込んで取材するチャンネル桜
のインタビュアーと、現地の人の間に温度差が感じられたのです。
その温度差に、なにか一方的な盲信=勝手な思い込み)を台湾の人に押し付け
ているのではないか、と思いました。そして、インタビューに応えた一人の台
湾人が、まさにそうした例を示してくれました。
その方の日本人の知人が電話してきて、あんなに日本の悪口を言うなんて裏切
られた気持だと言ったのだそうです。
その人は、「日本人に裏切られたと言われる憶えはない! 裏切ったのはどち
らなのか?」と、やや憤慨した様子で語っていましたが、まさにその通りだと
思います。
日本の台湾統治時代を知る台湾人たちは日本の統治に感謝し、日本を100%
好きだ…と勝手に思い込み、少しでもそれが違っていると「裏切られた」など
と手の平を返したように強い言葉で相手を責めるのです。
ーーー冒頭に記したような依存心の強い幼い心を、日本の側に感じました。
なぜそうなったのかということを何も考えずに、ただ自分の思い込みと違って
いるというだけで相手を全否定して、一方では自分の国がしてきたことを忘れ
ているのです。
日本は、1972年、日中国交正常化に伴い、台湾との国交を一方的に断った
のですから、親日的な台湾人のほうこそ日本を裏切り者と呼びたいでしょう。
そして、統治された側から考えれば、良い面もあれば悪い面もあったのは当た
り前です。まして、統治時代には子供や若年でしかなかった人たちにとっては
日本によるインフラ整備などよりも、日常の中での差別や喧嘩のほうが身に染
みた体験だったはずです。
大人の社会でも子供の社会でも、ちょっとしたことでイジメや仲間はずれにし
ますが、それが統治側の人間と被統治側の人間の間ならば、なおさらだったで
しょう。
その頃の思い出を語れば、嫌なことや不快な事が出てきて当然だと思います。
親台湾というならば、何故そんな当然のことを思いやれないのでしょう。それ
では、自分の心地良い幻想を相手に押し付けて甘えているだけではないでしょ
うか。
台湾の日本語世代が親日なのは、戦前の日本統治と戦後の国民党支配の両方を
経験し、その上で総合的に判断しての考えであって、何から何まで日本時代が
良かったという意味ではありません。
親日家として知られ、「母国は日本、祖国は台湾」という著書まである有名な
方も、チャンネル桜のインタビューに対して「日本の台湾統治は良い面が50
%、悪い面も50%だった」と答えています。
良い面が50%もあると評価されたことだけで、充分ではないでしょうか。
そう言ってくれる台湾の人たちに、勝手な思い込みや思惑を押し付けたり、あ
るいは甘えたりするような日本人であってはいけないと考えます。
最後に、一部のインタビュアーに疑問は感じましたが、現地で本当の声を確か
めようと行動したチャンネル桜は、高い評価を受けるべきだと思います。
特に、取材内容を編集せずに無料公開してくれたので、台湾人の微妙な心を知
る事ができました。
本当に、感謝しています。
また、本稿で書いたことと、NHKの偏向問題は全く別の話であり、問題があ
れば厳しく糾弾するのは当然のことだと思います。
= おわり =
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┃●┃ 読後アンケートの結果。
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◇ この意見に賛成 -------------------------------------- 84人 (63%)
◇ どちらかというと賛成 -------------------------------- 29人 (22%)
◇ どちらともいえない ---------------------------------- 11人 ( 8%)
◇ どちらかというと反対 -------------------------------- 2人 ( 2%)
◇ この意見に反対 -------------------------------------- 7人 ( 5%)
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┃●┃ お寄せいただきましたご意見や感想。
┗━┛
┌──────────「Luluさん」
50:50ーーー台湾に対しては、そんなもんでしょう。台湾の方は、国民党
という比較するものがありますし。
今の日本人に今の日本は良いかと聞くと、もっと悪い数字が出ると思います。
└──────────
▼
┌──────────「やせ我慢さんから」
割譲を受けた異民族に支配され、それでもこの数字なら誇れると思います。
└──────────
┌──────────「荒田さん」
あの番組の後、NHKを批判することは分かりますが、世間全部が同じほうを
向いている(あるいは向いているように見せかけられている)ことには疑問を
感じました。
例えば、某SNSの台湾コミュニティのアンケートにしても、NHKを断じて
許さない人ばかりである、ということが前提にあるようなアンケートがありま
した。
└──────────
▼
┌──────────「やせ我慢さんから」
戦術として、そのような手法を一概には否定できないのですが、今回はどうな
のかなと考えてしまいました。
└──────────
┌──────────「緑の保守派の尊野ジョーイさん」
この依存心というのは、戦前からある日本人の欠点だと思います。
あらかじめ断っておきますが、私はカソリックのクリスチャンであります。
しかし、ある無教会主義の集会に参加しています。この集会の創設者は、先の
大戦で日本が負けた最大の理由は、神への祈りを忘れて、偶像崇拝に走ったこ
とであると喝破しておりました。
それが具体的にどういうことなのかまでは書いていないのですが、やはり依存
心が問題になっているのだと思います。
└──────────
▼
┌──────────「やせ我慢さんから」
日本人だけなのかどうかよく判りませんが、大きな欠点ではあると思います。
└──────────
┌──────────「紋起さん」60代@男性@近畿
良いお話ですね。
日本統治時代を、先に自分達が決めていて、それに合わない意見を述べる当該
国の人を、恩知らず等と述べている例が結構あります。また、そういう話をす
る右の論者も結構おられます。
私は、評価は一番後ですれば良いことで、まずは事実を忠実にトレースするこ
とから始めれば良いのではないかと思っています。当該国の方がそう思ってお
られるのなら、それは事実の一つですから、聞き置くことが大事でしょうね。
良いところ5割なら望外の幸せと思え、というお話も同意します。
我々の祖先がそれなりの考えでやったことが、その思惑通りに受取られていな
かったら、なぜだろうと考えれば、良い出発点となるのではないでしょうか。
親日だとか反日だとかの、レッテルを貼り過ぎているような気もします。時に
必要なこともありますが、時に正しい判断を狂わせることもあります。
人の心は、表面反日、心の奥底憧れ日本、なんてざらにあると思うのです。そ
ういう状況を正しく掴む努力をして、国益に沿った応対が必要な時代がきてい
るように思いました。
└──────────
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┌──────────「やせ我慢さんから」
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親日だとか反日だとかの、レッテルを貼り過ぎているような気もします。時に
必要なこともありますが、時に正しい判断を狂わせることもあります。
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私も方法論としてそれが必要な場合があると考えますが、それはあくまで方法
論であって、それを盲信してしまっては害があるばかりかと思います。
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この記事はブログ「戦争に負けた国」より転載させていただきました。