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中国ビジネス・急がば回れ! ―――― by FROMFAST007氏

☆ 中国の生産拠点としての可能性 ――――――――― 2001/06/20
<ポイント>

(1)中国の労働コストは、ごく一部の大都市を除いては依然低く今後も大幅
な上昇はない。
但し、国内の人口移動がより自由になることがその前提条件となる。

(2)中国の製造業は、既に多くの日本人が考えているよりもはるかに高い技
術力を有している。
従って、同じ労働コスト水準の国々との差別化は可能である。

(3)日本製品の技術力の高さは中国でも高く評価されている。
そのため、日本企業が現地進出した場合も、中国人従業員は意外に意欲的に日
本式の労働スタイルを学び取っている。

(4)低い労働コスト、高い技術力、日本スタイルへの適応意欲というメリッ
トには、予測不可能な法制度の変化や社会習慣の相違というデメリットを補っ
て余りある持続性がある。

<本文>

前々回は"モノの売り込み先"としての中国につき慎重な見方を示しましたが、
今回は日本企業の生産拠点としての中国を見て行きたいと思います。
これまで、中国の直接投資先としての魅力は低い労働コストにあると言われて
きました。
私は、この労働コストのメリットは今後も続き、更に最近向上著しい技術力と
相俟って、生産拠点としての魅力は今後も増していくと考えています。

(1)今後も大幅には上昇しない労働コスト

言うまでもなく、これまで日本企業が中国に直接投資して生産拠点を作ってき
た最大の理由は低いコスト、なかでも労働コストの低さです。
しかし、毎年8%近い経済成長を続けている中国が今後も低い労働コストを維
持できるのかという問題があると思います。

まず、中国に関しては一種無謀な試みですが数字を見てみたいと思います。
英エコノミスト誌のシンクタンクである Economist Intelligence Unit(以下
EIUと表記)は中国の一人一時間あたりの労働コストは1999年の42セ
ントから2005年には61セントに上昇するだろうとしています。
現在の平均労働コストに関しては、日中合弁の繊維工場の従業員の月給が、約
1500元(約200ドル)だそうですから、EIUの数字は当らずとも遠か
らずといったところでしょう。
この数字が仮に61セントに上昇したとしても日本と比較すれば充分低いです
が、私はこれよりも上昇の幅は小さくなるだろうと思います。

その理由の第一は中国の人口調整政策にあります。
中国の人口調整政策はよく”一人っ子”政策と言われますが、過疎の農村や少
数民族は働き手としての若い男性が必要なので必ずしも一人っ子でなければい
けない訳ではありません。
詳細は省きますが、経済が発展していない地域では合法的に複数の子供を産め
るのです。
ということは、低い労働コストで働く労働者は高収入の都市人口よりも相当早
いペースで増加していくということです。

第二の理由は、失業率の増加が予想されることです。
EIUでは失業率は1999年が5.5%とされ、その後一時的に7%まで
上昇した後に2005年には5%に落ち着くとされています。
つまり、国有企業改革は比較的短期に成功するとみているようですが、私は
失業率はあと5年間は上がる一方だと思っています。
中国に住み、資本主義国ではどう考えても不必要なところで多くの人が働いて
いることを日頃目の当たりにしている私の直感です。

さて、以上のような理由から労働コストの大幅な上昇はないと私は考えますが
その前提条件は人口移動の更なる自由化です。
都市部の生活水準の向上は言うまでもなく顕著なので、低い労働コストの供給
源は農村になります。
しかし、日本企業が内陸の過疎地に投資をすることはまず無理でしょう。

材料や製品の輸送コストが膨大になれば労働コストの低さも無意味ですし、何
より農村は総人口は多くても各地に分散しています。
従って、少なくとも都市から100km圏内の郊外に農村出身者が合法的に移動
できるようになることが理想です。
しかし、実際には戸籍制度による人口移動の規制と都市部の抵抗という二重の
障害があります。

戸籍制度は盲流という不法な人口移動に追随するように徐々に緩和されていま
すが、より大きな障害となりそうなのは都市部の抵抗です。
北京でも、農村からやってきた人々が低賃金の仕事に就いていますが、彼らは
昔からの北京人の間では犯罪や社会不安の元として非常に嫌われています。
こうした問題が、自然な人口移動の障害になる可能性はあると思います。

しかし、低所得の人々が出稼ぎ先を求めるという自然な経済現象自体はもはや
止められず、外資企業にとっては低い労働コストを享受できる環境が今後も続
くと思います。
但し、ここで簡単に取り上げた人口問題や農村問題は言うまでもなく中国を語
る場合に終わることのない議論を呼ぶ分野です。
この点については以降改めて取り組んでみたいと思います。

(2)中国の技術力

中国製品の技術については、具体的な例を挙げてみましょう。

私は北京に住んで以来、中国製の洗濯機、冷蔵庫、炊飯器、電話、魔法瓶、ビ
デオデッキなどを1年近く使っていますが、一度も問題にあったことがありま
せん。
加湿器が一度壊れましたが、サービスセンターに電話したらその日のうちに技
術者がやって来て、結局私が説明書通りに使っていなかったことが原因である
ことが分かりました。
それでも、技術者はその場で無償修理して帰って行きました。

日本の消費者は、細かいところにこだわるうえにブランド志向が強いですから
中国製品に魅力は感じないでしょうが、世界の感覚からいえば中国の製品は既
に低価格の割には充分Reliableな(信用できる)商品です。
また、パソコンメーカーの連想(英語名Legend)などは、中国国内では売上の
トップシェアを誇り、日本を除くアジアでも相当売上を伸ばしています。

低価格でありながら基本性能は一応しっかりしているというイメージで、日本
でいえばソーテックのような位置付けです。
部品や精密機械の製造技術については良く分かりませんが、NHKの特集番組
では中国企業の工場を訪れてその技術力に感嘆する日本企業の技術者が取材さ
れていました。

もちろん日本や欧米の製品とは比べものになりませんが、安い割にはなかなか
質がいいじゃないかというのが、実際に中国製品を手にした人の多くの実感だ
ろうと思います。
そしてこのことは、ベトナムやミャンマーなど中国よりも更に低い労働コスト
を提供する国との差別化を行ううえで重要です。

日本人はよく台湾、韓国などと比較して中国の技術水準が低いと考えがちです
が、25年前は文化大革命に明け暮れ、現在も国際競争に晒されているとは言
いがたいという非常に不利な環境のなかでここまでキャッチアップしてきたこ
とは見事だと思います。
では、なぜ順調に技術のキャッチアップが出来たのか。
次はこの疑問から考えてみたいと思います。

(3)日本企業への期待と適応

中国が技術のキャッチアップを急速に進めた原因は色々言われていますが、特
に経済開放当初は華僑や台湾資本の影響が大きかったと思います。
華僑や台湾経済は長い間国際競争で揉まれてきていますから、その経験や知恵
を中国語で伝えることが出来ます。
これは、社会主義経済の慣習から抜け出すうえで非常に大きなプラスに働いた
だろうと思います。

そして現在では、技術力の向上が利益に結びつくことを自分の経験として理解
するようになりましたから、外国資本から技術を習得することに非常に前向き
です。
特に日本企業の成功や技術力の高さは非常に評価されていますから、その秘訣
をいい意味で盗み取ろうという意欲がかなりあるようです。

AERA5月7日付のユニクロレポートでは、最初は大きな慣習の違いから何
度もすれ違いが生じながらも、結局は日本の技術を必死に学び取ろうとする中
国人労働者の姿が描かれています。
また、私が中国人と話をしていても、決まって日本の経済力や技術力の高さが
話題に上ります。
やや過大評価だと思うときもありますが、中国では日本の技術力は非常に尊敬
されています。

特に、欧米では日本企業がバブル崩壊の痛手から未だ立ち直れず低迷している
(そして今後も復活することはない)という評価があるようですが、中国では日
本企業は必ず巻き返してくるだろうという見方が意外に根強いことに時に驚き
ます。
こうした背景は、日本企業が生産拠点として中国に進出する際には文化や慣習
の差異という海外進出では必ず伴う問題を乗り越える際には有利に働くと思い
ます。

(4)全体的な評価

もちろん中国を生産拠点とした場合にも多くの問題があると思います。
中でも一番大きな要素は政府の優遇政策の変更だと思います。
例を挙げればキリがありませんが、まさに朝令暮改を地で行くような世界で、
1年前の優遇政策が突然取り消されたりします。 これは政策決定プロセスが
不透明な独裁政府がある以上は避けがたい問題です。

あまりにも不条理な場合は日本政府も外交チャンネルを通してハッキリ抗議し
ていくべきだと思いますが、いずれにせよ、この問題は今後も長い間続いてい
くと思います。従って、優遇政策は元からないものだと思って期待しないほう
が賢明なのでしょう。
しかし、労働コストの低さ、技術力の高さ、日本企業への適応意欲という3つ
の要素が揃った生産拠点は世界広しといえどもなかなか得難く、この3条件が
今後5年から10年は続いていくことを考えると日本企業の生産拠点としては
中国は引き続き有望であろうと思います。

参考資料:
Economist Intelligence Unit Viewswire (China April 2001)
→非常に詳細かつ網羅的なレポート。
有料なので以下はオンラインショップのリンク。
http://store.eiu.com/index.asp

AERA 2001.4.30-5.7号 p.8
→ユニクロの中国工場レポート。
NHK BSウィークエンドスペシャル 2001年5月20日放送
『WTO加盟へ 日本企業の新戦略』

南方週末 日本企業特集(中国語)2001年2月5日
→日本メーカーのIT戦略を16本もの記事で詳しく紹介した特集。
http://www.southcn.com/newzt/rzqydtz/

                        = この稿おわり =
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