☆ カルカッタ編(5)「乞食さん(中編)」――――――― 2002/02/20
by 藤田健さん
インドに入国してから、随分たくさんの乞食さんと出会ってきた。そして日々
彼らのことを眺めているうちに、色んな事が解ってきた。乞食さんというのは
見方によっては究極の営業マンといえるかもしれない。なにしろ、売りつける
商品もないのにお金を受け取ろうという商売なのだから。
乞食さんも、人によって仕事(?)のやり方は様々、まさに十人十色だ。まず、
どんな乞食さんが稼げるか。やはり、創意工夫をしている乞食さん、営業努力
をしている乞食さんが稼げているのである。いつも定位置に座って、ひと言も
しゃべらず全く愛想のない乞食さん。
が、単に座っているだけの乞食には通行人は目もくれない。乞食なんて、イン
ドでは珍しくも何ともないのだから、単に座っているだけでは誰も同情なんて
してくれない。最低限、施しを入れてもらう為の缶カラを振って音を出し注意
をひく。
更には、呼び込みよろしく「哀れな乞食にお恵みを〜」といった感じのせりふ
を一日中唱えて声をかける。このあたりのやり方は、商売でいえば、店を開い
ての待ちの営業であろうか。これを熱帯インドの灼熱の下で繰り広げるのであ
る。はっきりいってかなりしんどい方法である。
これに対して、いわば飛び込み営業とでもいうべき方法がある。ツーリストや
お金持のところをまわっての直撃作戦である。狙った相手に声をかける。これ
が上手な乞食さんというのは、声を掛けるタイミングがうまかったり、相手が
ひるんだ一瞬の隙に、あうんの呼吸で憎めない笑顔を見せたりする。
営業の技術はないけれど気迫で勝負というタイプの乞食さんは、通行人の前に
立ちはだかる。それがもしもまだ子供ならば、通行人の腕や足にまとわりつい
てのキャッチセールスを繰り広げる。
若い女の場合は、哀れみを引く為に乳飲み子を抱え、お金がもらえるまで延々
と付きまとってくる。もし乳飲み子がいなければ、お金を払って誰かから借り
てくることさえあるそうだ。無論、本当に乳飲み子を抱えて食べるのに必死の
可哀相な親子の場合が大半だとは思うのだが。
人望のある乞食さんの場合には、施しをくれるお得意さん(商店など)を持って
いる。ルートセールスよろしく、決まったルートを決まった時間に施しを集め
てまわる。
英語が上手な乞食さんの場合、英語力を駆使してバックパッカーと世間話を繰
り広げ、どうにかして顔見知りとなる。そして、食事やお茶のご相伴に与った
り、病気の時に薬を買ってもらったりする。
バックパッカー相手に乞食をしている人の場合、バックパッカーから現金をせ
しめるのは難しいが、しかし意外と食事やタバコ、そして病気の時には薬など
の現物をせしめるのは比較的容易だという事をよく心得ている。
ツーリストと顔見知りになっておくと、ツーリストが旅立つ時などに、たまに
不用品(衣類等)をもらえる事がある。そしてその不用品は、乞食さん自身が使
えないものだったとしても、物々交換の品になったり、場合によってはお金に
化ける可能性だって充分ありうる。もしも壊れたカメラやウォークマンなどが
もらえたりしたならば、ほんとうに大ラッキーだ。
どうもインドの乞食さんはプライドを持って乞食をしているらしいと私は書い
たが、実際にはもう少し事は複雑な気がする。まず、乞食には二種類の人がい
ると思う。生まれついての乞食と、落ちぶれて(或いは働けなくなって)乞食を
している乞食である。
生まれついての乞食さんというのは、最下層カーストで先祖代々の世襲制で、
いわば、由緒正しい(ホンマかいな?)乞食さんである。彼らはどうも自分で納
得して乞食をしている、プライドの高い乞食という気がする。
しかし、世間からすれば乞食はやはり最下層であり、当然みんなから見下され
る。つまり、落ちぶれて乞食となってしまった人たちというのは、まだ普通に
働いていた頃には乞食の事を見下していた訳で、その乞食に身を落として生活
をしなければならないというのは、かなり情けない気持で乞食をやっていると
思うのである。
そして、一度乞食となってしまったら、たとえお金を持っていても顔を知られ
ている地域では食堂なんかには入れてもらえない。やはり差別されるわけであ
る。ただ、インド社会の優しいところは、同じ身を落としての乞食であっても
身体に障害のある者とか老人など、明らかに働くことが難しい乞食の人たちに
対してと、単なる怠け者の乞食に対してでは、あきらかな違いがあるというと
ころである。
そんな彼ら乞食の人たちの生活を見ているうちに感じた事は、世襲制で乞食を
やっている人達以外の乞食さんは、できる事なら仕事を見つけて働きたい、と
思っているんじゃないのかな〜ということである。
だって、もし自分があの立場になったなら、あの商売はかなりつらそうな上に
プライドは傷だらけで、とても割に合うとは思えないからである。無論、ハナ
からプライドなんか捨て去って、自由気ままに楽々と商売をこなしている乞食
さんも大勢いるとは思うのだが。
= つづく =
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