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中国ビジネス・急がば回れ! ―――― by FROMFAST007氏

☆ 中国人の交渉モデル ―――――――――――――― 2001/07/18
<ポイント>

(1)日本人が中国人と利害が相反する場面で交渉するケースは今後増えてい
   くことが予想される。交渉を有利かつ円滑に進めるため、中国人の交渉
   スタイルを理解する必要がある。
(2)中国人の交渉スタイルを説明するモデルとして"青空市場モデル"を考え
   てみたい。すなわち、青空市場で行われる値札がない商品の値引き交渉
   と中国人の交渉スタイルに多くの共通点があるという考え方である。
(3)仮に"青空市場"モデルを当てはめて考えると、交渉の当初に提示される
   中国人からの高い要求にはあまり動揺せず、日頃から彼らの想定してい
   る"落とし所"を見極めておくことが肝要ということになる。

<本文>

今回は政治・経済そのものではなく、その根底にある国民性のようなものにつ
いて考えてみます。
現在、中国の政治や経済に関する情報や資料は数多くあります。
しかし、こうした問題を中国人の特性との接点で説明したものは極めて少数で
す。

その理由は、中国の政治・経済の制度自体が大変な変革期にあるので、これを
捉えるだけでも充分骨が折れる作業だということと中国といっても広大で、そ
れを一つの国民性という枠で括ってしまうことは逆に誤解を招くということの
2点が考えられます。
しかし、こうした理由があるとしても中国人の特性は間違いなくあるわけで、
多少の強引さは理解したうえでも考えてみる価値は充分あると思います。 
今回は、その具体例として中国人の交渉スタイルについて一つのモデルを提示
してみたいと思います。 

(1)なぜ交渉スタイルを考えるのか

中国人の特性といってもあまりに広大なテーマですから、ここでは彼らの交渉
スタイルを取り上げます。
その理由は、今後政治、ビジネス、あるいは生活のなかで、日本人が中国人と
接する機会が間違いなく増えていくと考えるからです。

そして特に、利害が反する場で普通の(中国の専門家ではない)日本人が中国人
と接した場合にどうするかということが意外に重要になるのではないかと考え
ます。
中国人は、別に”訳の分からない人たち”では決してありませんが、日本人と
は明らかに特性が違う異民族でもあります。
従って、彼らの交渉スタイルを大まかにでも理解することは非常に有用です。
よく中国人の交渉態度を示す言い方として”中国人はメンツを大切にする”と
いうものがあります。
これは事実としては正しいのでしょうが、だからといって中国人のメンツを立
てるばかりでは、こちらが譲歩ばかりして損をするだけですから交渉の役には
あまり立ちません。

また、北京で生活している感覚では、日本人なりの当然の礼儀を普通にわきま
えれば、彼らのメンツを潰してトラブルになるということはまず起きません。
従って、”中国人はメンツを大切にする”という言い方は、中国で様々な経験
をされてきた方々がおっしゃるだけに正しいのでしょうが、あまり実用的でな
いとはいえるでしょう。

中国人と実際に接することを想像した場合、より知りたいのは彼らがどういう
態度で交渉を始めて、どうやって結論を出すのかというプロセスです。
それは、日本的に根回しや以心伝心のなかで生まれてくるものでも、アメリカ
的に論理的なディベートを通じて相手を説得するものでもないはずです。

(2)”青空市場モデル”

ここで私が提起したいのは、”青空市場モデル”というものです。
つまり、彼らの交渉スタイルは、青空市場で値札がない商品の値引き交渉をす
る態度に似ているというものです。
北京の中心部ではさすがに少ないですが、郊外に行くと至るところに青空市場
があります。
もちろんスーパーなどもあるのですが、価格が安いこととおそらく中国の庶民
には慣れ親しんだ場所なので市場は今でも食材や日用品の大切な供給源です。

市場には値札がついていない商品が多く、店の売り子は相手の身なりを見て、
値段を決めるようなところがあります。
例えば私のような外国人が来た場合は当然高い値段を吹っかけてきます。
ここで私が商品の相場を知っていれば強気の交渉に出ますが、知らなければあ
まり 大幅な値引きは出来ずに法外な値段で商品を買うことになります。

日本人にとっては、こうした交渉はそれこそアジアに海外旅行でもしない限り
なかなかありませんが、現在の中国人にとってはこれが一種の日常です。
こうした日常と彼らの交渉スタイルはかなり類似点があるのではないかと思う
わけです。(ちなみに、こういう交渉を、中国語では"討価還価"といいます)

”青空市場モデル”の特徴を以下示します。

  i)交渉開始時には、相手に対し非常に高い(法外ともいえる)要求を公然と出
  す。同時に、それが現実的ではないことも実はわきまえている。
 ii)相手が反対してきた場合は、融通無碍に妥協に応じる。
  (当初の要求が高すぎることをわきまえているため)
iii)結局は、交渉開始時に予め”落としどころ”と考えていた妥協点に落ち着
  く。
もし相手が”落としどころ”まで譲歩しない場合は交渉決裂、例えば、最近の
緊急輸入制限をめぐる交渉にもこうした傾向を感じ取れます。
日本がネギ、しいたけ、畳表という比較的交易量が少ない農作物のセーフガー
ドを発動したことに対し、中国は日本製の自動車、携帯電話、エアコンに対す
る報復関税を発動しました。
日本が農作物のセーフガードを撤廃しない限り、報復関税も撤廃しないと主張
しています。
一見するとこの報復措置は日本に対し非常に厳しいように見えます。

しかし、中国の街を歩けばあることに気付きます。
ソニーやパナソニックの携帯電話、三菱重工や日立のエアコンなどは全て中国
国内で現地生産しているのです。
自動車も、基本的には中国企業との合弁会社で現地生産している場合がほとん
どです。

今回の報復関税は部品を対象にはしていないようですから、日本企業に及ぼす
実害は見かけよりも遥かに小さいだろうと推測します。
こうした実情から、中国政府の非常に厳しい日本のセーフガードに対する非難
とは裏腹に、実は彼らも日中間の経済関係を非常に大事に思っていることが読
み取れます。
また、部品への報復関税は現地生産に支障をきたし、中国自身の利益になりま
せんから今後もまずあり得ないでしょう。

日本を代表する工業製品の完成品に報復関税をかけるという方法は、見た目の
強烈さと実害の小ささのコントラストという点でいかにも中国政府らしい反応
であると思います。

さて、こう書くと中国人はいかにも特殊な特性をもっているかのようにも見え
ます。
しかし、実は日本人の“根回し”“曖昧な微笑”“ノーともイエスとも言わず
何を考えているのか分からない”態度も外国からは特殊な交渉態度として見ら
れています。
またアメリカの訴訟文化も行き過ぎと見られる部分が多々あり、結局はいずれ
の国や民族も独特な交渉文化を持っているという当然の事に気づかされます。

(3)"青空市場"交渉への対処

では、こうした交渉態度を取る相手には、どういう点を留意する必要があるで
しょうか。
まず重要なのは、交渉当初の高い要求を真っ正直に受け止めないことだと思い
ます。
この点を意識せず中国人のメンツを立てることばかり考えていると、引き出せ
る妥協も引き出せなくなってしまいます。

ビジネスの交渉プロセスというのは滅多に公開されないのでどうしても外交が
例に出てしまいますが、この点が日本の対中外交が一部から"弱腰"と非難され
る原因ではないかと思います。
"弱腰"という言い方は別としても、中国から度重なり出される要求にそれほど
丁寧に応えなくとも関係は充分維持できると思います。
理由は、中国自身が自ら出している要求の高さを充分理解しているだろうと思
うからです。

次に必然的に出てくる疑問は、では彼らはどこまで妥協してくるのかという点
です。
これは当事者が日頃から中国人とのコミュニケーションを維持して彼らの本音
を把握するように努める他ないでしょう。
従って、交渉は"始まる前から始まっている"とも言えるのかもしれません。

以上、今回は中国人の交渉モデルをごく簡単に描いて見ました。
しかし、冒頭で示したように中国人といっても十三億人近くいるわけですし、
地方による文化差異も大きいのでこれで中国人の特性を説明しきったことにな
るはずはありません。
今後、実体験を重ねればこのモデルに修正を加える必要も出てくるでしょう。
その際は、このマガジンで改めて取り上げたいと思います。

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参考資料:田中則明『中国ビジネス戦記』ぎょうせい、1999年。
邱永漢 『こちら北京探題』 新潮社、1996年。

                        = この稿おわり =
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