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中国ビジネス・急がば回れ! ―――― by FROMFAST007氏

☆ 中国を消費市場と捉えるリスク ――――――――― 2001/05/23
今回は腰を据えて中国経済の将来性に注目してみたいと思います。
テーマは消費市場、すなわち"モノの売り込み先"としての中国の将来性です。

(1)あくまで"世界の工場"として魅力がある中国経済

多少の鈍化が見込まれているとはいえ、中国経済の高度成長は今後しばらくは
続くだろうという見方が内外の定説になっています。
また、WTO加盟がほぼ確実視されているなか、日本を含む外国企業はこれま
で高い関税で実質不可能だった商品の中国向け輸出に商機を見出そうとしてい
ます。

また、規制だらけであった中国経済が徐々に対外開放されて進出可能な分野が
増えてくると予想されることも期待に拍車をかけています。
開放分野として将来性を期待されている業種には金融、通信、小売業などが挙
げられているようです。
期待されている理由を纏めると、大体以下のようになると思います。

  i) 人口大国としての魅力。
   高所得者層の比率は小さいが、絶対数で見れば依然魅力的。

 ii) 外国商品の輸入とサービス業は従来大変規制が厳しく、市場開拓余地が
   大きい。

iii) 中国のサービス業はかなり非効率で、外国企業は競争すれば優位に立て
   る可能性が高い。

中国の街を歩いていると、団地の壁に"WTOの挑戦に真正面から立ち向かい、外
国と競争しよう"という勇ましい落書きがされていたりします。
また、メディアにも国際競争自体を否定する論調は皆無で、WTO加や経済の
グローバリゼーションに対して自己改革を積極的に進めて行こうという気概が
至るところで感じられます。
従って、実際に制度面では従来の規制は意外に早く撤回されて平等な競争環境
が整うのだろうと思います。

しかし、結論を先取りしていうと私は以上のようなメリットは確かにあるが、
それでも中国を消費市場として見ることは非常に危険だと考えています。
以下ではなぜ危険なのかということを書いていきます。

そういった問題は生産企業(例えば合弁工場)でも当然起こりうるという意見が
あるかもしれません。
その通りなのですが、ここで私が消費市場にこだわる理由は(4)消費者相手
ゆえのリスクで示しています。
従って、個別の問題は後回しにして(4)をまず読んでも議論に大過はありま
せん。

なお、最初に断っておきますが、ここでは商品の対中輸出と小売業の中国進出
に話を絞ります。
金融、通信も広い意味ではモノ(サービス)を売る業種ですが、非常に特殊な
分野なのでここでは扱いません。

(2)輸出先としての中国

先ほどあげた将来性はあるものの、商品の輸出に関して考えられる"落とし穴"
を考えてみます。

i)感情リスク

これは私が思いついた呼び方ですが、商品に欠陥が発見された場合になぜか民
族差別と結び付けられたりしてマスメディアでキャンペーンが展開されたりし
ます。
場合によっては事故に遭遇した消費者から高額な賠償請求を受けることもある
ようです。

その例として、三菱のパジェロ事件がありました。
パジェロのようなRV車は実は中国内陸部でよく売れているのですが、日本でも
報道された通りブレーキに欠陥が見つかりました。
三菱自動車は直ちに無償修理の体制を整えましたが、中国の新聞は些細な問題
を取り上げたり内陸部の消費者が交通事故にあった例を何度も報道したりして
反三菱、反日キャンペーンを展開しました。

聞いた話では、新聞で取り上げられた事故事例の多くは密輸車から発生したそ
うです。
その真偽は分かりませんが、商品の欠陥がすぐに民族感情に結びついて話がこ
じれていくことは意外に大きなリスクだと思います。
また、中国の司法機関は共産党の指導下にありますから法律による理性的な解
決もあまり期待できません。

ii)偽造製品の問題

ソニーの出井社長が昨年北京大学で講演したのですが、その際に北京大学の学
生が“出井社長は中国市場を重視すると言うのになぜプレイステーション2を
中国で売らないのか”と質問したところ、“中国ではソフトの海賊版がすぐに
氾濫するから、著作権の維持が難しいからです”と即答されていたことが印象
に残っています。
実際、音楽にしろブランド品にしろ、街じゅう至る所で海賊版が売られていま
す。

もちろん中国政府はこの問題を深刻に捉えているので大変厳しい取り締まりが
行われています。
しかし、警察が去っていくと海賊版の売り子がどこからともなく一斉に道端へ
戻ってきます。
また、同じ音楽CDなら1,000円の本物よりも200円の海賊版の方につい手が出て
しまうというのは消費者の本音でもあります。

需要は確かにあるわけですから、これを満たそうという動きは政府が必死に押
さえつけてもなかなか解決しそうにありません。
中国には"上に政策あれば下に対策あり"という有名な風刺がありますが、これ
を地で行くような状態が今後も長い間続くように思えます。

iii)希薄なクレジットの概念

貸したお金がなかなか期日通りに返済されないという問題も同様に深刻です。
私は以前貿易金融の仕事をしていましたが、中国向けの仕事は正直非常に気が
重かったことを憶えています。

深く立ち入ると長くなってしまいますが、お金を期日返済しなくても構わない
という法律、制度がある筈もなく、これも社会習慣に根ざすものだと言わざる
を得ないでしょう。
但し、ここで述べているのは健全に営業している商品の買い手や消費者を対象
にしたものです。
企業や消費者の信用リスク(破産リスク)はどこの国でも共通のリスクなので、
ここでは対象にしていません。

iv)非効率な流通

これに関しては資料や本に書いてあることを参考にするより他ないのですが、
運送の遅延や運送途中の事故が非常に多いそうです。
実際、北京を走っているトラックを見ると実感ではその半数以上が空荷で走っ
ていて、相当非効率なことをやっているのだろうという感じはします。

以上のような独特のリスクや問題が考えられるわけですが、こういう問題は市
場が開放されて規制が撤廃されてもなかなか改善されないのではないでしょう
か。
特に感情リスクは、日本企業にとって決して見過ごせない、かつ長期間存在す
る問題だと思います。

(3)小売業の展望

小売業の進出を考える場合にまず意識する必要があるのは、対中進出を考える
場合にターゲットとされているのは中国人の消費者であるという点です。
これは日本の小売業にとってかなり特殊なことです。
例えば欧米に進出している日本のデパートは、実はかなり小さな店舗で現地ま
たは観光客の日本人を相手に商売しているケースがほとんどです。
こういうケースでは、日本のデパートは当然のように日本の流儀に従って商売
すればいいわけです。

 しかし、中国人の消費市場で成功しようとするなら、

  i) 日本企業には出来るが中国企業には提供出来ない、かつ

 ii) 日本人ではなく、中国の消費者から支持される

   という二つの条件を満たすサービスを提供する必要があります。

問題は、日本人と中国人という全く国民性や消費パターンが違う国民の間でこ
の条件を満たすような商売が見つかるかという点です。
私にはこれが思いつかないのです。
例えば、日本人は食材の新鮮さを非常に重視しますが、中国人はそれよりは低
価格を望むような気がします。
中国人の所得が低いからというより、彼らが日常食べる中華料理は炒め物が多
いので食材の新鮮さは味に余り影響しないだろうと思うのです。

北京にはイトーヨーカドーとそごうが進出しています。
イトーヨーカドーは見事なまでに現地化しており、いつも中国人のお客でごっ
た返しています。
ただ、日本人の私が買いたいと思うような物は非常に少なく、中国系のちょっ
と気のきいたデパートと殆ど変わりません。
これだと、中国系と競争する場合の優位が確保しづらいでしょう。
(多分、イトーヨーカドーは当面北京では利益を度外視しているんだろうと思
います。)

一方のそごうは完全に日本人に合わせていて、私たちにとっては安らぎの場所
です。
しかし立地条件が素晴らしいにもかかわらず売り場は結構閑散としています。
こうした、文化の違いという問題を乗り越えたとしても、更に商品の輸出の項
で挙げたリスクや問題のいくつかがあることを考えると、小売業への進出も容
易ではないように思えます。

(4)消費者相手ゆえのリスク

ここまで商品の対中輸出や小売業進出を例にして、中国を消費市場としてみた
場合のリスクを挙げてみました。
ここで挙げたリスクは全て市場開放や規制撤廃で解決することは出来ないもの
であることも説明しました。

しかし、こういった文化あるいは社会習慣の違いから発生する問題は合弁企業
の工場を運営する場合にも共通だという意見があるかもしれません。
その通りなのですが、工場あるいは事務所、支店での出来事であれば問題に初
めて遭遇した場合は止むを得ないとしても、労働契約や取引条件を改めること
で再発を防げるでしょう。
最後の手段としては労働者を解雇したり取引先と関係を解消するという方法も
一案かもしれません。

実際には、労働者の賃金を高めに設定することによって労働者の意欲を掻き立
てて、彼らに日本式の効率的な生産方法を伝授するというやり方が定着してい
るようで、労働者も手に職を付けるために日本から来た技術者から貪欲に知識
を吸収しているというユニクロ中国工場のレポートがありました。
(AERA5月7日号)
労働者または取引先との関係は長期的かつお互いに相手を知ったうえでのもの
なので、トラブルを未然に防ぐことは比較的容易なのではないでしょうか。
(あくまで比較です。生産側も大変苦労をされていると思います。)

しかし、消費者の場合は関係が刹那的で匿名性がありますから、どういう問題
が発生するかなかなか予測がつかないのではないでしょうか。
労働者と違って、長い目で付き合ってお互いを理解するということが出来ない
ことは大きな違いだと思います。

また、欧米のように司法制度や比較的公平なマスメディアが発達している地域
では、不条理な問題が理性的に解決されることを期待できますが、中国でそれ
を期待することは当面無理でしょう。
従って、統計上の数字や法律の文言上は大変魅力的だからといって中国を将来
の巨大消費市場と期待して進出することは非常に大きな冒険なのではないかと
私は思います。

付記:この件については、北京に生活している経験と直感から考えを述べてみ
ましたが、実際に中国への商品輸出や小売を行った経験があるわけではありま
せん。
もし読者の方でこの分野につき経験のある方がいらしたらご感想を是非お寄せ
ください。

参考資料:
富士総合研究所『WTO加盟で中国経済が変わる』東洋経済社、2000年。
→中国のWTO加盟について、良くまとまっている。
日本興業銀行産業調査部『中国産業』日本経済新聞社、1999年。
→中国経済を産業別に分類し、具体的な分析をしている。
AERA 2001.4.30-5.7号 p.8
→ユニクロの中国工場レポート。
中国経営報(中国語)3月20日号
 http://www.cb.com.cn/1311/1311b1.htm
→パジェロ問題と日航問題を日本人の対中観と結びつけたコラム。

                        = この稿おわり =
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