☆ 成都誤認逮捕事件(5) ――――――――――――― 1995/05/26
by ブーザンさん
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「災難と言われるのは、なにか無実だという証拠でもあるからですか?」
ときいてみたところ、困った顔で咳払いをして、
「いや、刑事部長が、彼は無実だな、と言っていたものですから・・・」
「じゃー、どんなことから無実なのか知っていますか?」と聞くと沈黙した。
支配人に、私がなんの事件の犯人とされているのか聞いてみた。
事件は、夜7時から7時半ぐらいの頃に、あるホテルへ強盗が入った。部屋に
忍び込んで物色しているところへ、宿泊しているホテル客が帰って来てもみ合
いとなり、強盗が隠し持っていたナイフでホテル客の腹部を刺して逃走したと
いう。傷つけるつもりはなかったのだろうが、結果として居直り強盗になって
しまったようだ。
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この数年前ぐらいから、日本人観光客がホテルで殺される事件が多発していた
が、ほとんどの場合はこの居直り強盗によるものであった。
そのホテル客の証言の、人相・背格好・服装などが私によく似ていたとのこと
であったが、私の場合はさらに運の悪い事に、例の喫茶店も私の容姿を警察へ
通報していた為、警察は躍起になって該当者を探していたらしい。そんなとこ
ろに手配通りの私が現れたので逮捕されてしまったようである。
おまけに、身分を証明するものを何も所持していなかった為、刑事達は完全に
私が犯人であると確信してしまったようだ。
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しかし、それでも刑事部長だけが冷静に私を判断してくれた、と支配人に話し
たところ、「以前、私のホテルにも強盗に入られたことがあります。その時は
犯人は直ぐに捕まりました」などと話してくれた。
支配人は「直ぐに釈放されますよ」と簡単に言い「少し刑事部長と話をしてき
ます」と出て行った。時計を見ようとしたが、左手に手錠を掛けられているの
でかがんで見なければならなかった。もう直ぐ4時になろうとしていた。
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別室で取調べを受けている女の子の事も気になっていた。
部屋の隅に、人形のように立っている警官に声をかけたが、聞こえない振りを
している。もう1度声をかけてみたが、微動もしない。さすがに3度目に声を
かけると「なんだ!」とひと言ながら反応を示した。あとひと押しと思い、も
う一度声をかけたらようやく近付いてきた。
私が「トイレに行きたい」と伝えると、困った様子で「少し待て!」と言い、
トランシーバーで、誰かと話をしていた。間もなく二人の警官が入ってきて、
机の脚から手錠を外して警官の右手に手錠を繋いだ。
トイレまで歩く間に、女の子の姿を見つけられないものかと、キョロキョロし
て歩いたが、見つける事ができないままトイレに着いてしまった。
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そこで手錠を外してくれるのかと思ったが、そんな素振りも見せない。片手で
は無理な事を訴えると、仕方ないなという顔で手錠を外し、トイレの窓の鉄格
子と繋いだ。なんとも不自然な形で用を済まさなければならないため、普段よ
りも時間がかかった。トイレからの帰りに、またキョロキョロと見回した。
彼女は見つけられなかったが、刑事部長と出くわした。刑事部長は大きな声の
四川語で警官を叱りはじめた。何を話したのかは分からなかったが、手錠を外
させて、私を刑事部長の部屋に連れて行った。
何が何だか分からない?何が起ったのか聞いてみたところ、彼は「申し訳ない
!」と、頭を下げた。いったい何が起ったのか?
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3分もしないうちに、私を逮捕した刑事や、偉そうに椅子を壊した刑事たちが
ゾロゾロと刑事部長の部屋に入ってきた。みんな頭をうな垂れている。もう一
度刑事部長に聞いてみたが、ばつの悪そうな顔で「対不起!」を連発するばか
り。時間は、朝の5時近くになっていた。
外からドアをノックする音に、皆は音のするほうを振り向いた。警官が旅行社
の営業担当者を連れてきた。その営業担当に直接パスポートと外国人居留証を
渡したので知っていた。
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営業担当は、既にこの事件の概要を聞かされていたと思うが、私を見るなり、
「どうしたんですか?」としか言えないようであった。私は「そのパスポート
さえあればどうもしなかったですよ!」と、最後の力を振り絞って冗談を言っ
てみせた。
刑事部長は、机に肘をついて私のパスポートと外国人居留証を憮然たる面持ち
で眺めていたが、顔をタオルで拭ってからいきなり立ち上がった。
= この話つづく =
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