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中国ビジネス・急がば回れ! ―― by サムライ駐在員さん
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☆ 駐在は夜討ち朝駆け(前編) ――――――――――― 2006/06/16
「スパイはマゴコロである」―――とかく単純にできている私共は、よくでき
た映画にはすぐに感銘を受けてしまう。
これは、市川雷蔵主演「陸軍中野学校」の冒頭に出てくるヒトコマで、加東大
介演じる特務機関長の中佐の訓示の第一声で、続いて日露戦役においてペテル
ブルグ公使館付武官の明石元ニ郎陸軍大佐が、たった一人で如何にしてロシア
革命勢力の心を得、後に、三個師団に匹敵するといわれた大諜報というシゴト
をやってのけたかというくだりに続くのであるが、
こうして大陸で駐在員なんていう商売をやっていると、時折これがひどく身に
つまされるのである――――。
さて、先週の週末は業務上の対応でXX方面へ連日の出撃となっていた。特に
XXX製品に関する検品業務で、出荷予定が月曜の朝となると、土曜日曜は完
全に出荷対応のためメーカーに付きっ切りとなる。今回の場合は、完全に土日
を費やす形となり、文字通り出荷期限まで密着する羽目になった。
我々のような零細貿易商となると、野武士のようなもので臨機応変にゲリラ的
に現地ローカルの町工場のようなメーカーに直接オーダーを出すのだが、なか
なかどうして物事は簡単には進んでくれないのである。
なんといっても、中間に商社や問屋を通さずに(おお、よく考えたら我々が商
社だった!)現地ローカルで商売をやっているような町工場から直接買い付け
るのであるから、いわばJTBがツアーを組むにあたって、駅前にたむろして
いるバイタクと契約するようなもので、ーーー仕入れは恐ろしく安いのだが、
当然さまざまなリスクがあるのであって、それを何とかせんならんのが目下の
ところ私の商売ともいえる。
土曜日のことである。
翌々日の朝には出荷しなければならない予定であるにも関わらず、XXXの部
材の入荷が4日も遅れていたので、XXX取り付け以降の工程がすべて土曜日
スタートの突貫作業となっていた。ーーー休日を含めて、たった15日しかな
いリードタイムの中で、4日の遅れはものすごく痛い。
特に、XXX製品は完全に手作業で生産されるので、時間×ワーカーの頭数で
すべてが決定されてしまうため「とにかく気合入れてやれい!」というような
精神論で何とかなるものではないのである。
そういうわけで、何日か前からこのメーカーのラオバンからは「XXXの部品
が入ってこんのです!いくら言っても入ってこんのです!」というナキゴトの
電話が入って来ていたのであるが、こちらとしても納期を譲るわけにはいかん
ので、意味がないとは分かっていても「なんとかせえ!」と答える以外に仕方
がなかった。
そういうわけで、本来の検品予定日である土曜日に大挙して部品が入り「ソー
ラ入ってきたぞ!」とばかりに突貫作業となった次第である。
なんといっても現地ローカルのメーカーでの手作業での生産では、往々にして
品質とスピードは相反する概念であるのでまったく気が抜けない。工場といっ
ても、完全な下町の町工場で、ほぼスラムに近いような場所の倉庫の2階で、
ーーーカンバンすら上がっていない。
かつての香港にあった九竜城砦は、意外とこういう工場が多かったのだそうだ
が、つまりはそういう状況の場所を想像すれば間違いなく、本国の客人をここ
に連れてきたら、夜泣きカンのムシになることは確実であろう。
これ以上は原始的にしようがないというような工場であるので、こういうとこ
ろでいいものを上げてもらおうと思ったら、工場自体を啓蒙・教育するような
スタンスが不可欠となるのである。
なんといってもラオバン=社長・経営者)との信頼関係こそが重要なのである
が、本国の営業がやるような「フーン、イヤならアンタんとこからオーダーを
引き上げるだけだが、それでもいいのか?」というような恫喝的対応や、逆に
「本国はあんなこと言ってるけど、俺達は仕事がなくてもポン友だ」と言って
宴会で仲良し度を上げる中日友好的対応ではどうにもまずい。
こういった場合参考にすべきは、やはり戦前の台湾でダムを作って今でも銅像
が湖畔に残る八田与一先生や、最後までDUTYを尽くしたことで、今でも外
国では名前が知られる郷土の偉人、6号潜水艇の佐久間艇長のスタンスではな
いかと経験上思うのである 。
ダメなものはダメだと毅然とする一方で、ここで指摘することは間違いなくお
互いのためであるという誠意を見せなければならない――――。
特に、中国人の民族性はとてもまっすぐで、半島や一部の日本人と違って根性
曲がりが少ないので、こういった誠意をお互い理解しあうことで、どんなムリ
でも聞いてくれるようになる。
そういうわけで、こういう相手とお互いに尊敬を受ける関係を構築するには、
なんといっても相手に胸を張って正対することと、いい加減なことや曖昧なこ
とを言わないこと、やることやらせることにしっかり説得力を持たせることが
重要となり、なんのことはない、つまりは武士道精神であるに違いない。
出荷2日前である土曜日にようやく後半の工程が動き出したので、同日はとて
も検品にならない。前回の問題点についてすりあわせを行い、「明日こういう
のが出たら問答無用でハネるぞ!」と、警告を残してその日は宿に帰る。
翌日の日曜に再び工場へ出向き、上がっているものを検品してみたところ、や
はり突貫作業は品質に反比例するとみえて、一部の製品では不良率が許容限界
のX%を超えてしまっている。ーーーサテ面白くなってきた。
私の駐在のモットーは、「どんなにヒデエ目にあってもすぐに忘れることがで
きる鋭い忘却力」と「どんなにヒデエ目にあわせても一向に意に介しない鉄の
無神経」であるので、すかさず不良データをまとめてラオバンを呼ぶ。
「あかんぞ、ひっで不良でてるげや!」
ラオバンも一緒になって不良品をまさぐる。
「うーむ、おかしい。ちゃんと言っておいたハズなのに」とラオバンは顔をし
かめる。ラオバンはすかさず人を呼び「オイ、どんなんなってるんじゃ?これ
はダメだ!」と言い、「アンタの注意した点はキチンとやりますです、ハイ」
と下手に出る。
下手に出るのはいいが、ここで「さようか、では頼んだっちゃ」と任せきりに
してしまうとウヤムヤになって結局やらなかったりするので、その場ですぐに
返工(手直し)を実施させ、効果を確認しなければならない。
「何してんじゃ、はよ人足手配して見直しかけえま!」と抜け目なくツッコミ
を入れ、集まったワーカーに問題のある製品を見せて「何が、どういうわけで
アカンのか」を徹底する。
大体問題となるのは外観上の不具合で、ここらあたりは日本と大陸の感覚の差
が実に明瞭に表れるので、「何がどういうわけでアカンのか」をワーカーに如
何に理解させるかがポイントとなる。
往々にして「こんなもんは一点点(YIDIANDIAN:ほんのチョビッと)ですよ」
と答えてくるのだが、大陸の一点点は日本のチョビッととは一点点が違う。
まずは理屈で説明するのだが、これだけでは徹底不足で、つまり感覚的な問題
であるなら感覚的に分からせることが重要である。
「なぜこの外国の客人はここまで拘[こだわ]るのかいな」と感じさせることが
必要なので、ミケンにシワを寄せながら、敢えてオーバーアクションを演じる
とか、後述する「必殺ヤセガマン作戦」を講じるなどが有効となる。
そういうわけで、日曜日の午後に手直しを指示した次第であるが、出荷までの
時間はすでに24時間を切ってしまっており、生産自体も続行中であるので、
どう考えても翌日午前の出荷には間に合わないことが判明した。
「どう考えても物理的に間に合わんぞ」 とラオバンに相談すると、
「ヨッシャ分かりました。今日は通宵(TONGXIAO:徹夜)や!通宵や!」
とラオバンは意を決して答える。
「そうか、ご苦労さんやけど頑張ってくれい」と言い、「俺も今晩付き合うわ
い」と言うと、ラオバンは目をむいて驚く。これが「必殺ヤセガマン作戦」で
ある。
大陸での習慣では買うほう=検品に来る側)は、お客さん待遇でフンゾリ返っ
ているのが普通であるので、まして外国からの顧客が末端の町工場で徹夜出荷
対応に付き合うというのはほとんどないらしい。(もっとも日系のアセンブリ
業界では、部品が上がるまでベンダーに篭城して梃子でも動かないというのは
よく聞く話である)
そういうわけでメーカーは「え?え?そんなん辛苦なことせんでも大丈夫です
よ。ちゃんとやるから安心してくださいよ」と恐縮するのだが、これは実は前
述の「感覚的問題を感覚的に分からせる」ためのとっておきの手段なのだ。
「外国のバイヤーが現地の中間問屋も通さず自力で工場まで出向き、徹夜に付
き合ってまでこだわる問題とはなんなのか」ーーーという疑問をワーカー各自
が感じてくれればシメタもので、これは強力な圧力となって作用し、かつ長い
効果も期待できるのである。
そういうわけで、夕方に手直しの効果を一通り確認した上で一旦常平に戻る。
本国から何か連絡が入っているかもしれないし、まずは状況の第一報を入れな
ければならない。また、前日からXX方面に出張っていたので、ともかくもフ
ロに入ってスッキリしたい。
常平に戻ったのが19:30で、再びXX方面行きの列車に乗ったのが21:
50だった。こんなとんでもなく遅い時間に、XX方面の、しかも下町のデン
ジャラスゾーンへ単独で向かうのは初めてなので、ちょっと不安になる。
なにかブキはないかと思って自室の回りを眺めるのだが、ステンレス製の二節
棍=ヌンチャク)しかないので、仕方がないこれを持っていくことにする。こ
れは一見ハデだが、どちらかというと威嚇用なので、いざというときにちゃん
と間に合うかどうかは分からないが、要は気の持ちようである。
できれば、催涙スプレーの代用になる整髪ミストの小型スプレーがあればいい
のだが、五厘刈頭の私がもともとそんなものを持ち合わせているはずもなく、
うかつな話である。
列車がXX東駅に着いたのが22:30で、そこから地下鉄に乗り換えXX駅
で降りた頃には23:00になっていたーーー。
出口に止まっていたバイタクに「XX大道南のXXXあたりまで」というと、
「アア?!」と言う。どうやら知らんらしいので深く関わっては面倒である。
ちょうど空車のタクシーが横を通りかかったので、再び「XX大道南のXXX
あたり」というと「ヨッシャわかった!」という。やはりタクシーはこうでな
くてはならん。
やがてXX大道南のXXXあたりに差し掛かると、さすがに人通りも少なくな
り、道も薄暗いというかナトリウム灯の明かりで暗いオレンジ色のモノトーン
一色で気色の悪いことおびただしい。
さらに、XXXから裏道に入るようタクシーに言うのだが、タクシーの運ちゃ
んはややヒルんでいるようで、「え?ここを曲がるんかいや?」と聞き返す。
「そうや、ここを入るんや」と念を押すのだが、なるほど不気味な通りで、道
はクルマ1台がやっと通れるだけの真っ暗の未舗装、道の両側は材木や建築廃
材が山になっていて見通しも効かない。
落ちている廃材から突き出しているサビ釘がヘッドライトに照らされてブキミ
に光る中、タクシーはうねる道を100メートルほど徐行して行き止まりまで
進み、そこからは歩いて工場へ向かった。
= この稿おわり =
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