☆ モンゴルの大平原(2) ――――――――――――― 2001/11/21
by 藤田健さん
※ ゲル:木とフェルトでできた分解容易な移動式住居。主に遊牧民が使って
いる。包[パオ]は中国語での呼び方――――。
ゲルは、老夫婦のものと、その長男夫婦のものとの二つが建っていた。彼らの
家族構成は、老夫婦とその息子たち3人、そして長男の嫁とその子供達3人の
計9人。長男はまだ20代前半だ。
彼らに、泊めて頂ける事への礼を述べ、土産のウォッカとクッキーを手渡す。
まずは、老夫婦のゲルにお茶に招かれた。どうやら、外国人を泊めるのは初め
てのようだ。もしかしたら、外国人と話すこと自体が初めてかもしれない。
ゲルに入ると左右にベッドがあり、中央はカマドになっていて、ミルクを温め
たりしている。そして一番奥には、小さなチベット仏教の祭壇が祭られている
ので、そこが上座のようだ。都会育ちの若者アムラー君も、実は遊牧民のゲル
に入ったのは初めてのようで、勝手が分からないようだ。
こんなとき、旅慣れた壮年のドライバー氏が実に頼りになった。ゲルの中での
我々の座るべき位置や作法など、様々な事に気を遣ってくれ、彼らとも世間話
をしながら好い関係を築いてくれる。
しかしさすが遊牧民のゲルだ。中は乳製品の匂いで充満している。羊のミルク
にチーズ、バター。ゲルの中では常に、羊のミルクを保存できる乳製品に加工
すべくミルクを煮沸している為だ。
困ったことに、私はこの乳製品の匂いが苦手であった。だから彼らの振舞って
くれる乳茶など、実は大の苦手であった。今まで外国を旅してきて、食べ物で
困ったことなどない私も、今回は食料持参で草原へやってきた事を感謝した。
夕方、アムラー君と、近くの(といってもバイクで一時間以上かかるが)村へ買
い物に出かける。――――草原をバイクの二人乗りで走っていたら、突然野犬
の群れに襲われた。道無き道をバイクで飛ばすが、荒地の二人乗りでは、全開
で飛ばしてもなかなか野犬を振り切れない。ーーー恐ろしい体験だった。
買い物を済ませての帰り道、思ったより日が暮れるのが早くあたりは真っ暗に
なってしまった。運悪く、その日は月さえ出ていない本当の星明りだった。国
道を折れるにも、目印らしいものがない。しかし、本番はこれからだった。
獣道が縦横に走る草原へ入ると、四方に真っ黒な丘が見えるだけの視界は目標
物が皆無だった。これでは一度道を間違って方向を失ったならば、野宿は必至
だ。バイクのガソリンにも限りがある。野宿ができるような装備は何も持って
いない。
初夏とはいえ、モンゴルの夜は冷える。そして、野犬の襲来だってありえる。
つまり、野宿という選択肢はないに等しい。ーーー状況は緊迫していた。
ともかく夢中で走る。しかし途中から、果たして道が正しいのかどうか自信が
なくなってしまった。いくつもの分岐点を通り過ぎる。だが、未だに帰り着か
ない。段々と、この道が合っているのだろうかと疑心暗鬼に陥りだす。胸が締
め付けられるような心細さだ――――。
丘を越えた瞬間、遥か彼方にゲルの灯が見えた!たすかった〜!と感極まる。
夜は、静寂な草原に寝ッ転がって満天の星空を楽しんだ。そして我々日本人二
人は、長男夫婦と子供達と共にゲルで眠りに就いた――――。
翌朝は、彼らにモンゴル相撲を挑む。しかし、組み合ったとたんに足元をすく
われた。草原で鍛えられた彼らとは、所詮勝負にならない。柔道の心得が少し
ある金森氏も、善戦するがやはり敗退。
都会育ちのアムラー君も歯が立たず、ツーリストチームの全敗で終わる。しか
し、場を和ませる事には成功した。彼らの生活に少しでも入り込む為に、まず
は親しくならなければ。
次は、オフロードバイクで遊ぶ。彼らをかわるがわる後ろに乗せて走り回る。
変化の少ない生活をしている彼らにとっては、かなり楽しい時間が持てたよう
だ。そして今度は、彼らの馬に乗せてもらう。自分の中では、少しぐらいは馬
で草原を走れるだろうと思い描いていたのだが、観光用に調教されていない馬
は気性が荒く、一歩も歩くことさえできずにあえなく退散。ーーー情けない。
そんな事をしながら時を過ごしているうちに彼らとも打ち解け、やっと自分達
の居場所ができた気がした――――。
ーーー午後は、いよいよバイクでの大平原ツーリングを敢行する。
もしも、大平原での単独ツーリング中に事故ったら完全にアウトなので、ここ
は安全を期してジープの伴走付きで走る。日本ではできない気分爽快なノーヘ
ル(ヘルメットを着けず)での走行。
これが風が感じられて最高に楽しかった。見渡す限りの草原を風を切って疾走
する。道などまったくない大平原。自然と笑みがこぼれてしまうほど楽しい。
只々無邪気に走り回る。快晴の草原を、気分にまかせて縦横に疾走する。爽や
かな空気を全身で感じながら、広〜い青空の下を地平線に向かって走る。
ーーー無心に幸せを感じる瞬間だった。
一時間以上走った後、砂丘に到着する。ジープに乗っていたみんなと一緒に砂
丘でのバイク遊び。砂丘の上は転んでも痛くない代わりに、ハンドルは取られ
るし、後輪は埋まってしまうしでなかなか走るのが難しい。だから、お互いの
苦戦ぶりを見物するのがまた楽しい。
そんな楽しいひとときを過ごしてから、さて出発と思ったら、エンジンがかか
らなくなってしまった。30分ほど試してみるがダメ。幸いジープが伴走して
いるので命に別状はないけれど、もしこれでバイクが動かないとなったら大事
[おおごと]だ。
遥か彼方の町まで行ってトラックの手配をしなければならず、時間と金が幾ら
掛かるかわからない。結構青くなる。車載工具しか持っておらず、厳しい状況
だが、とにかくキャブレターを分解してみる。しかし、砂地の上なので下手に
分解して砂で汚れてしまっても万事休すだ。
またしても追い詰められた状況の中、途方に暮れた。
しかし、神に祈りが通じたのか、試行錯誤の末に何故かエンジンが復調して難
を脱した。ほんとうにホッとした。ーーーその後、近くの小川で水遊びをして
からゲルへと戻る。
何はともあれ、終りよければ全てよし!今日も一生忘れない最高の一日が過ご
せた!
= この稿つづく =
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│★│お便りで頂きました感想。
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┌──────────「関東地方の女性さん」 2001/11/28
何時も、スケールの大きな旅の様子が伺えて、毎回、楽しく読ませて戴いてお
ります。ーーー何時も知人と話すのですが、藤田さんって日常はどんな風に過
ごしておいでなのかしらん、興味津々だね、と。多分、ちまちました事には決
して拘らないおおらかな生活を送っておいでかと思います。
朝まだきの中、パソコンに向かって大笑いをしているおばさんが一名います。
女が持ち合わせていない、実におおらかな性格が又、良いですね。
この企画が、ずーーっと、続きますように。
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┌──────────「藤田健さんから」
身に余るお褒めのお言葉、どうもありがとうございます。
現実の私の生活は…
ただ、人によって見方は様々ですが、私が変わり者だと多くの友人達は口にし
ます。どんなふうに変わっているかって?それはまあ、おいおいお話しいたし
ましょう。
私は日頃「浮浪雲(ジョージ秋山作の漫画、ご存知ですか?)のように生きら
れたらな〜」なんて思ったりして暮らしています。別の言い方をするならば、
「俗っぽい仙人になりたいものだと思っています」
ーーーあくまで、理想のお話ですが。
もし、私の日常に興味をお持ちの奇特な方がいらっしゃるのでしたら、オフ会
でも開きましょう!喜び勇んで参加させていただきます。ちなみに私は神奈川
県在住です。(今のところはですが…)
では、またのお便り、心よりお待ちしています。
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オフ会=飲み会)いい響きですな〜。(○^ε^○)。ウ〜〜ッ!したイッ!
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└→ 感想や激励をよろしくお願いいたします。
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